結束
少しして、コンスタンツェ嬢が客間に入ってきて挨拶を交わす。
今日の彼女のドレスはユリウス殿下の瞳のようなディープグリーンをベースに黒いフリル、裾には薬草柄の金刺繍。黄色グラデの薬草柄スカーフでポニーテール。ドレスはジュリ様と色違いのお揃いである。2Pカラーみたいな。
「イチャイチャしてたでしょう」
コンスタンツェ嬢は少し呆れたように笑って俺達に言った。
「えっ、なんで……」
何でわかった、もしや俺の下半身まだ落ち着いてない?! と動揺していたら彼女は己の左手首を右手で軽く叩いて見せた。ハッとして左手を見ると、袖に白粉が付着していた。
「あっ……」
「! ぁ、あぁっ、手に付いたものしか気付かなくて……拭きますわ」
「いえ、私が暫く座り込んでいたせいでしょう、すみません……」
先程はお互いになんていうか浮かれてたから、袖の方を見逃していた。ジュリ様が慌ててハンカチを取り出す。ポーターが少し苦い顔をしたのが見えた。多分彼は気付いていたけど他の人の前で拭くのは控えていたのだろう。
モリーさんとポーターがくれた五分のブレイクタイム。
いつも可愛いけど着飾って数割増しで眩しいジュリ様とこれ幸いとイチャイチャしたのだが。
――――ジュリ様、急に胸が大きくならなかったか……? スタイルを良く見せるために布か何か詰めてる? と全体を見た時少し疑問に思ったのだが、すぐに謎は解けた。
馬車でイチャついている時にもたまに彼女の胸が俺の腕とか体に密着することはあった。しかし柔らかくはないのだ。むしろ少し固い感触が伝わる。ちょっと気になったのでゲイルに訊いたことがある。
「女性騎士って、普段胸の辺りを押さえ付ける感じの、固い下着付けてる……?」と。
予想通り、女性騎士用にそういう下着があるらしい。少し残念に思ったりもしたが、柔らかかったら自制が効かなくなるかもしれないからよかったのかも……と思っていたのだ。
学院や訓練に行く時は付けているけれど、今日はドレスなので押さえつけていない。押さえつけていないと、ジュリ様は結構……ある!!
……正直な好みをいってしまえば、胸は大きいと嬉しい派ではある。まあジュリ様だったら小さくても全然いいんだけども。
可愛い彼女から胸をすり寄せられつつキスを請われて、興奮しないわけがないんだよなぁ健全な青少年が。元気になり過ぎた結果暫くしゃがみ込んで興奮を鎮める羽目になってしまった。
しかも触ってみるかなんてお誘いまで。俺に触られて嫌だったことなんてないしこれからも無いと思う、なんて殺し文句まで。自制心が死ぬ。触りたいのはやまやまだけど触るまでで終われる自信がないんスよね。
色々してもいいんだったら率直に嬉しいがまだダメなのである意味苦行。結婚まで続く我慢大会。
「そのままでもいいんじゃないですか? 意味深でいいかもしれませんよ」
コンスタンツェ嬢がそんなことを言ったのでハンカチを構えたジュリ様とポーターが動きを止めた。
「あー……じゃあ、残しますか」
ポーターに目配せすると彼が頷く。ジュリ様は恥ずかしげに目を泳がせたが否とは言わなかった。
コンスタンツェ嬢は化粧無しで登場し、歌を披露する直前に化粧をする段取りになっているので、最初から俺の袖に白粉が付いていたらジュリ様とイチャついていたことがわかる。“信奉する会”の人達はその辺り結構目敏く気付いてくれそうだ。
今回のお茶会で重要なこと、プリムラ様のまとめ。
「卑怯な真似はしないと派閥の方針を示して結束を強くすること、そしてアマデウス様とジュリ様の仲の良さと、ジュリ様とコンスタンツェ嬢の仲の良さ、両方を示すことが大事です。ジュリ様から信用を得て支持されているコンスタンツェ嬢、そしてジュリ様と婚約者の仲は円満で次期公爵の座は揺るがないと示すことで、男爵令嬢が本当に王子妃になれるのかと漠然とした不安を抱く人達を納得させるのです」
ジュリ様は今回俺とコンスタンツェ嬢どっちとも仲良しっぷりを見せつける必要がある。だからドレスをお揃いにしたのだ。こっそりデキているんだろうと陰で揶揄する者はやはりいるらしいので、俺とコンスタンツェ嬢は適度に距離を取りつつ和気藹々とする予定。
「というか、侍従の前でイチャついてたんですか……?」
「い、いや……たまたま、二人とも少~し席を外していて……」
小声でごにょごにょと言い訳するとコンスタンツェ嬢はほっとした顔をする。
「やっぱり人前ではしませんよね? ユリウス様、他の生徒の目は一応気にするけど、護衛とか側近が傍にいても全然気にしないで口付けしようとしてきたりお尻触ってきたりするんですよ?! おかしいですよね?!」
「あぁ~……」
俺は王女のお茶会でバルコニーに出た時を思い出した。ドロシー嬢もいたのにまるで二人きりになったみたいなノリだった王女殿下。王族にとって付き添いが傍にいるのは当然のことだから、もう空気みたいなものに感じているのかもしれない。ユリウス様は尻派、要らない知見を得た。
「初夜の寝室にまで侍従がいたらどうしよう……その辺りご存知ですかジュリ様?」
「ゴフッ……んん、ど、どうでしょう、ごめんなさい、そこまでは存じ上げなくて……」
ジュリ様がお茶にむせてしまいながら赤くなっていた。コンスタンツェ嬢にとっては切実な問題だし真剣なのだが、あまり困らせないであげてほしい。
高貴な人の夜伽の場には部下がいて記録を付けたりしたって地球の本で見た気がするけど……俺も流石に人に見られながらは嫌だなぁ……!
でもまあモリーさんがああいう気を遣ってくれるくらいだし、俺達の初夜は二人きりにしてくれる筈。多分。そうであってほしい。
※※※
「あら、アマデウス様、袖に……」
親切で教えてくれたのであろう令嬢に向けて俺は口に指を立てて笑った。
「ああ、ありがとうございます、でもお気になさらず」
「……あっ。あぁ~……」
何か察したようなその令嬢からさわさわと内緒話が広がっていく。リリーナと見守るペルーシュ様、エーデル様と婚約者のエンリークが率先してキャッキャしているのが見える。楽しそう。
俺はいつかの王女のお茶会でやったみたいにジュリ様と時折べったりと親密そうにしながら、愛想よく挨拶回りをした。カリーナ様が時々「節度ォ!」と叱りたそうな顔をしていたが、その度にアルフレド様が何か話しかけて気を逸らしてくれていた。有り難い。
ジュリ様がコンスタンツェ嬢と仲良しアピール中には少し離れる。リーベルトが「ぁ、あんなにベタベタしていいの……?! いや、今更かもだけど」と赤面しながら聞いてきたので「次の登院日に聞いてよリーベルト、俺の忍耐力を褒めてほしいからさぁ……」と予約しておいた。プリムラ様は『よしよし、それでいい』って感じの顔をしていた。よかった。
ハイライン様はアルピナ様をエスコートしてご機嫌だった。ジュリ様伝手にどう求婚したのかを聞かせてもらったが、見たかったなぁ~~ハイライン様のデレ。絶対楽しい。
マルガリータ姉上とファウント様、フォルトナ嬢とジークが揃って挨拶に来た。ジークは少し遠慮がちだったが、フォルトナ嬢が気さくな人なのでだんだんリラックスしていったように見えた。
ジークは以前、コンスタンツェ嬢に言い寄っている……と誤解されていた時期があったので、今回のお茶会はパートナーと一緒に行って『もう終わった話ですよ』とアピールした方が良いという話になった。しかしジークは気を持たせてしまっても悪いからと相手を選べず一人で参加すると言った。だが姉上は良い機会なのだから誤解は解いておくべきと主張して、ファウント様を通じてフォルトナ嬢に同行を頼むことになったのだ。
もしやフォルトナ嬢のところに婿入りか……?! と周囲を少々ざわつかせたが、未来の義姉弟として仲良くしているだけということにしている。
「オルゴール、良い出来だった。早く売りたい」
「ありがとうございます、先輩」
ディネロ先輩とエイリーン様も来てくれている。主役のジュリ様やコンスタンツェ嬢よりも目立つのはあまり望ましくないと思ってかエイリーン様は地味めなドレスで、一度話した後はあまり俺達には近寄らずに挨拶回りをしてくれていた。
今回のお茶会では、まだ発売前のオルゴールをお土産に用意した。
何種類も用意するには時間が足りなかったので曲は『恋はあせらず』だけ。ピンが植えられた円筒が回ることで櫛歯を弾いて音が出るシリンダーオルゴール。上品な緑と金の飾りの箱に納まっている。
オルゴールもいざ作ろうと思うと考えることが色々あった。地球の歴史ではシリンダー(円筒)タイプとディスク(円盤)タイプがあり、結局円盤タイプが主流になったがレコードの登場でオルゴール市場は勢いを失った。円盤タイプの方が曲交換しやすく複雑な音が出せて大量生産もしやすい筈だが、レコードが既に登場しているのでそこまで需要は大きくならないと思われる。レコードと比較して安価に出来て小型化出来る方向が良いだろうか……と先輩と工房の時計職人を交えて話し合った。地球の現代で俺が見かけるのもこのタイプが多かったし、最初に作るのはシリンダータイプを選んだ。周知されたら記念品や玩具としての需要を見込んで、磁石を使って人形がくるくる回るやつとかこれから考えていきたい。
余興として俺がまず新譜、エルダーの『愛の挨拶』をピアノで弾く。
その後化粧して髪を下ろし、頭にスカーフを巻いたコンスタンツェ嬢が『世界に一輪だけの花』を楽師達と歌う。歌手の皆にはこの一曲だけサプライズ的に出て来て参加してもらった。全員最初から参加していると何曲も歌うと思われて演奏会みたいになってしまうのを避けるためだ。俺の演奏会ではなく飽くまでも今回は派閥のお茶会なので。
人気歌手達に笑顔で囲まれてハーモニーを奏でるコンスタンツェ嬢は輝くようで、素顔の時の実直な印象とまた異なる。この二つの顔を一気に見ることで彼女を魅力的に見せる作戦。これはジュリ様が考えた。
参加者達の顔を眺めた感じでは、ばっちり成功しているように見える。
俺は新曲を覚えて歌ってほしかったのだが、新学年に向けて出来る限り成績を上げたいコンスタンツェ嬢の事情を鑑みて諦めた。公演もあるから忙しいしそこはしゃーなし。
『嫌がらせを受けたら遠慮せずに知らせてほしい。我々は卑怯なことはせず胸を張って正々堂々としていよう』とジュリ様が演説すると、感動して涙ぐむ人もいた。
原因は突き止めたとはいえ少しだけ不安だったが、毒が盛られることもなく。
皆の拍手と共にお茶会は恙なく終了した。
オルゴールもなかなか好評で、マルシャン商会に納めていた在庫は発売するとすぐに売り切れた。
評価・感想・誤字報告などいつもありがとうございます。喜んでます。
曲名少し変更したりしました。
七月~八月、多忙のため更新少なくなるかもしれません<(_ _)>




