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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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決闘



たかが化粧、されど化粧。

俺の主観だが、化粧で顔の痣を隠すようになってからジュリ様は以前より社交を楽しめるようになっていると思う。周囲としても顔が見えた方が親近感も湧くし、そもそもずっと顔を隠し続けるなんて慣れていたとしても不便だ。化粧がジュリ様のQOL(生活の質)をめっちゃ上げたことは疑いようがない。

社交界での化粧の立ち位置を徐々に確立していきたい我々としては、下賤の者が使ってる物だからダメなんて理屈への返事は『うるせえ』の一択である。

つーか体に悪影響があるとかならまだしも、けしからんとかはしたないなんてフワッとした理由で軌道に乗り始めた化粧品市場を削られて良い訳あるか。製造元や商会に申し訳が立たんぞ。特に製造元に軽く喧嘩売った(※粗悪品をマルシャン商会から追い出した)ことがある俺は。

ここで譲ってしまって成功体験を得た政敵からネガキャンを繰り返されてもたまったものじゃないし、化粧品へのディスりに対しては断固として突っぱねるということで勿論いいのだが……

正直決闘は止めたかった。ニフリート先生は相当腕利きだと聞いたばっかりだし、心配だ。しかしジュリ様の決意が籠った顔を見たら反対出来なかった。

自分がお化粧で感じた喜びを未来の人達の手の届く所に残したい、という志も素直に尊い。


王族に叱られた後もこうやって諍いを起こしているんだから、ニフリート先生の面倒くさい性格をどうにかするにはもう力で叩きのめすしかないのかもしれない……とは、俺もちょっと思ってしまった。辺境伯家ってのは武力を重視しがちだから、言葉よりも力に屈する可能性が高いからだ。……古い時代の体罰容認派みたいで嫌なんだけど。



翌日の放課後、訓練場の一角。

俺もジュリ様もおそらく先生達も決闘のことは周りに話していないが、訓練場を予約(予約や学院内での根回しはニフリート先生がする、書状はジュリ様が作る、と取り決めた)する関係で何事かが行われることはバレる。訓練しに来た生徒たちには見られてしまう。

触れ回る気は無いがいつメンには放課後になってすぐ、つまり直前に一応こっそり伝えたので皆見に来ている。アルフレド様に付いてきたシルシオン嬢とその仲間もいた。

「お怪我がないといいですが……」

「ええ……」

カリーナ様とプリムラ様は心配そうにしている。男子陣は皆思案顔で黙っていた。きっと、ジュリ様がニフリート先生に勝つのは普通に考えたら難しい、でも決闘に踏み切ったからには何か手立てがあるのかもしれない……と思って口出しはしないでいるんだろう。


学院内で決闘となると、当人の保護者の許可が必要(今回はジュリ様の方だけ)なのは勿論、教師が最低一人はその場に立ち会うことになっている。それはオルデン先生が引き受けて来てくれてる。

決闘者には介添人というセコンド的なのが付いても良い。ジュリ様には俺が、ニフリート先生にはニネミア嬢が付いていた。立会人が読み上げる条件を決闘者と共に確認、同意し、決闘直前に上着と剣の鞘を預かる。ジュリ様は授業後に更衣室で化粧を落として仮面をしているので俺は仮面も預かる。

公爵令嬢と辺境伯家令息との決闘なんてものを流石にスルーとはいかないと思ったか学院長とユリウス殿下、ネレウス殿下まで見に来ている。その時点で只事ではないので騎士見習い達はザワザワしていた。

因みにあの後ユリウス殿下と学院長へオルデン先生がすぐ報告してくれたのだが、二人とも『ハァ!?』という顔だったという。多分俺と同じでニフリート先生に呆れたんだと思う……。



「――――これより、ジュリエッタ・シレンツィオとニフリート・ジャルージの決闘を執り行う。ジュリエッタが勝利した場合、ニフリートは化粧品に関して今後一切言及しないと誓約する。ニフリートが勝利した場合、ジュリエッタは化粧品の宣伝活動を今後一切行わないと誓約する。双方よろしいか?」

「同意します」

「異議無し」

ジュリ様が手渡した書状を広げてオルデン先生が声を張る。当人二人が同意し、介添人二人も黙して認める。武器はどちらも同じ長さの剣を使う。これは決闘の申し込み直後に日時と一緒に決めていた。登校時には預けておいて、今騎士団員が持って来て両者に返す。長さが同じであることを互いに確認。一度介添人に剣を預け、上着を脱ぐ。

二人とも簡易的な胸当てを付けている。訓練の時も付けている物だ。

昔の決闘ではむしろ防具を付けないことを定めることも多かったが死者が大勢出て治安も乱れたことから規制され、騎士かそれに準ずる訓練を受けた者しかやってはいけない(それ以外の者は代理を立てる)とか装備は両者同じであることとか色々作法がある。

学院内では最低限の防具が必須。王族のお膝元で貴族の死者を出すのはなるべく避けたいからだそうだ。

防具があるから心臓をグサッとされはしないが……魔力を纏った攻撃は盾も防具も貫通することもあるので危険が無いとは言えない。

まあ、戦うんだから危なくない訳はない……。

数日猶予があればネレウス殿下に賄賂渡して土下座でもして予知をお願いしたんだが……(聖女の危機かもしれないんだから普通に頼んでもやってくれるかもしれないが)。勝敗がどうあれジュリ様が無事かどうかだけでも知りたかった……。


学院の治癒師も二人、見える場所に控えてくれている。

因みにジュリ様に聞いたところによると学院の治癒師は「優秀ですがシャムスほどではないでしょう」とのこと。王宮と公爵家の筆頭お抱え治癒師辺りがズバ抜けて優秀で、学院の保健室勤務だと少~し質が下がるそうだ。いや、上澄みがすごいんであって学院の治癒師を下と言うのは失礼に当たってしまうやつだな。


ニネミア嬢は以前見た時と同じ、キリッとした生真面目そうな顔をしている。剣や上着をやり取りする際に兄と視線を交わして頷く様子は信頼関係を感じた。性格も似てるっぽいし仲良いんだろうな。俺とジュリ様に向ける眼は静かではあるが微かに敵意を感じる。思うところは当然あるか。


――――化粧がどうとかの話は建前で、コンスタンツェ嬢とニネミア嬢の代理戦争だと見做されてそう。


実際、ニフリート先生は化粧に言及せずとも普通に生きて行けるだろうしジュリ様も化粧品を使うこと自体は制限されていない。勝負が終わってもお互いにものすごく困るということはないのだ。つまりは――王子妃争いの派生戦であると周りは思うだろう。

別にこの決闘の勝者が王子妃に近付くということはないが……派閥の士気には影響する。


「見物する者は離れなさい。もっとだ! 下がりなさい!」

オルデン先生が生徒達を遠ざける。オルデン先生とニネミア嬢も距離を取ったのを確認して、ジュリ様は仮面を外す。

「……そんなにご心配なさらずに」

俺を見て苦笑した。努めて平然とした顔を作ってるつもりだったが、滲み出てしまっているようだ。やっぱり心配だ。

「はい。……御武運をお祈りしています」


そう言って上着と鞘、仮面を受け取って俺も野次馬と同じくらい離れる。

離れる直前に見たニフリート先生は――――――驚愕に顔を染めていた。そして顔色がみるみる白くなっていった。片足がふらりと後退る。



 そりゃなぁ。ものすごい不細工を見たくらいで大の男が叫ぶとか腰を抜かすとか、大袈裟だろって思うよな。俺も最初はそう思ってたし……。

 ニフリート先生はジュリ様に「人目を気にし過ぎだ、堂々とすればいい」と言い放ったらしい。人によってはそれも正解だろう。でもそれで解決しないこともあるという、デリカシーというか……想像力が足りない。

ジュリ様の顔の痣は聖痕。見慣れればどうにかなるという代物ではないのだ。


あの痣が聖女の証で、高い魔力の歪みであることは黒い箱のことを打ち明けた時に俺が話したのだが、ジュリ様のリアクションは案外薄かった。「そうだったのですか……」と一言呟いて、ぽやっとしていた。その時は黒い箱と封印のことが重要過ぎてあまりそっちに気持ちを割く余裕がなかったのかもしれない。まあ、化粧で隠すことで何とかなっているし俺というラブラブ婚約者も出来たことだし、今更知っても、という感じだったのかもしれない。

 

そして今回、ジュリ様は自分の痣を強大な魔力の威圧として決闘に利用しようとしている。武器になると判断して自分の顔をも使うと決めたジュリ様を俺は頼もしいと思う。

でも裏を知ったらニフリート先生は「そんな隠し玉があるなんて卑怯だ」って言うかな? 言うかも。知らんけど。


「構え。…………、はじめ!!」

オルデン先生の合図の後、瞬きをした間に鋭い一閃。

踏み出したジュリ様の剣が相手の剣を下から斬り上げた。姿勢を立て直したニフリート先生も応じ、刃が交わる。金属音が響き、ぐるりと受け流して素早く横に振られた剣をジュリ様が避ける。首の後ろで結った髪が激しく舞う。

「ニフリート先生の体幹がぶれてる……いつも全くぶれないのに」

リーベルトが背後でぼそりと言った。ニフリート先生はふらついていた。案の定ジュリ様の魔力にあてられているようだ。本能的にこのままではまずいと感じたか、構え直した先生は剣に魔力を込めた。剣が鮮やかなオレンジの炎を纏う。早くも本気だ。

ジュリ様も剣に魔力を込めた。スゥッ…と剣が黒く染まり、うっすらと黒い炎を帯びている。

同じ火属性の魔法だが人によって色が違うのだ。魔力の色だと言われている。黒くなると話では聞いていたが見るのは初めてだ。


――――― 黒い剣とジュリ様、マ~~~~~~~~ジで滅ッ茶苦茶、世界一カッコいい。


そんなことを思ってしまいながらも俺は鞘を握りしめて瞬きしないように目をかっ開いた。

おそらく勝負は長引かない。


「ぁあああああッ!!」


気合いが籠った雄叫びと共にニフリート先生の剣がジュリ様に迫る。

ジュリ様は、盾を出した。透明な盾だ。――――俺が教えた盾。



バツンッ!!!! ……という聞いたことない衝撃音がして、熱い強風が吹き付けた。砂が顔に飛んで当たる。



俺は風を受けて片目だけ瞑ってしまったが、見ていた。攻撃を受け止めた盾。それに驚いているニフリート先生にすかさずジュリ様の剣が下から襲う。砂煙の中一本の剣が宙を舞った。

剣が宙を舞っている内に、盾を正面からぶつけられた男がそのまま地面に押し倒され、少女が剣を彼の面前に突きつける。

剣が落ちる音を聞く。




「―――――――――― そこまで!! 勝者、ジュリエッタ・シレンツィオ!!」


オルデン先生の号令で後ろにいたシレンツィオ派の生徒達がワッと歓声を上げ、俺は手から鞘を落とした。

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― 新着の感想 ―
勘違い教官に鉄槌入れた〜!! ジュリ様惚れる(≧▽≦) 妹共々やっておしまい!! 成敗!!…したあとのフォローは誰だろう…
[良い点] 「そう言って上着と鞘、仮面を受け取って俺も野次馬と同じくらい離れる。」とその後の先生の反応 これは周りも見ているので「ジュリエッタ様の素顔はそれほど恐ろしいのか……」&「そんなのを間近で…
[良い点] ジュリ様が透明な盾を使えているのが、良いですね! アマデウスが有ると認識するものならあるだろうという絆が形になったみたいだなと思いました [一言] これからも応援してます
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