惚気話①
「カリーナ様、アルフレド様から直接婚約の申し込みを頂いたのでしょう? 何とお言葉を?」
「へっ?! え、ええっ?!!」
瞬時に赤くなったカリーナにアルピナは畳みかける。
「お二人と付き添いの方だけの秘密にしておきたいと言うのでしたら無理にとは申せませんが……皆興味津々ですのよ。話せる範囲で構いませんので是非お伺いしたいですわ」
「カリーナ、ある程度は顕示なさるのが良いと思いますわよ」
プリムラが流し目でそう言って、カリーナはハッとアルピナの含みに気付いた。
“信奉する会”は噂を広めることに関しては実に都合が良い組織になっていた。ジュリエッタとの婚約直後『アマデウスがルドヴィカを捨てた』という悪評を『アマデウスはルドヴィカを迷惑に思っていた』という話で打ち消したりもしたが、その時よりも規模が大きくなっている。
容姿が冴えないカリーナがアルフレドの婚約者になることを良く思わない者はいる。ジュリエッタやアマデウスがごり押ししてアルフレドは仕方なくそうしたのだろうと嘯く者もいた。アルフレドとカリーナが好き合っていることを示すのはジュリエッタ達の印象、ひいてはシレンツィオ派の評判を落とさないことにも繋がる。
今回もそういう形で援護してくれようとしているのだと気付き、カリーナは何か話さねばと考えを巡らせた。
「で、でも、アルフレド様も求婚の言葉をあまり人に知られるのは恥ずかしいのではないかしら……」
「きっとお許しくださいますよ。ハイライン様にお伺いしましたが、『第二夫人に』と娘を推薦してくる者がとても多いそうで、アルフレド様は辟易していらっしゃるそうですし……アルフレド様からカリーナ様を請うたことを皆もっと知るべきと思いますわ」
「………………なるほど」
完璧なアルフレドに娘を薦めるのは無謀、と感じていた者達が、婚約したカリーナの容姿を受けて『あれでもいいのならうちの娘でもいいのではないか?』と思ってしまったのだった。
それを察した皆は少し気まずい顔になったが、カリーナはムッとした後勝気に笑った。
「……家同士の契約として婚約したのならば憂鬱になっていたところでしょうが……アルフレド様から直接お言葉を賜ったのですから平気ですわ! ちゃんと思うところがあってわたくしを選んでくださったのですもの」
強がりも多少含まれていたが、それ以上にカリーナがアルフレドの言葉を嬉しく思ったことが伝わってきたので令嬢達はホッとする。
アルピナが期待を込めて見つめると、しどろもどろになりつつカリーナが打ち明け始めた。
「その……以前から、わたくしが広く、友情でもって社交をしているのを尊敬していたと。『貴方が隣にいてくだされば、私は大事なものを見落とさずに生きていけると思う』と仰られて……跪いて、『私の妻になっていただけませんか』と、お手を……」
「まぁ~~~~~! 素敵ですわ……!」
アルピナはうっとりと相好を崩し、その場にいたジュリエッタ以外は赤面して感心した。
「何だか……少し意外ですわ。アルフレド様にそんな情熱的な一面がおありとは」
「基本的に令嬢に対しては素っ気ない方でしたものね。うっかり惚れ込まれないようにでしょうけれど」
カリーナが赤い顔のままびしっとリリーナを指差した。
「素っ気ないといえば! ペルーシュ様!!」
「……えっ?」
「わたくしが話したのだからリリーナも婚約を申し込まれた時のことをお言いなさい! アルピナ様も! 教えてくださらないと不公平だわっ!」
「え~~~……」
リリーナは困ったように言いよどんだが、アルピナはあっさり頷いた。
「それもそうですわね。では僭越ながら次はわたくしが。広まってしまうとハイライン様は恥ずかしがって甘いことを言ってくださらなくなるかもしれませんから、ここだけの話にしてくださいませね。
――――ある日の放課後、わたくしとエーデルを中庭にお連れになり……
『自分の話が令嬢からしてみればそんなに面白くないことはわかっている。アルピナ嬢、私の話をいつもしっかりと聞いて覚えていてくれるのは貴方だけだ。我慢して、それか気を遣っていただけなら今ここではっきり言ってほしい。逆恨みなどは決してしないから』と仰ったのです」
(自覚はあったのか……)と皆は思った。ハイラインは美形なのに自慢話とアルフレド話をし過ぎるところが令嬢達から微妙に面倒に思われていた。
「わたくしが『いいえ、わたくしはハイライン様とお話するのが好きです』と返すと、『……私も、貴方と話すのが好きだ。五十年後も貴方と二人で話をしていられたらと思う。貴方はどうだろうか』と頬を染めて仰ったのです。もう、可愛らしくて仕方なくてわたくし涙目になってしまって……『わたくしもそうなれば嬉しいと思います』とお返ししました。すると破顔されて、でもすぐに顔を引き締めて『すぐに婚約の申し込みをさせてもらう』と言って逃げるように去っていかれました。ふふ」
アルピナは実に楽しそうにノリノリで話した。すでに聞いていたリリーナ以外の皆は、一年の時から友人として接してきた少年の純情な恋話にニヤついてしまう。
「……デウス様にお話ししたらハイライン様は怒るかしら」
「ハイライン様にバレなければ大丈夫ですよ」
プリムラの言葉に苦笑しつつジュリエッタはアマデウスに話してあげようと思った。
恥ずかしいから出来れば話したくないとリリーナは思っていたが、興味深そうに視線を向けられているのに気付き観念した。
「……そんなに変わった話ではございませんわよ。廊下の片隅で情報交換した後、わたくしが『ペルーシュ様が婚約してしまうとこうしてお話するのも難しくなってしまうでしょうね』と哀しげに見つめると、『君が私と婚約すればそんな心配はいらないと思うが、そんな未来を予想したことは?』と真顔で返されたのです。『……ずっと想像しております』と返すと……『私もだ』と、微かに微笑まれて……次の日、家に申し込みが届いたのです」
「あらー! まあ~~……っ!!」
場面を想像してぽっとするアルピナ達を見渡して、リリーナは照れ臭そうにしつつ胸を張った。
「ずっとアピールしてはいましたが、本当に選んでいただけるかはわからなかったので正直驚きましたわ」
「ペルーシュ様、人気がありますものねぇ。でも沢山の美しい令嬢に目移りせずリリーナを選んだのは慧眼ですわ。リリーナは同世代では群を抜いて社交上手ですし、利発ですもの」
「悪かったですわね、見た目はそれほどではなくて」
「そ、そんなつもりではなくてよ?」
焦ったカリーナにリリーナは悪戯っぽく笑って「冗談です、わかってますわ」と茶化した。
カリーナが評価したように、リリーナは年齢から考えるとかなり立ち回りが上手く利口と言えた。ペルーシュがリリーナを選んだのも情報交換において頼りに出来る存在であったことが大きかった。
「昔からペルーシュ様をお慕いしてましたの? アルフレド様の周囲ではどちらかといえば目立たない方でしたが……」
プリムラの問いにリリーナは大きく頷く。
「ええ。こう言ってはなんですが……アルフレド様もハイライン様もアマデウス様も、無駄に目立つんですもの。眺めているだけならまだしも伴侶と考えるとどうにも落ち着かないと思うのです」
「えっ。そ、そうかしら……」と戸惑ったジュリエッタ。
「ああ、確かに……?」とわかるような気もする返事のカリーナ。
アルピナはさらりと「そういう考え方もありますわね」と言った。
「わたくしの場合、幼馴染のアマデウス様の方に憧れるのが自然かもしれませんが……彼って誰にでもお優しいでしょう。それ自体は美点ですが、愛想が良すぎる男性よりは寡黙な男性の方がわたくしは好ましく感じるのです。まあ、個人的に好みからは少し外れていたというだけのお話ですわ。勿論友人としての好意はずっとありますけれど」
リリーナは(愛想が良い男性は浮気も心配だし……)とも考えていたが、それが偏見であるとはちゃんとわかっていたので口には出さなかった。
お披露目会で演奏を見た母から『アマデウス殿は大物になりそうよ』とおススメされていたため幼い頃は少し意識していた。しかし交流を重ねるうちに『この人は私の手には負えないのでは?』という予感が大きくなっていった。その予感は的中した。自分の勘も捨てたものではない、とリリーナは心の中で自賛した。




