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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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世論



アマデウス・シレンツィオは録音円盤の発明者として音楽史で著名だが、政治に大衆の世論を利用した最初の人物といわれている。

アマデウスのプロデュースを経たコンスタンツェ・ソヴァールの人気は凄まじいものであった。


最初に着手したのはコンスタンツェを歌手として周知することだった。

既に国民的人気歌手を抱えていたアマデウスは、そこに少々歌唱能力は劣る金髪の美少女を投入する。コンスタンツェの容姿は金髪であること以外は平凡であったと伝えられるが、密かに広がりを見せていた化粧を用いて彼女を絶世の美少女に仕立て上げた。


宮廷音楽家テタルティより持ち掛けられていた『古き良き音楽の普及計画』に合わせて録音円盤が製造され、コンスタンツェは伝統曲『絹の来た道』の歌唱を担当。同時期に制作された『恋はあせらず』と二枚セットで一枚分の値段で発売される。しかもこの時期から円盤の値段のみで解説書もセットになった。解説書にはなるべく金に近付けた黄色で髪を着色されたコンスタンツェの絵画が印刷されている。大量生産された解説書とともにコンスタンツェの存在は当時としては驚くべき速度で国民に知れ渡った。ただ、その時点では彼女の素性は公開されておらずそのことも人々の関心を引いた。

謎の美少女の正体は発売3か月後に行われた演奏会でお披露目される。コンスタンツェ・ソヴァール男爵令嬢は国民的歌手の仲間入りを果たし、貴族の美しい令嬢が歌う所を一目見ようと王都のランマーリ劇場には人が詰めかけた。その演奏会の後に行われた慈善公演ツアーでは、各領で行われる公演の売上の半分を、領主が主導する薬局設立の為の資金にすると発表された。


第一弾はアマデウスのお膝元、スカルラット領で開催。演奏会の劇場では歌手が着用していた物と同じスカーフが販売される。黒地に薬草の葉の模様が染められ、女性歌手は頭に巻いて飾り男性歌手(男装の歌姫マリア含む)は首元に巻いた。歌手によって模様の色に違いを持たせ、推している歌手の物か自分の髪や目の色に合わせた物を身に付けることが大流行した。現在のファングッズ商法の先駆けといえる。“推し”と同じ物を身に付けられるというこのスカーフの発売は、憧れの歌手たちを身近に感じることが出来る上に自領の福祉の力になれるという社会貢献欲求を満たす効果もあった。

関係者であったソヴァール領、マルシャン領、ランマーリ領、シレンツィオ領など各地で公演を行い、その後も同意を得た領で行われた。薬局設立資金の為の公演であることが周知された以上、平民は公演が自領に招致されることを期待し、招致されないのであればそれは領主が民を思いやってくれていないのかと不満の声を上げる。吝嗇であると見做されることは面子に関わる為、ほとんどの貴族が放置出来ない。音楽とスカーフの流行と共に各領で薬局の設立を余儀なくされる風潮が広まった。


薬局設立計画の顔となり、“国民の幸福を考える貴族”として神輿に上げられたのがコンスタンツェであった。既に人気者であった歌手たちが彼女を支持することを表明していたのも人気に拍車をかける。元娼婦、元吟遊詩人、修道女、農婦と様々な経歴や個性を持つアマデウスの歌手たちは支持層がほどよく分かれていた。彼らの支持層がそのままコンスタンツェの支持層となる。平民は政治についてほぼ無知であり、自分たちに慈悲深いと聞く目立つ存在に好意を持つのは当然であった。

そして、貴族令嬢であることが判明した時からじわじわと『第一王子殿下の恋人である』と噂になる。演奏会にお忍びでユリウス王子が訪れたという噂も流れた。

そこから先を、誰が言い出したかは定かではないが――『コンスタンツェが次の王妃様である』と囁かれ始め、それを大衆が歓迎するのも当然の流れであった。


そして計ったように安価な絵本『サンドリヨン』が発売される。

継母と義姉たちに冷遇されているが前向きで健気な美少女が魔法使いに助けられて着飾り、舞踏会に行き、端正な貴族の青年と恋に落ちる。魔法が切れる前に急いで帰る途中、ガラスの花飾りが付いた綺麗な靴を片方落としてしまう。その靴を手掛かりに青年は少女を見つけ出す。継母と義姉たちの鼻を明かし、少女と青年はいつまでも幸せに暮らす――― 今や知らぬ人はほとんどいない古典御伽話だ。作者は不明の民話という扱いで出版された。企画者はフォルトナ・ヴィーゾ侯爵令嬢ということになっていたが、暫く後にアマデウスの依頼であったことを明かした。アマデウスに仕えた楽聖バドルが諸国から集めた話の一つと考えられている。

大量に刷られたサンドリヨンは、※『古き良き音楽の普及計画』に追随する形で国中の教会に寄付された(※…『古き良き音楽の普及計画』では田舎の教会に録音円盤と再生機が寄付された)。当時の教会では頻繁に読み聞かせや説教を行っていた。あっという間に絵本の内容は国中の子供とその親へと伝播する。主人公サンドリヨンはコンスタンツェの絵画と同じ髪の色をしていた。大衆がサンドリヨンをコンスタンツェと重ね合わせるのは必然といえた。


貴族の中で地位は低いが心優しく美しい男爵令嬢が、王子様に見初められ国の王妃となる――――その夢物語に国民全体が酔いしれた。そしてそうなれば自分たちの生活もより良くなると信じたのだ。


当時最先端技術であった録音円盤と発展途上技術であった印刷を用いた世論の形成、その強さを貴族たちは予想出来ていなかった。気付いた時には平民に加えて王都の外で勤務する貴族の血筋の者までがコンスタンツェが王妃になるものとばかり思っており、それを否定しようものなら信じられないものを見たかのような目を向けられることになろうとは考えもしなかっただろう。

コンスタンツェに王子の寵愛と薬局設立への強い意志があることは事実であり、ここまで大衆の支持を得てしまった男爵令嬢を押しのけて誰が王妃になったとしても、民や一部の貴族の目が厳しいことは必至。しかもシレンツィオ公爵家に入るアマデウスの後援があることは明らか。ユリウス王子の婚約者候補であった令嬢や令嬢の親は、コンスタンツェと王子の仲を裂く“国民的悪役”になってしまうことを危惧した。国中の子供に蛇蝎の如く嫌われている、サンドリヨンの継母や義姉たちのように。


コンスタンツェが王家から“聖女”と認定されたことが決め手となり、在学中に男爵令嬢が側室ではなく王妃の座につくことが確実視されるという前代未聞の結果をもたらす。

終生アマデウスのビジネスパートナーであったディネロ・マルシャン子爵の発言からしても、アマデウスが計算してコンスタンツェを王妃に据えたことは間違いない。



“「アマデウス様はこうなることがおわかりだったのでしょうか?」と尋ねると、ディネロ様は「当然わかっていたでしょう。あれ(※アマデウス)の発想には恐れ入る」と目を細めなさった。感心しているようにも、呆れているようにも見えた。結果的にアマデウス様はコンスタンツェ嬢を王妃にまで押し上げた立役者となった訳だが、私は、アマデウス様はコンスタンツェ嬢を王妃にしたかったというよりは、国全体で薬局設立を速やかに進める為にコンスタンツェ嬢を活用したのではないかと感じていた。それは幼少期平民として育った彼女(※コンスタンツェ)の望みとも一致していた。彼女が聖女となったのは、きっと二人の高潔な志を神が後押ししたのだ。そう感じ入っていた。” ―――『エーデルの日記』より引用




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(ウラドリーニ文学社・『大衆迎合主義の歩み』第2版より抜粋)




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― 新着の感想 ―
[一言] 世論がいい感じに肯定的になったらいいなぁくらいに考えてたら、予想以上の結果になってデウスくんと関係者がこわー…ってなってそう
[良い点] 普通にやれば結構な文字数が必要になりそうな内容を過去の歴史としてサクッと説明しているのに読み物として面白く。 あと推し概念とファングッズ商法概念が広まっているのに笑いました [気になる点]…
[良い点] ああーお茶濁される... でも,これでこれアリですねー [一言] チラ見せのアマデウス「ジュリ様は俺の嫁,王家にやるもんか!!」怒る方ゾクゾクします。
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