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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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五年生



 雪解けのち新学年。

 桜や梅……ではなくセラスオムやフレズタオが蕾を付け始め、空気の冷たさも和らいできた。 


 成績が貼り出されている掲示板の前でリーベルトとペルーシュ様と合流した。彼らは一日前に寮に戻ってきているから登院が早い。

「お久しぶりです~」

「デウス、見て見て!」

 リーベルトが少し興奮した面持ちで掲示板を指差す。

 おお、一位はジュリ様、二位はアルフレド様。何と一点差の接戦でジュリ様が首位に返り咲いた。

 三位にフォルトナ嬢、――――――――え、五位に、プリムラ様がいる!! 

 俺は……七位! また去年と同じか~~!! 上位陣が手堅くてなかなか順位が上がらん!

 ペルーシュ様が八位、これも確か去年と同じ。そして―――

「え、リーベルト十位!?」

「そうなんだよ、初めてハイライン様に勝ったよ!」

 ハイライン様が十一位、カリーナ様が十二位だった。

「すごいじゃん、おめでと~~~!!」

「ありがとう、十位に入るの目標に冬休み頑張ったから、うぅ、嬉しい……」

 わいわいしてたら背後に不穏な気配を感じて振り返る。案の定ハイライン様が機嫌悪そうな顔をして立っていた。その三歩後ろに苦笑しているアルフレド様。

「あまり調子に乗るなよリーベルト……来年は私が勝つからなァ……」

「わ、私だって頑張りますから負けませんし……」

 額に青筋立ててるハイライン様に少し気圧されてるリーベルトを他三人は微笑ましく見守る。

 掲示板の前から少しずれて話していると近付いてくる黒髪が見えた。

「ジュリ様! お会いしたかったです」

「御機嫌よう、わたくしもです、デウス様」

 俺を見つけて少し早足で近付いてきたジュリ様と片手を取り合うと周囲の視線がぐっと集まってきたのがわかる。暫くぶりに見るジュリ様の微笑みが尊くて目が覚める思いをしているところなのでそんなに気にならないけども。

 その少し後ろからカリーナ様とプリムラ様も歩いてきて合流した。

「あら、今回はリーベルト様に抜かされてしまいま……え、プリムラが五位!?」

「まあ……今回は手応えがありましたから、よかったですわ」

 カリーナ様が驚いて、プリムラ様は少し目を見開いた後扇で口元を隠した。多分ニヤついてる。

「プリムラ様を見習って私ももっと頑張ります」

「え、えぇ。リーベルト様も順位を上げられたようでおめでとうございます」

 リーベルトが笑いかけるとプリムラ様は照れ臭そうにしていた。少しずつ打ち解けてるっぽい?


 こっそり聞いたところ、俺とジュリ様が冬休みに手紙を送り合っていることを知っていたリーベルトは勇気を出してこの冬プリムラ様に手紙を出してみたそうだ。すると返事が来て、その中で『自分達も何かお揃いの装飾品を付けないか』とプリムラ様に提案されたらしい。

「手紙で相談して、揃いのブローチを作ることになって……」

「よかったじゃん~~~!」

 彼女の方からそう提案してもらったことで、リーベルトも自分の一方通行ではないと安心したようだ。


 新入生達が挨拶を手早く済ませられるように俺とジュリ様、アルフレド様とカリーナ様はなるべく固まっていた。シレンツィオ公爵家とタンタシオ公爵家が友好関係にあると示せて一石二鳥。

 俺がジュリ様と手を繋いでいるのに気付いたアルフレド様が「私達も繋いでおきましょう」と爽やかに笑んで、カリーナ様は「えっ、え~~~、えーと、は、はひ……」とぷるぷる赤面しながら了承した。それを見てアルフレド様もほんのりと頬を染める。

 初々しい。そうそう、ラブラブなところはね、見せつけといてなんぼですからね俺達。


 いつも入学式はさっさといなくなっていたネレウス様が、今年は新入生からちゃんと挨拶を受けていた。真顔だがそこはかとなく面倒くさそう。

 ネレウス様の傍にはジークが側近兼護衛として付き添っている。多分真面目なジークに将来の社交のためにもちゃんと顔合わせした方が良いと説得されたんだろうな。

 ジークが苦労するんじゃないかと心配していたけど、ネレウス様も王族らしい強引さはあれど自分勝手というほどではないし、案外バランス良いのかもしれない。

 王女殿下もロレンス様と一緒に囲まれている。遠目で見ただけだが以前より仲が良さそうに見えた。


 劇的な変化といえばコンスタンツェ嬢だ。

 新入生がなるべく挨拶に行っとくべきなのは王族や公爵家、派閥のトップの家の子くらいだが、今年はまだ男爵令嬢でしかない彼女の元に挨拶の列が出来た。隣にはドロシー嬢が侍女のように控えて目を光らせつつ、コンスタンツェ嬢も危なげなく笑顔で対応していた。予言者からこうなることを聞いていたのかもしれない。

 世論が彼女を次期王子妃と認め始めている。


 卒業パーティーでのハプニングのことは卒業生やその親から冬の間に広まって皆知っているようだったが、俺やジュリ様に何か言ってくる者はおらずホッとした。


※※※


 数日経った後の放課後。帰り支度を始めた教室でジュリ様が近付いてきた。

「お疲れ様です、ジュリ様はこの後訓練場ですか?」

「はい、そうなのですが……」

 生活サイクル的にジュリ様は訓練していく日だったはず、と思ってそう言うとなんだかもじもじして俺の様子を窺っている。言いたいことがありそうなのでとりあえず黙って待つ。

「その、こちら、受け取っていただきたくて……」

 ジュリ様が懐からハンカチを俺に差し出す。受け取ると真新しい感じがした。控えめなレースが付いた白いハンカチの隅に、シレンツィオ家の紋章が刺繍されている。

「……この刺繍……」

「ぁっ、や、やっぱりわかってしまいますかっ? 侍女達はうまく出来ていると言ってくれたんですが、あまり慣れていなくて……」

 貴婦人が自分の名前や紋章を刺繍したハンカチは、騎士の恋人への贈り物として鉄板のアイテムだった歴史がある。その後貴族女性から男性へのプレゼントとして一般的になった。こういう凝った刺繍があったり高い装飾があったりするハンカチは普通に手を拭いたりする物とは別に、胸ポケットとかに飾りとして使ったりお守り代わりに持つ。

「ジュリ様が手ずから? ああ、拙いと思ったんじゃないですよ、御礼を何か考えると仰っていたからもしかしたらと思って……ありがとうございます! 嬉しいです、出来得る限り肌身離さず持ちます」

 確かに至近距離で見るとほんの少し糸の縫い目がズレている所があったりするが、充分綺麗な出来だと思う。俺のために慣れないことを頑張ってくれたことが素直に嬉しい。貴族だと本人手作りの物を貰う機会はほぼないような気がするのでより愛を感じる。少し不安そうにしていたジュリ様がパッと嬉しそうになってハイ可愛い。

「あのオルゴールの御礼としてはささやかですが……」

「いえいえ! 充分過ぎます!」

「『あのオルゴール』とは……?」

 会話を聞いていたらしいフォルトナ嬢達がゆるりと近付いて訊いてきた。ジュリ様がピアノ型オルゴールのことを説明すると「ま~~良いですわ~」「アマデウス様はそういうこと出来るのがずるいですわよね」「本当本当~」とワヤワヤ褒めてくれた(『そういうこと』とは発売前の物を作れたりすることだと思われる)。

 

 裁縫・刺繍は女子が母親か家庭教師に習うもので、基本的に男子には教えられない。しかし貴族ならお針子に頼めばいいから実は不得手な令嬢も結構いるとか。楽器や魔法と同じで出来た方がいいけど出来なくても何とかなる立ち位置。そりゃ苦手な人もいるわな。ジュリ様は体動かす方が好きみたいだしあんまりやってこなかったのだろう。

 俺もこっちに来てから裁縫は一切習っていないが、前世の家庭科でやった裁縫は割と好きだった。

「……俺も刺繍、習ってみようかな」

 俺とジュリ様ではジュリ様の方が騎士だし、お返しに俺もハンカチ縫おうかな……と少し思った。

「刺繍を? ああ、デウス様は向いてらっしゃるかもしれませんね、器用ですし」

 呟きを拾われてしまった。男がそんなこと言うと変か、と一瞬思ったがジュリ様は肯定してくれた。

「男が刺繍? もう少し男らしい趣味を増やしたらどうだ貴様は」

 ハイライン様が呆れたような声で言う。やっぱり一般的な見方はそっちかな。ジュリ様が俺にやさしいだけで。

「手縫いの物を貰ったんだからそのお返しに手縫いもいいかもなって思って……」

「え? いえ、これはオルゴールの御礼ですからお返しなんて」

「だってほら、絹も下さったでしょう?」

「あれはひとまずの繋ぎの御礼というか……むしろわたくしとしてはまだ足りていないと思っているのです、何かご希望のものがあれば是非教えてくださいませ」

 繋ぎの御礼て。プレゼントの価値は金額ではないとは思うが、白絹だけでもオルゴールにかかった何倍の値段になるか……。

 でもまだ足りないと思うくらいジュリ様が喜んでくれたことはわかった。御礼をしたいという気持ちを無下にすることもないか。俺は屈んでジュリ様の耳元に小声で言った。


「それなら―――――――――膝枕、またしてください」

「! ……ぁ、あんなことでよろしいのでしたら……はい」


 恥ずかしげに頬を染めたジュリ様を見てカリーナ様が俺を不審そうに見た。俺の気の緩みを受信したポーターと同じ目をしとる。

「アマデウス様、ジュリ様に破廉恥なことをさせてないでしょうね……?」

「いえ、破廉恥では、…………」


―――――否定しようと思ったが、膝枕が本当に破廉恥な行為ではないのかと問われたら…………行為そのものに関していえば、親が子の頭を膝に乗せるとか、具合の悪い人の頭を膝に乗せて介抱するとかの場合は全然エッチではないはず。恋人だから急にエロとされるのはおかしいと思う……でも客観的に見たらイチャイチャしてることは確実だし、貴族はそういうの厳しい……俺にスケベな気持ちがないかと言われたらぶっちゃけ少しはあるし……となるとやっぱり……うーん……――――

 ここまで三秒。


「……意見が分かれるところだと思います」

「一体何をさせるんです!?」

 余計不審がらせてしまった。熟考せずに否定しておくべきだった。

「カリーナ、そんなに変なことではないから……」

「では何をするんですの?」

「ここで説明するのはちょっと……」

「やっぱり破廉恥なのでは?!」

 説明するためにジュリ様がカリーナ様を廊下に連れて行った。あんまり大きな声で説明するのは気恥ずかしかったのだろう。フォルトナ嬢達も「気になりますわ」「何なのかしら」とぞろぞろついて行った。プリムラ様は少し迷っていたようだが一歩遅れてついて行った。好奇心に負けてる。

「……それで?」

「へ?」

「破廉恥か破廉恥でないか意見が分かれることってなんだ」

ハイライン様が難しい顔を作りつつ小声でずいっと俺に迫る。リーベルトも知りたそうに寄ってきた。

「私も後学のために教えてほしい」

「「「!?」」」

 アルフレド様までが真顔でそう言って近付いてきた。

 うん、皆好きな子がいる健康な男の子ですもんね、興味はあるよね……。本格的なエロいことは結婚するまで出来ないからこそ気になるのかも。

「……ご期待に沿えるかはわかりませんが」

 ペルーシュ様だけは素知らぬ顔で少し離れた所に佇んでいた。後でハイライン様あたりに聞けばいいと思っているのか興味が無いのかはわからんが、クールキャラを崩さなくて尊敬。

 そして膝枕の説明を聞いた三人の評価は『どちらかといえば破廉恥』で満場一致だった。



 そんな平和な日の帰り、門の近くでスタスタと歩いているニフリート先生が目に入った。

 ニネミア嬢が卒業したからニフリート先生もいなくなるのかと思いきや、彼は学院に残った。決闘でジュリ様に負けたことや卒業パーティーでの妹と派閥の者達の失態などが響いて近衛騎士団に入れなくなったんじゃないか、なんて囁かれているらしいが……残った理由に関しては語らないらしくはっきりしない。

 いつもと少しシルエットが違う気がして違和感を覚える。目を凝らすとその理由が判明した。

 

 びっしょびしょだった。ちょっと俄雨に遭って、とか下手な言い訳も出来ないくらい全身濡れている。因みに今日雨は全然降ってない。池にでも落ちたのだろうか。

 そんな状態だが、背筋を伸ばして前を見据えた姿は凛としていた。表情はどこか悩ましげにも見える。足取りに迷いはなく校舎の奥へ去って行った。

 夕闇が迫る中、その謎の光景は何だか心をざわつかせた。


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