賭博の裏側
【Side:コンスタンツェ】
「―――…という感じでちゃんと邪魔をしてきた」
そこはかとなく自慢気な空気を出すネレウス様。無表情だけど慣れてきたら感情がわかりやすくなってきた。
アマデウス様とアナスタシア王女が接近し過ぎないように、お茶会に突撃してきたという話である。もう三日前のことだ。
「そういう使い方出来るんですね。予知」
「数日以内の予知なら魔力もそこまで消費しない。むしろそれくらい出来ないと予知能力者とは王家も認めん」
黒い箱の封印に関する数年の歴史の流れを読もうとするから大仕事なのであって、近い日の予知は案外簡単。そういうものなんだ。大仕事の為に彼の魔力は大事にしないといけないので滅多にしないそうだが。
「近い日時のことなら正確に予知出来るんだがな。大まかな歴史の流れを読むと、以前と同じ結果になる。…異界からの者が混じると、この世界の神の領域から外れてしまい、この世界の魔力で干渉し辛くなるのではないか、と神殿は考えたようだが…」
「よくわからないけど…。で、ロレンス様とアマデウス様に何て命令したんです?」
あのお茶会で起きたことは外には知られていない。
だが、あれから王女殿下は明らかに元気がない。お茶会に参加したマリシア嬢たちも詳しいことは話さないし、王女殿下との距離を測りかねている様子。
そんな中、参加者の一人のドロシー嬢が私に話しかけて来るようになった。ドロシー嬢は王女殿下やマリシア嬢たちと仲が良かったように見えたが、何か狙いがあって私に近付いてきているのだろうか。クラスで孤立気味だから正直助かるけど。
「ロレンスには… 『これから、人と接する時一度は必ず笑顔を見せるようにせよ』と命じた。あれは愛想が足りないからな、あれではアナスタシアが好意に気付かないのも無理はない」
「………」
ロレンス様も“あんたには言われたくない”と思ったことだろうよ。
ネレウス様としては、王女殿下にはロレンス様と上手くいって辺境に行っててほしいらしい。
近くにいられると…なんかやり辛い、と。
王女殿下は、本人の浅慮さも問題だがその類稀なる可憐さのせいで彼女の為に、と勝手に動く者が次々現れるところが面倒だそう。王家の者も例外なく彼女に甘い。王都にいると彼女の影響で何かしら王家に不満が溜まる可能性がある。
周りの者は王女の望みは叶えられて当然、という考えなのでアマデウス様が王女に靡かないことも不可解かつ無礼な態度だと感じているとか。確かにそんな思考だと軋轢も生まれそうだ。あ、アマデウス様が靡いてたらとっくに公爵家との軋轢が生まれてたんだ。
「僕が妨害せずにロレンスとジュリエッタとの決闘が決まっていたら、良い勝負にはなるがロレンスが負ける。それを防ぐのも目的の一つだった」
「ジュリエッタ様が勝つの?!え、ロレンス様って辺境伯家の嫡男だし…みっちり鍛えられてるって話じゃ…」
「僕も驚いた…剣の才はジュリエッタが上のようだ。ロレンスが女性相手に少し気概が削がれていたというのはありそうだが。辺境伯家は保守的だから女性は男が守るべきものという考えが強い」
「でも、ロレンス様が負けたら何かまずいんですっけ…?」
「歳のそう変わらない令嬢に負けたロレンスは著しく自信を失い、自分は王女に相応しくないと婚約者候補を辞退してしまう。それを防ぐ為だった」
「あー…」
ジュリエッタ様はお淑やかで大人しそうな令嬢だ。そしてロレンス様の好きな相手(王女殿下)の恋敵。好きな相手はジュリエッタ様の存在に心を痛めて泣いた。そんな相手に、誇っている技術で、剣で負けた。自分からふっかけた勝負でだ。剣でも恋でも敗者となった。腕に自信があったからこそ折れた心を持ち直すことが出来なかったに違いない。
「『アマデウスは公爵夫の地位を手放すつもりはあるまい。僕は君が姉上を守ることを期待している』と耳打ちしておいた。アマデウスもロレンスにアナスタシアの手綱を握ってほしくて発破をかけていたように見えたし、もう少ししっかり口説いてほしいところだな」
私の感覚ではロレンス様くらいの年頃の子が恋に素直になれないのなんて当然に思えるけど、平均的に見て貴族の男子は平民の男子よりも女子に優しいしスラスラとキザなセリフを吐くことも出来る。女目線ではやっぱりそういう人の方が魅力的に思える。不器用な人の方を好む女も勿論いるけどね。
「アマデウスには、“弟に私の悪口を吹き込むことを禁止する”と命じた」
「弟って…ジークリート様…?」
「『まだ吹き込んでませんが』とは言っていたが『これからも、という命令だ』と言っておいた」
「これから何をする気なのよ」
「別に悪事を働くつもりはないが。ジークリートがなかなか心を開いてくれないので、念の為兄から何か言われる可能性を潰しておくかと」
ちょくちょくちょっかいをかけに行っているらしいが、反応は悪くないのにすぐに逃げられるそうだ。案外ネレウス様はジークリート様に本気らしい。
「君の方は順調か?」
「頑張ってますけど、授業に付いていくのが今のところは精一杯です…5組にいた頃より進むのが早いんだもの」
「勉強は遅れたらまた家庭教師を派遣するので言え。勉強ではなく兄上との仲の方だ」
ぐっと唇を噛んで恥ずかしさを堪えつつ、観念して口に出す。
「…っ…5回、は口付けしました…。4回目と5回目は、ユリウス様も気絶しませんでした…」
「修行の成果が出たか。その調子で頑張れ」
何が悲しくて恋人とキスした回数を報告しないといけないのか、と思ってしまうが。
封印の為に必要な情報ではあるし、冬休みに家庭教師を派遣してくれたのも魔力の扱い方を教える人を派遣してくれたのも彼なので我慢する。
そう、キス三回目まで、私の魔力のせいでユリウス様は卒倒した。
流石に三回連続で卒倒したらおかしい、不気味だ、と思いそうなものだが「この気が遠くなる感覚が本気の恋というものなのかもしれないな…」なんて薄く笑って言っていた。大丈夫かこの王子、実は頭悪いんじゃ…?と失礼ながら心配してしまった。私としては愛想を尽かされなくて有り難いんだけども。
どんなに頭の良い人でも恋をすると馬鹿になったりするものだ、と母が言っていたのでそういうものだと思うことにする。
母には、恋人が出来たとは言った。どこの誰とは言っていない。
「コニーを大事にしてくれる人なら文句は無いけど…」と心配そうにしていた。私の身分的に第二夫人にはなるだろうけど、多分大事にはしてくれると思う、と言っておいた。
教室で二人きりになれちゃった時(最近ヤークート様が休みがちであまりいない。大失恋して体調を崩しているらしい)キスしながら胸やお尻を触って来たりするけど、流石に服に手を入れるのはダメと拒否している。ダメと言えば残念そうにしつつ聞いてはくれるし、まあ、一応大事にはされてるんじゃないだろうか。
―――と言ったらドロシー嬢に「ちょっと許し過ぎじゃない…?」と言われた。
でも好きな人だからそんなに嫌ではないし…魔力を混ぜる為に仲を深めないといけないから……うん。
「オルキス伯爵家のドロシー嬢と少し仲良くなったけど、彼女も王女のお茶会の内容に関しては全く口を割らないわ。まあ、王女殿下が公爵令嬢の婚約者にちょっかい出して拒否されただなんて恐ろしいこと、言えないわよね…」
「オルキス伯爵令嬢…ドロシー…ああ、そういえばいたな、君の傍に」
「え?…今までの予知の未来で?」
「ああ。どんな未来になったとしても君の友人、もしくは侍女として尽くしてくれる。仲良くしていい」
「そ、そうなんだ…」
嬉しいことを聞いた。気を許していいか迷っていたのだ。
第二妃になるにしても、私は平民の為に色々と企画していきたいし人脈、社交は大事だ。クラスの人とどう打ち解ければいいかわからなくて困っていたが、ドロシー嬢に相談してみよう。
色んなことが順調に思えたが――――――半年後。
王家が、ユリウス様が、頭を抱えて隠蔽に走り回る羽目になるほど、―――…王女殿下が、やらかした。




