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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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新聞屋


 サッと俺の右斜め前に立った護衛騎士。騎士に睨まれた男は両掌をこちらに向けて無害アピールする。


「決して怪しいもんじゃござんせん! わたくし"フェデレイ新誌"のルーヒルと申しやす」

 正直口調からしてなんか怪しいが。灰色がかった水色の髪を後ろで適当に一つで縛った、三十代くらい、顎に無精髭、垂れ目がちでちょい悪っぽい雰囲気のイケオジ。服は近くで見るとちょっぴり薄汚れている。サッとメモ用の薄板を手元に用意して喋り出した。

「ちょっとばかしお話をお伺いしたいな~と……さきほどご一緒だったのは婚約者様でいらっしゃいやすか? シレンツィオ公女様?」

「そうですが……ああ、貴方、新聞記者ですか?」


 フェデレイ新誌……記憶にはないな。新しく出来た所だろうか。

 よく見るとルーヒルのすぐ後ろに隠れるように、かなり黒に近い緑の髪をツンツンさせた十歳くらいの少年がいた。釣り目の美少年だが、むっすり顔でこちらをじっと見ている。


「新聞?」

 ルーヒルが小首を傾げる。そういえばこっちの定期刊行物はまだ新聞とは呼ばれてないんだった。

「私、最近の情報誌をそう呼んでるんです」

「はあ……なるほど。わかりやすい呼び方でやんすな。新聞……」

「質問していいとは許可していない」

 ポーターが俺を隠すように立ちはだかり嫌そうな顔で言う。

「そう仰らず~~~なに、別に悪いことを書こうなんて話じゃなくってですね。将来、シレンツィオ派を率いて聖女様をお支えする重要人物であるアマデウス様に、今後の社交界の動きがどうなると考えているかご意見を賜りたく~……」


『有識者によると来年は……こうなります!』みたいな予想記事を書きたいのだろうか。インタビューする相手間違ってると思う。もっと……そういう専門の人に頼んでくれ。予言者とか。

 ポーターが拒否しようと口を開けたが、俺は片手を上げて止めた。

「私の意見なんて参考にならないと思いますよ。話してもいいですが、ここではちょっと……」と、一応答える姿勢を見せつつ周囲を見渡す。

 マスコミを無下にするのちょっと不安だからポーズだけでも愛想よくしとこう。

 大通りなので道は広く、馬車をここに置いて話しても他の通行の邪魔になるってほどではないが……人通りが多いので早くも注目が集まっている。

「ねえあれアマデウス様じゃない?」

「え、録音円盤を作った?!」

……なんて通行人役のセリフみたいな会話も耳に入ってきた。少し遠巻きに人が集まりそうな気配にルーヒルも、「あぁ~~~、ではお時間は取らせませんので、一つ二つだけ!」と食い下がった。


「楽師ノトスの件でコレリック侯爵家と揉めた話。王様から何にもお咎めがなかったって本当でやんすか? それは~、やっぱり王太子や第二王子殿下や王女殿下と仲がよろしいおかげで?」

「……陛下は、下男のやり取り程度でそう熱くなるなとコレリック候を宥めたと聞いていますよ。あと王女殿下とはそう親しくはありません、目をかけていただいた時期が少しあっただけで」


 今の国王陛下はたった一人の正妃の子だったので婚約が決まる前から王太子と呼ばれていたが、ユリウス様は聖女と婚約が決まった時点で跡継ぎとして確定、『王太子』と呼ばれることになった。

 正妃の子が複数いる場合は成長してから適性で指名されたりもするし、正妃の子と比べて明らかに優秀なら側妃の子が指名される可能性もなくはない。ネレウス様や第二妃がその気になれば熾烈な王位争奪戦が起きていただろう。本当に良かった仲良しで。


 ちらっと聞いた話だと……ネレウス様の母親の第二妃は、息子に対して忠実な侍女のようだという。元々信心深い人だったのもあり、神から予言の力を賜った息子を尊い存在として敬っているのだそうだ。息子が望んでもいないのに王位につけようだなんて考えはしない。

 大事にしているのには違いないのだろうが、母親に部下みたいな振る舞いをされるのってどうなんだろう。俺だったらちょっと嫌というか、寂しいな……。

 ネレウス様はそれが日常だからか別に気にしてなさそうだったけど。



「そうですかそうですか~、あ、でも聖女コンスタンツェ様とは実際お親しいんでしょ? 縁も所縁もないのに後援するくらいですし」

「友人として仲良くさせていただいていますよ。私もジュリエッタ様も、うちの楽師達もね。皆、薬局設立計画を共に推進する同志です」

「ペティロ大司祭様とも親交がおありになるとか……? 貴族とはほとんど交流を持たれない方なのにすっごいですよね? "祈り"の演奏会、特に"神よ人の望みの喜びよ"なんて教会のための曲みたいでしたけどぉ……楽譜や録音円盤を贈ることで信用を得た、と?」

「はは、いえいえ、賄賂なんて贈ってませんよ? 教会は地域の交流所のようなものですから、必要とする人へ薬を届けるためにも薬局と連携してもらいたい組織です。大司祭様は民のために快く協力してくださっています。演奏会を教会の方々にも楽しんでいただけてたら嬉しいですよ」


 単に俺がめちゃくちゃ神頼みしたい時期に企画したからテーマが祈りになっただけである。

 ネレウス様の暗殺未遂で散々な目に遭った教会の方々が、音楽で多少癒されてくれたらいいなという気持ちも普通にあったので嘘ではない。


 てか、あのペティロ卿が賄賂贈ったくらいで仲良くしてくれるわけないだろ。むしろ好感度下がると思うよ。

 大司祭が心から敬っている予言者の命を救うくらいのことはしないと……。ハードル高いな。


 冗談はさておきネレウス様を助けた後から、ペティロ卿から俺への好感度はカンストしてるっぽい。

 楽譜は普通に買ってくれたらしく『大変素晴らしい、教会でも取り入れたいと思う』って褒め手紙くれたし、神殿に行くと以前の三割増しくらいの良い笑顔で出迎えてくれる。

 聖女用治癒魔法についての質問もすぐ回答が送られてきた。調べてくれたが、傷跡を消すために聖女用治癒魔法が使われた記録は無かった。


 ルーヒルはにこにこしながら続ける。

「なるほどですね~~……コレリック候の話に戻りやすけれども。確かに、下男の買い取りくらいで熱くなりすぎですよね? 上級使用人ならともかく、下級使用人がいなくなろうがよそに移ろうが高位貴族は大して気にしないもんです。それなのに国王陛下に抗議文まで出した」

「…………」

「もしかすると、非難する理由は何でもよかったんじゃないですかね? 王家がアマデウス様への警戒心を思い出してくれれば、それでよかった……」


 探るような眼光。なんとなくルーヒルの方向性がわかった。多分ニフリート先生と同じような方向だ。俺が聖女を利用して殿下達に取り入って教会も懐柔して、いずれは国政を思うがままにしようとしてる奸臣だと疑っている。この調子だと俺の母親の悪評も知ってそう。


「……そうだったとしたらコレリック候はよく出来た忠臣ですね。でも違うと思いますよ。私の態度がよほど癇に障ったんでしょう。私もあの時は少々強気に出過ぎたと反省しています」


 コレリック候が抗議文まで書いたのは王家に俺を叱ってもらってノトスを取り戻したかったからだ。家の秘密を守るために。あと普通に俺にキレてたから。


「ほぉ~、そうですか、なるほどなるほど。……因みにアマデウス様は、公爵令嬢でなければジュリエッタ様に求婚なさらなかったでやんしょ? もしジュリエッタ様がいなければ、メオリーネ様に求婚なさっていた可能性もあったり……?」

 

 ルーヒルは小声でさらりとそんな爆弾質問をしてきた。あ゛ん?????


 普通に失礼だし機嫌を損ねて暴言吐かれてもおかしくないぞ……ああ、それが狙いだったりするんだろうか。『伯爵令息の本性! 記者にこんな暴言を!』みたいな。

 やっぱマスコミって信用ならねえなァ~~~~~!! 

 絵本で世間に印象操作した自分の過去は棚に上げつつそう思う。人当たりは良い(と思う)俺の目も冷ややかになるってもんだ。


「――――私はジュリエッタ様がどんな身分であろうと求婚しましたよ。男爵令嬢だろうと、平民だろうと」


 公爵令嬢として育ったからこそジュリ様はあんなに気高くて頭が良いんだとは思えど、身分が高いから求婚したのではないと強調しておく。

 俺は(精神年齢的には)大人だし、ムカついてはいるけどキレたりしないぜ。カッとして行動することの危なっかしさはタイムマシンで未来に戻る某名作映画で学んだ。

 印刷物の流通が安定してきたら情報の拡散が格段に早くなる。良い面も悪い面もある。悪い噂なんかあっという間だろう。平民の発行する新聞なんて、と侮っていたらおそらく痛い目に合う。


「……ハハハ、馬鹿な質問しやした、どうかお許しを」

 信じてなさそうな笑顔だった。

 つーか本当に地位目当てだとしてもそうと白状するわけないのに何で訊いたんだろう。やっぱ怒らせるためか? それかアホだと思われてる??

「……今回は許しますが、次はないですよ」

「へえっ! 勿論でさ」

 少し声を低くして釘を刺しておくとルーヒルは体を折り曲げるようにして深く頭を下げた。


 ふと視線をずらすと、ツンツン髪少年がめちゃくちゃびっくりした顔で固まっていた。ど、どうした?

「あの、彼は?」 

 俺が首を傾げてそう訊くと、「ああ、これは小間使いつうか、助手みてえなあれです、お気になさらず……えっ、どうした?!」

 ルーヒルも驚いてた。少年が何にびっくりしていたのかは結局わからなかった。

 

 これ以上は待てないと思ったらしいポーターが強制終了し、俺は馬車に乗って帰宅した。


「フェデレイ新誌って知ってる?」と新聞集めをしてもらってるデミオにさっきあったことを話してみると、「あぁ~~~~……そこ、友人が勤めている工房で……それ、多分友人の上司です。結構危ない取材をしていて周囲もひやひやしてるそうで」だそうだ。意外と世間は狭い。



※※※



「偉ぶらねえし愛想が良かったなァ、あんなに丁寧な受け答えされたの貴族じゃあ初めてだ。ちょっと好きになりそうだったじゃねえか。稀代の人誑しと呼ばれるだけある」

「……"女誑し"じゃなかった?」

「あれ、そっちだったっけな。まあいい、どうだったビート。一個くらい本当のこと言ってたか?」

「……一個だけ、嘘だった。『あの時は少々強気に出過ぎたと反省しています』ってのだけ、嘘だった……」

「……はぁ?! 他は全部マジだってのか?!」

「うん。だから驚いた……」

「………………ひとまず、ブス専だってのはマジだったみたいだな……」


 男と少年は裏口から劇場に入った。劇場のスタッフに目配せし、淀みない足取りで休憩室にまで入る。


「よお、どうなったんだ? アマデウス様接待計画は」

 お茶を飲んでいた支配人は嬉しそうに立ち上がって手を広げた。

「おおルーヒル、接待は断られたよ!! でも録音円盤は作ってくださるってさ!!」

「はっ? マジかよ?」

 テタルティを通じてアマデウスと交流があった演奏家が笑いながら横から口を出した。

「だから私は言っただろう、アマデウス様は音楽が良ければ評価してくださるって」

「接待を断られた時はもうこの劇場は終わったと思ったぁ……本当によかったぁ……」

 支配人は机に突っ伏して嬉し涙に濡れた。

 和気あいあいとする休憩室から出て、ルーヒルは頭を搔きながら空を仰いだ。


「ふ~~~~む……弱みを握れるかと思ったのにボロを出さねぇなぁ。楽師ノトスの件で多少評判を落としたが"修道女"の評判が上々だったからそれも消えかけだし……絶対裏でなんかやってると思うんだが……」

「……ルーヒル。初心を忘れんなよ」

「ん? ああ、心配すんな。俺は悪人を晒し上げてぇのさ、善人を陥れたりはしねぇよ。アマデウスが嘘吐きじゃねえとはいっても、特ダネがないか引き続き調べっぞ。頼りにしてっからな、ビート」

「ん。頼りにするならもうちょい給料上げろ」

「……ネタ掴んだらな!」



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