相談だ
『カリーナ様がシルシオン嬢に嫌がらせをしている』という噂。
俺含め周りも『??何を言ってるんだか…』という反応が多く、すぐに消えるだろうと楽観視していた。ジュリ様は「信じる方はそういないと思いますが…嫌な感じがしますわね」と静かに怒っていた。俺も勿論いい気はしない。俺が知る令嬢の中でもカリーナ様はダントツで親切な人だ。いじめなどしない。
「カリーナ様はジュリエッタ様の親友でしょう?シレンツィオとタンタシオの繋がりが強固になって大きな派閥になると厄介だと感じ、カリーナ様がアルフレド様と婚約することを出来れば防ぎたいという者はいるんでしょうね」とリリーナは推測していた。
……シレンツィオが力を持ちすぎることを危ぶんでいるとすると、ジュリ様が聖女だと知ってる偉い人が関わってるのかもしれない。
今の宰相は、パシエンテ公爵の弟・ストライト卿。ヤークート様にジュリ様とユリウス殿下をくっつけるように命じていた人。彼は確実に『知ってる人』だ。
シレンツィオ派を大きくしたくないパシエンテ公爵家と、シレンツィオの庇護下にあると知れたコンスタンツェ嬢を退けたいコレリック侯爵家が共謀して俺たちに何か攻撃を仕掛けてくる可能性はある。
カリーナ様を知っている人は彼女がそんなことする訳ないと軽く流したが、本人の耳にも入ってしまった。
「わたくしそんなにアルフレド様に馴れ馴れしかったかしら…。少し気を付けないといけませんわね」と困ったようにぼやき、カリーナ様が……アルフレド様と距離を取ってしまったのである!!!
これには男子陣が頭を抱えた。カリーナ様と全く視線が合わなくなって声を掛けづらくなりこころなしかシュンとするアルフレド様に、ハイライン様は苦虫を噛み締めるような顔で自分の無力さを嘆き、ペルーシュ様は全ての感情をなくしたような目でアルフレド様に近付く令嬢を遠ざけた。リーベルトはあわあわしていた。
俺はというと…ジュリ様に相談することにした。
勝手に人の気持ちをバラすのは良くないし男子陣は婚約者の女性陣にもアルフレド様の気持ちを口外しなかった。他の女性陣から彼の気持ちがカリーナ様に伝わってしまってもアルフレド様の格好がつかない。だが膠着状態があまり続くのは良くない。ジュリエッタ様になら構わない、とアルフレド様も許可してくれた。
「アルフレド様がカリーナを…?…まあ…」
ジュリ様も目を点にしていた。全く想定していなかった訳ではないが、本当にそうだと聞くと驚いたそうだ。
「でも良かったですわ。あの噂のせいでカリーナ、少し落ち込んでいたのです…アルフレド様がカリーナに求婚したとなればあんな噂はすぐなくなるでしょうしね」
噂を鵜呑みにはしていないが、『彼女は良い人だけど、恋愛が絡むとそういうこともあるのかも…』と揺らぐ人もいる。アルフレド様から請われて婚約したとなればカリーナ様が他の令嬢に嫉妬や嫌がらせをする必要などないとわかる。
俺とジュリ様が協力してカリーナ様とアルフレド様が落ち着いて話を出来る状況を整える、ということで合意。馬車チューして手を振った後、よ~~しこれで上手くいくぞ~!…と安心したのだが。
いざ実行しようとすると、シルシオン嬢やそのお友達がアルフレド様に貼りついていて。そこから鉄壁ペルーシュ様によって令嬢は遠ざけられアルフレド様とペルーシュ様はすぐに訓練場に向かったり素早く帰ったり…というパターンが出来上がっていて隙が無く……難航した。
俺やジュリ様、カリーナ様にも用事や社交はあるので条件が揃わなかったりして、タイミングが合わない日が続いた。
※※※
また失敗したなぁと内心項垂れていたある日。シルシオン嬢とお友達に呼び止められ、俺とリーベルトは彼女たちと中庭に移動した。
「アマデウス様にお願いがありますの。聞いて頂けませんでしょうか」
「…内容によりますねえ」
「わたくしたちは無害だと、警戒を解いてほしいとペルーシュ様を説得して頂けませんでしょうか?」
曰く、ペルーシュ様のガードのせいでアルフレド様とお近づきになるのがハードモード。ハイライン様は案外令嬢に強く出られないので(ヘタレという訳ではない。なんやかんや紳士なのだ)突破出来るのだが、ペルーシュ様にそんな甘さは無い。派閥の違う令嬢は基本的にずっと警戒されており、すぐにブロックされてしまう。最近は特に厳しい、と。
そりゃカリーナ様のことがあるからなぁ。シルシオン嬢に対しては特に近寄んなオーラがすごい。
実際に彼女は物がなくなったり机が濡れていたりという嫌がらせを受けているらしいのだが、ぶっちゃけ俺らはシルシオン嬢の自作自演か、もしくは彼女の周りの者の仕業と思っているし。自作自演でないならちょっと気の毒だがあんまりどうにかしてあげたいという気には…ならない。だって……
「…何故私に頼むんです?」
「アマデウス様はペルーシュ様からとても信頼を置かれていらっしゃるとお聞きしまして…」
「まあ…そうかもしれませんね」
ペルーシュ様に俺は過大評価されがち。信頼というか…評価はされてる。どうだろうな、俺が言ったら案外すんなり聞いてくれたりするのか…?気になってきた。「アマデウスがそう言うなら」とあっさり納得する彼と「ならん。アマデウスは女性に甘いからな、もっと疑った方が良い」とあっさり拒否する彼、どっちも想像出来るぞ。でも後者じゃないかなぁ。今彼鉄壁だから。
「勿論…タダで、とは申しませんわ」
少し考え込んだ俺にシルシオン嬢はゲヘヘ…という効果音が付きそうな下衆い笑みを浮かべ、声を潜めた。
そう、俺が彼女をあまり可哀想だと思えない要因がコレだ。シルシオン嬢は昔からこういうところがある。
なんというか――― ゲス顔令嬢なのである!
「流石ですわ!」「真似できませんわぁ」などと粘着質な笑顔で格上を持ち上げることでお馴染み、といった感じの太鼓持ち令嬢なのである。揉み手をしながら「どうぞ御贔屓に~!」と擦り寄ってくる商人キャラみたいな全力媚びタイプで、ここまで全力ならむしろ中途半端に媚びられるよりもいっそ清々しい気もしてくる。いつか裏切りそうで信頼も出来ないけど…。
「わたくしちゃあんとわかっておりますわよ、アマデウス様…――貴方様が、醜女専門の御方だということを…!」
―――――――――― …真正面から『ブス専だよね』って言われた!!!!!
周りからそう思われている節は察しているが、ストレートにそう言ってくる奴はそうそういない。びっくりして目を見開いた俺をどう思ったかはわからんが彼女は笑みを深めた。
「お願いを聞いて頂ければ、我が領で営んでいる醜女好き専門娼館の女を無料でいつでもご利用頂けるように致します。ご安心下さいませ、ここだけの話、我が家は影出身の家臣がおり、露呈しない方法を心得ておりますわぁ…公爵家の影にも知られずに済みます!」
少ししてびっくりから抜け出した俺はこれみよがしに溜息を吐いた。
「ハァ…わかってませんねぇ、シルシオン嬢…全然わかってませんよ」
「えっ…?」
「…ここで攻めるべきは! 音楽趣味の方でしょう?! 貴重な楽譜とか異国の珍しい楽器とか…!!そっちだろ!!!そっちなら一考の余地は在ったわ!!!」
何でブス専娼館の方に行ったんだよ!!!!!
遺憾の意!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
まだ俺は女誑しの肩書から逃れられていないのか。こんなにジュリ様一途だというのに。
つい大きな声が出たので口を覆って ん“ん、と喉を鳴らすと「デウス……」と呆れと咎め半々リーベルトの声が耳に入った。はい。すみません。いや、珍しい楽器とかちらつかされても屈しないよ?伝手使ってちゃんと探せばきっと正規のルートで買えると思うし…?
「なんですって…… そ、そっちでしたの……!!??」
「そっちですとも。…誤解があるようですが、私は別に醜女専門の人じゃないです」
衝撃を受けた顔のシルシオン嬢。しかし、まだ年端のいかない少女から娼館の斡旋の言葉が出てくるというのはエグい。本人としては何とも思ってないかもしれないが…。カーセル伯の好感度がぐっと下がる。つーか醜女揃えた娼館、あるんだ……。
「そうなんですの…?」
「私はジュリ様が好きなだけです。…まぁ、ともかく、残念ながらお願いは聞けません。それに…おそらく護衛に関してペルーシュ様は譲りませんよ」
「…わたくしは、何としてもアルフレド様にまたエスコートして頂かないといけないのです」
思い悩むような顔でそう言った。エスコート?彼と結婚したい、とかではなく?引っかかる言い方だ。
「アマデウス様が欲しいものを調達して見せますわ、ですからどうか…」
「…シルシオン嬢は、誰かから指示されているのですか?アルフレド様を懐柔しろと」
パシエンテ公爵家の派閥、もしくはコレリック侯爵家の派閥全体でタンタシオ公爵家を引き入れようと画策している可能性は普通にある。
「そんなことはありませんわ。純粋にお慕いしているのです」
彼女はそう答えたが。
その返答があまりに滑らかで、用意されたようなちゃんとした笑顔だった為、俺は 嘘だな と思った。
「ご期待に沿えず申し訳ない」
「いえ……お時間を取らせてしまいまして」
シルシオン嬢とお友達が丁寧な礼をして去って行く。その背中を見ながら、何となく嫌な予感がした。上手く言えないけれど、嫌なことが起こるんじゃないかと胸がざわつく。
そういう時は――――― ネレウス様に相談だ!




