ご贔屓
「あらジュリ様、そのスカーフって…」
プリムラ様のそう言う声がしたのでジュリ様が来たと思って教室の入り口に目をやった。
「先日デウス様に頂いた物でして」
上半身は白ブラウスに上着でいつもの制服だが、暗めのオレンジのスカートの裾に黄色、オレンジ、赤の花の刺繍が入っている。そして頭には白地に濃い赤から明るい赤のグラデーションの薬草柄が染められたスカーフを巻いている。
そう、白地。今まで売っていたスカーフは黒地だった。今度売り出すことにした色違いである。一足先に俺がジュリ様にプレゼントした。
黒も薬草柄がくっきりしていいのだが色が濃い髪色の女性には白の方が映える、白も作ろうとエイリーン様がディネロ先輩に言ったのだ。そう言われれば確かにそう。
頭に巻くスカーフ…俺の最初の認識としてはヘアバンドって感じの髪飾り。カチューシャみたいに頭に乗っけるだけのやつでもよかったが男性はクラバットみたいに首に巻ける、という用途も欲しかったので幅広のスカーフとして売り出した。
赤は俺の担当カラーである。
推し色を作るアイデアだ。俺が赤、ロージーが緑、スザンナが青、ソフィアがピンク。担当色グラデーションの薬草柄の入ったスカーフを身に着けた。黄色で迷ったのがマリアとコンスタンツェ嬢だが、コンスタンツェ嬢を明るい黄色にしてマリアは赤みの強い茶色に決めた。スカーフのグラデーションには赤褐色と茶色の中にほんの少し黄色も入れてマリアの金眼を主張している。ちょっと半端な色になったかなと思ったが渋めの色の方が普段身に着けやすいという声もあって普通に人気があった。マリアがそもそも大人気なのでめっちゃ売れた。
全種類贈ったが、やっぱり俺の担当カラーをジュリ様がつけてくれてるのは嬉しくなる。
流した真っ直ぐの煌めく黒髪に白いスカーフ、赤系でまとまった色合い。いつものように彼女に近付いていって「よくお似合いです」と言おうとしたがそれより先に脊髄反射で「えっ…かわいい」と口から出てしまった。
「え、あ、ありがとうございます…」
「いえこちらこそ。とってもお似合いです。かっわいい…」
この世界にカメラがないことが毎度悔やまれる。目に焼き付けておかなきゃなぁとじっ…と見ると照れて頬を赤くし目を彷徨わせている。その仕草も良い。萌え。
「白地の物も売りますの?」
「はい、次の公演から劇場で販売する予定です」
「白も良いですわね~」
クラスの令嬢たちがわいわい髪飾りについてなど盛り上がっている中、ふとジュリ様がアルフレド様の方を見てぱちぱちと瞬きした。そして「でもこの色合いは…」と言葉を切ってチラッとカリーナ様を見た。
アルフレド様が何かに気付いたように目を見開いて、すっとカリーナ様に目を合わせる。
「ああ、…暖色系で調和している服装は、カリーナ様にもよくお似合いになるでしょうね」
「えっ?」
なるほど、今のは『この機会に便乗してカリーナを褒めるのが良い』というジュリ様からのアイコンタクトだったのか。よくわかったなアルフレド様。ていうかその、コーディネートを利用して褒める場を作ろう!と発想するジュリ様かわいくない?なんかこう…乙女で。かわいい。
「カリーナ様の髪色だとスカーフは黒地の方が映えるかもしれませんね」
アルフレド様は特に躊躇いなどは見せずさらりと言った。少しだけ口元を綻ばせて。
「…そ、そ、そうです、かしラ?!」
唐突に向けられた美の化身の微笑みにカリーナ様は動揺しまくりで声が裏返っている。
周囲の令嬢たちも何かに気付いたらしく、口数を少なくしてさり気な~く二人の会話に耳を澄ませ始めた。フォルトナ様なんてカリーナ様の真後ろで堂々と片手を耳に添えて完全に聞く姿勢を作った。真剣な顔なのでふざけている訳ではないようだがもう少し遠慮した方がいいと思う。
「カリーナ様なら、スカートにも少しだけ黒の刺繍を入れるとまとまりが良いように思います」
「そう、ですかしら…あ、アルフレド様は、案外黒がお好きですものね?」
「ええ。黒を身に着けることが増えてから気付いたのですが…私はどうやら、黒が好きなようです」
カリーナ様の黒い目を見つめながら言う。三秒ほどきょとんとしていたカリーナ様はカッと燃え上がるように赤面した。
いつだったか、『自分の黒い目も良いと言ってくれる殿方はいないものか』って感じのことを言っていた。これは効いただろう。
アルフレド様、流行初期以降も結構黒いズボン履いてくれてたし気に入ってたのかな。金髪と黒、相性良いし似合うし。
直後、教師が入ってきて授業が始まる時間になった。
ヨッッシ…!!
男子陣はおそらく内心でガッツポーズした。
進展した。カリーナ様はかなり意識してくれた筈。そしてこれを耳にしたクラスメートもわかっただろう。アルフレド様の好意が。
※※※
今日もシルシオン嬢が放課後すぐにアルフレド様に侍りに来てしまった為、カリーナ様はそそくさと帰ってしまった。彼はペルーシュ様とハイライン様がガードしながら訓練場へ。リーベルトも今日は訓練へ。ジュリ様とプリムラ様は何か話し合いに出かけた。
俺は取り急ぎエーデル様を探して声をかけた。
ネレウス様との会合で名前が出た、ロールベル・ストレピオ嬢。彼女はエーデル様と仲良しの筈だからだ。
「ロールベル様とお話を…?彼女何か、信奉者の域を逸脱してしまいましたか?」
「いえそういう訳じゃないですけども」
エーデル様が「何かやらかした?」と心配するほどの強火ファン。それがロールベル嬢である。
因みにファンといっても彼女の本命は俺ではない。それは演奏会に来る時着けているスカーフの色でわかる。
彼女は俺より一つ年上、今五年生。桜色の髪をきっちり真ん中分けにしておさげにした美少女だ。肌も白くて綺麗でこちらでも美少女枠。割と初期から俺を信奉する会に属していた。優し気な、穏やかそうな顔なのだが意外とライブで熱狂するタイプだった。歓声が結構大きくてよく聞こえる。
「あら、エーデル様ごきげんよ…アマデウス様!?」
クラスの前に会いに行ったところ、バッと身を守るように腕を構えて驚いていた。
エーデル様に同行してもらって空き教室に来てもらう。
「わたくし何かしてしまいましたでしょうか」
本人まで俺に怒られるのかと恐々していた。自分の行いの善悪くらいは把握していてほしいが。
「いえいえ。実は…ダフネー・ルバート法務大臣に進言したい案件がございまして。とある薬について…詳しいお話は書状でお送りさせて頂こうかと思うのですが。ネレウス殿下にはお話が通っております」
ユリウス殿下に通すのはまだこれからだが、ネレウス様の説得には大体応じてくれるから多分大丈夫だと思う。
「あら、伯母様に…では、わたくしから連絡しておきます。ですがわたくしを通さずともアマデウス様からの書状を無下にはしないと思いますが」
そう、ロールベル嬢のライブ参戦にはいつも同行者がいた。伯母様だと聞いていた。同じ桜色の髪をした、少し気難しそうな40代くらいの女性だった。
まさか彼女が法務大臣だったとは………
娯楽の場でお勤め先がどうのとか聞くのもなんだから詳しいことは聞かなかったし知らなかった……。
直接会って訴えた方が効果はあるだろうし、シルシオン嬢の話も聞きたいのでロールベル嬢も一緒に話をしたいのだ。
「せっかくですから、ロールベル様もご一緒に休みの日にでもどこかのお店で会合致しませんか?御贔屓の歌姫も連れてご挨拶に伺いましょう」
ちょっとゴマすりがあからさま過ぎるか…?と案じたが、
「え、…えええっ? ええええぇえええええぇぇ!??!! えっあっ 嘘? 本当に??? えっ?! マリア様に…間近で…ご挨拶??!!?? し、死ぬ!??! いや生きる!! 生きなきゃ…!!!」
嬉しそうである。大丈夫だった。
ガタンと立ち上がったロールベル嬢は喜びを抑えられないのか両手を握り締めその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。
反応が沼にハマってるオタクなんだよなぁ…… と微笑ましい気持ちで眺めた。




