四年生
ヤークート様が逮捕された後、ランマーリ伯爵から手紙が来た。
ざっくり言うと『娘が犯罪者の婚約者になるのを防げたのは貴方のおかげです、ありがとう!これからもマルシャン氏と娘をどうぞよろしく』という内容だった。やっぱり俺がいなければエイリーン様はヤークート様と婚約することになってたんだろう。
いやー、でも俺さえいなければヤークート様犯罪者にならなかったかもしれないんですよね…とも思ったが、望みを叶える為に違法な物に頼る選択肢を持つ人だったのだから遅かれ早かれ犯罪者になっていたかもしれないな…とも思った。多少の罪を揉み消せる貴族としては、珍しいタイプではないのかもしれんが。
学院でエイリーン様グループに会った時、俺は敢えて言わなかったが彼女のお友達が「聞きまして?ヤークート様のこと…」「まさかあの方がねぇ…エイリーン様が婚約しなくて本当に良かったってお話ししてましたのよ」と会話を振ってきた。俺は「そうですねぇ、驚きましたね」と無難に返す。当のエイリーン様も「本当に。悪い方とは思ってませんでしたから、少々複雑ですわ…」と無難な意見。同情的ではあるが他人事といった感じで、彼の罪の動機に自分が関係していたとは当然知らない。
それでいい。責任を感じる必要はないのだ、俺もエイリーン様も。
彼の罪は、彼のものだ。
事件のことをあまり気にしないことにした俺を、無理しているのではないかとジュリ様は心配していたようだが。
歴史や人の運命を変えてしまったこと、俺はこの世界の異物なのだということ。時々そのことに罪悪感を覚えそうになるけれど……全て、ジュリ様が幸せになる為に必要なことだったのだと、割り切ることにした。
心配には及ばない。だってそう考えると本当に大して気にならないのだから。
…しかしジュリ様の「もう子供ではありませんわ」は破壊力があった。
だってそんなん……歳下キャラが好きな歳上キャラとエロいことしたい時の台詞の定番じゃん!?!!??
昂ってつい「萌え…!」とか言ってしまった。
※※※
四年生になって、ジュリ様の妹ロレッタ様が入学してきた。
挨拶には来たけれど姉妹双方義務的で、相変わらず仲は良くないらしい。
ジュリ様は皆に「仲は良くはないけれど特別悪い訳ではないと思って下さい」と説明していた。
ロレッタ様はモルガン様との婚約が決まった。シレンツィオはエストレー侯爵家とは仲良くしていきたい訳だから、妹とすごく不仲と思われるのも困るのだろう。
家でも学院でも関わるつもりが無いらしくあまり気にしていないようだった。それなりに整った美形で、社交は恙なく、成績は学年10位。気にする必要がないほど特に問題はないということかもしれない。それはそれで高水準の人材ということだし良い事だ。
モルガン様が将来俺の義弟(年上)になるのが決まった訳だ。友好的にやっていけたらいいな。
そういえば、俺が体調不良で倒れたとされた時以来だったので「前回お会いした時はお別れの挨拶をし損ねてしまって、申し訳ありませんでした」と言うと、ロレッタ様は「いぃええ、お気遣いなく…」とどこか俺を怖がっているかのような貼りつけた笑顔だった。怖がられるようなことをした覚えはないのだが。
コンスタンツェ嬢を演奏会のメンバーに加え、テタルティ氏たちの協力の下伝統楽曲の円盤を発売し、王都での演奏会はひとまず伝統楽曲のみのセットリストにした。地味になりそうだったが音楽家たちが話し合って演奏を豪華にしてくれて聴き応えがあった。今後の公演に向けて新曲も随時発売していく。
マドァルドの工房は広い土地に移り今では王都でも指折りのでかさになった。従業員も増やした為にトップのマドァルドは苦労も多いようなので、ちょくちょく座りに行ってあげている。
人気歌手にすることで俺と公爵家が後援する立場だということをアピールする狙いであることは皆に伝え、人から彼女について聞かれたら一応不自然でない程度に褒めておいてくれとお願いした。
彼女と楽師たちはすぐ打ち解け、コニー嬢とかコニー様とか愛称で呼ばれている(俺は周りに誤解されないように念の為コンスタンツェ嬢と呼び続けている)。真面目だし元が平民なのでコミュニケーションも問題なく、最年少として皆に可愛がられている。
男爵令嬢だが王子殿下の恋人(輿入れ確実)という高いのか低いのかよくわからない立場にラナドとポーターは最初戸惑ったようだが、俺と同じような扱いでいいと言っておいたらすぐ慣れていた。
新曲の一つはリリエにお願いしようと思っていたのだが、春に彼女の妊娠が判明した。妊婦に無理はさせられないので出来る範囲のサポートに回ってもらうことにする。
ロージーは勿論バドルもシャムスも懐妊には大層喜び、シャムスは弟子の伝手を使って優秀な女性治癒師を雇いリリエに付き添わせている。大袈裟ではないかとリリエが苦笑するくらい丁重に扱われているという。しょうがない、お爺ちゃんたちの初孫だから。
貴族では女性治癒師が主に出産に立ち会う。平民だと産婆として知られる女性が地域に数人いて、産気づいたら呼びに行く風習になっている。大体の場合男は夫でも治癒師でも全員現場から追い出されるらしい。スザンナは村の女性の出産に何回か立ち会ったことがあるらしく、手伝うよ!と張り切っていた。ソフィアは一度だけ産婆の手伝いをした経験があるそうだが、慌ててしまってあまり動けなかったと恐々していた。俺も同じ立場だったらテンパって役に立たなそうだ。
ある日の公演後、休憩室前の廊下でマリアとソフィアが話しているのを見かけてこっそり近付いた。いちゃいちゃしてんのかな…と思って会話に聞き耳を立ててみる。
「…――-なんだ、そんなことで拗ねてたの」
「そんなことって…」
「ごめんごめん、でもコニー嬢は王子殿下の恋人よ?私とどうこうだなんて有り得ない話でしょ」
「現に噂になってるんですもの。マリアさんとコニー様がお似合い過ぎるから…」
男装のマリアは金髪化粧済みコンスタンツェ嬢と並ぶと見栄えが良く観客の反応も良い為、演出としてエスコートして登場してもらったりしている。どうやらマリアとコンスタンツェ嬢をカップルとして見て楽しんでいる客層が出て来たらしい。オタク(の一部)はそういう萌え方しちゃうのもいるよな、わかる。マリアとコンスタンツェ嬢が本当に恋人なんじゃないかと尋ねられたソフィアが妬いているという話だった。
「彼女は第一王子ユリウス殿下の恋人だって言ってくれていいよ」
絵本サンドリヨンの出版の目途も立ったし、そろそろ噂を流そうかと思っていたので丁度良い。
「わっ!アマデウス様、いつの間に」
「き、聞いてらしたんですか…」
ソフィアが赤くなって縮こまった。ごめん。そういえばソフィアが不機嫌そうな態度をしているのはレアだったな。恋人に甘えて子供っぽい振る舞いをしていたのを見られて恥ずかしいらしい。
「しかしそれ、言いふらしてよろしいんです?」
「いいよ。…ただ、『次期王妃』とは言わないようにね」
「ああ、男爵令嬢だと王妃になるのは難しいだろうとはバドル様からお聞きしました…」
少し沈んだ顔をする二人。身分故に恋人の一番の妻になれないというのは可哀想に感じるのだろう。
「そうだね。娘を王妃の座につけようと狙っている貴族から、彼女を次期王妃だと流布しただろうなんて言いがかりを付けられると困るから…そこは濁しておいて。でも、否定はしないで」
「否定はしない?」
「『王妃になれない』とは、断言しないってこと」
マリアは何となく俺の意を察した顔になった。
「…なれるかもしれないのですか?」
声を潜めて尋ねたソフィアの言葉には、無言で笑みを返した。
飽くまで―――民が言い出したことにしておきたいのだ。
コンスタンツェ嬢が王妃になることを望んでいるのは俺ではなく、民。
いつの間にか無視できない大きな民意が出来ている、そういう形にしたい。
どういうことだろう顔になったソフィアの肩をマリアが抱き「話の続きは後にしましょう、宿を取ったから…失礼致します、アマデウス様」とスマートに誘導していった。あの言い方だと皆とは別に宿を取ったらしい。
つーかお泊りでしっぽりイチャイチャ出来るのくっ…っっっっそ羨ましい~~~~~!!!!!!
俺も早くジュリ様とそうなりたい!!!!!
こうしてコンスタンツェ嬢が次期王妃様らしい…?!という噂も、シンデレラもといサンドリヨンの絵本も、順調に広まっていった。
※※※
ディネロ先輩から『“サンドリヨンの靴”の売上ウハウハ』(要約)と報告が来て 商売上手なこった、そうだジュリ様に贈ろうと思い付いて早速提案した。
結婚式に白いものを贈るという約束が欲しいとの答え。皆の目を気にして照れてるのが可愛かった。
その時リーベルトが便乗してプリムラ様に贈る提案をして、沈黙を返されてしまい。
アルフレド様が唐突にカリーナ様に贈ることを仄めかして場が混乱した。
四年生、貴族学院婚活のピーク。
婚約者が欲しい人は将来を見据えて動き出さねばならない。俺はもう通過したと思っていたが、無関係ではいられなさそうだった。




