表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/268

王女のお茶会②


【Side:ドロシー】



「本日はお招き頂きまして恐縮です」

ディネロ氏は緊張しているのか笑顔が苦手なのか、真顔で礼をする。

卒業したディネロ氏は学生ではないので事務室までエイリーン様が迎えに行った。濃灰色の上着の胸にはマルシャン商会のロゴが入った銀色のペンが光る。


「先に申告しておきますが、ディネロ先輩は私には敬語は使いません。使わないでいいと私からお願いしている結果ですので、ご了承下さい」

アマデウス様の台詞にカーティスは少しだけ面白くなさそうな顔をした。

アマデウス様がそれを許している人間を下に見るような態度は取れない。ディネロ氏が侮られない為に宣言したのだろう。

「…手間をかける」

「いえいえ。よろしくです先輩」

と小声で気安そうなやり取りをしている。共同で発明しただけあって仲は良いらしい。

「彼はわたくしにも敬語は使いませんわよ」とエイリーン様がお茶目に微笑んで和やかな雰囲気になる。


「皆様、来て下さって嬉しいわ。どうぞお座りになって」

大きな円のテーブル。上座にアナスタシア殿下、右手にロレンス様、左手にマリシア。その隣にカーティス。私はロレンス様の左に座る。

殿下の正面には主賓のアマデウス様とディネロ氏が隣り合って座った。両脇に婚約者の令嬢。私の隣にジュリエッタ様が座って緊張する。


近くでお姿を拝見するのは二度目。

“化物令嬢”なんて物騒な渾名がお有りだが、薄らと赤っぽい痣が顔半分にあるくらいで、容貌は普通だ。

しかし化粧をしていると公言なさっている。化粧品、白粉というのを使うと冴えない顔でも驚くほど美人になれると密かに評判だ。それを使って“普通”なのだから…推して知るべし。


エイリーン様と隣り合ったカーティスは赤くなってちらちらと彼女を盗み見ている。マリシアが反対隣にいるんだから自重しなさいよ、と思ったが私がその席でも同じことをすると思うので気持ちはわかる。見てしまうわよ。女神の美には抗えないわ。


「アマデウスが好んでいると伺ったので、緑茶にしました」

殿下が可愛らしくはにかんで、イリス嬢がお茶をカップに注いだ。澄んだ緑色のお茶、私は初めてだ。

アマデウス様はさらりと礼を言った。王女殿下からのものすごい贔屓、もっと喜んで見せるところでは?と思うが、あまり喜んでもジュリエッタ様が良い顔をしないか…。

「アマデウスは砂糖をおいくつ入れますか?」

「ああ、彼は緑茶に砂糖はお入れにならないのですよ」

殿下の質問にジュリエッタ様がにこやかに答えた。空気が一瞬固まる。砂糖を入れたり混ぜたり飲んだりしていた周囲もピタッ…と動きを止めた。すぐ動き出したけど。お茶を味わう余裕なんか無いわ。


おおう。

わかりやすく牽制していらっしゃった~…。


「そ、そうなのですね」と言いながら少しシュンとするアナスタシア様。アマデウス様は「ええ、まあ」と苦笑した。それを見てロレンス様の表情がまた著しく険しくなった。ヒィ。


すっ、とアマデウス様が少し左に体を寄せ、ジュリエッタ様に目配せする。

角度的に見えないけれど、わかる。というか体勢で皆わかると思うが―――この二人…机の下で手を握っている。

宥めるような視線のアマデウス様と目を合わせ、ジュリエッタ様も不穏な笑みからコロッと彼に夢中な乙女の瞳になった。

なるほど…?機嫌を取る術くらいお手の物って訳だ。

女誑しだって昔から有名だったからなぁ…。


空気を変えようと思ったのか、ディネロ氏が飲んだ緑茶がどこの国の銘柄かを予想し、当ててみせた。商会で取り扱っているから味や香りでいくつか見当がつくという。すごい。

お茶の銘柄で会話が弾んだ後、エイリーン様との馴れ初めを聞く。婚約パーティーの黒い衣装を調達する過程で、アマデウス様が二人を引き逢わせたらしい。そこから図書館で勉強を通じて親交を深めたという。図書館で芽生える恋って楚々として素敵だわ…。いいなぁ。


録音円盤と再生機については、素材に関してはアマデウス様、技術はディネロ氏が詳しいらしく慣れたように質問に答えていく。

殿下が「よかったら一曲弾いて頂けないかしら」とアマデウス様を見つめる。ここにはピアノは流石にないが、イリス嬢がリュープを用意していた。

「構いませんが…一曲というと何にしましょうか」

「弾ける曲はなんですの?」と聞いたマリシアに「大体の曲は弾けますよ」と答える。カーティスが「では…あの曲は?」と何曲か聞き慣れない曲名を上げた。意地悪したくなったのだろう、多分全然有名ではない曲だ。

しかし「大丈夫ですよ」「いけます」「ああ、覚えてます。懐かしいな…」と当然弾けると答えるアマデウス様。その上「カーティス殿、お詳しいですね!私もその曲好きなんです、10歳の時に楽譜を手に入れて…」と嬉しそうに語り始めた。カーティスの負けのようだ。


「うーん…では、ジュリ様以外の方の要望に致しましょうか」

そんなこと言っていいのかとひやっとしていたら、彼は彼女と目を合わせて「ジュリ様の要望はいつでもすぐお聞きしますから、今回くらいは別の方に」と笑う。

ジュリエッタ様も「ええ、そうですね」と柔らかく微笑んだ。

「丁度デウス様にお願いしたいことも思いつきましたし…」

「え、何ですか」

「それはまた後で…二人の時に」

「え~何ですか?気になる…ここでは言えないことです?」

「いえそんな…でもここでは少々恥ずかしいので…」

「恥ずかしいこと…?それは私が?ジュリ様が?」

「も、もう、問い詰めないで下さいませ…」


えっ? いちゃいちゃ…しだした……!?


私たち陣営は微妙な表情になってしまう。ディネロ氏とエイリーン様は平然としている。慣れているのだろうか。

そこはかとなく沈んでしまった殿下を見て皆黙ってしまったため私が『乙女の祈り』を希望。

アマデウス様はご機嫌な様子で素晴らしい腕前を披露した。



※※※



何だか想定していたのと違う。


自由に取れる飲み物やお菓子が並べられたテーブルに向かう短い時間にもアマデウス様はジュリエッタ様を恭しくエスコートし、仲良くお菓子を選んで、ひそひそと楽しそうに笑い合った。今も軽く腰を引寄せたりして密着して何か話している。見ていると恥ずかしくなってきて目を逸らしてしまう。


ここまで仲が良いとは思わなかった。仲は良いとは噂で聞いていたけれど…『問題なく良好』くらいに捉えていた。エイリーン様とディネロ氏は動じていない。慣れてるのか、やっぱり。

私もマリシアたちも案の定戸惑っている。ロレンス様とイリス嬢なんか凄い顔だ、殺気立っている。殿下が取り繕いながらも悲しみを隠せていないから。マリシアたちが慌てて励ますように話題を振っているけれど当然憂いは晴れない。



①アマデウス様が殿下と良い雰囲気になってジュリエッタ様が可哀想なことになるか、

②アマデウス様が殿下とジュリエッタ様両方に良い顔をするか、

③殿下とジュリエッタ様が一触即発になるか、

のどれかになると思っていたのだが、

④アマデウス様とジュリエッタ様がずっと仲良しで殿下が可哀想なことになる


…という可能性を私たちは考えていなかったのだ。



――――――だって、アナスタシア殿下よ???

こんなに愛くるしい天使のような方が、自分のせいで悲しい顔をしているのに????慰める素振りも見せずにいられるものなの???生まれつき罪悪感がないの???



アマデウス様は公爵家から迂闊な真似をするなと圧をかけられたのかもしれない。

それか、王女殿下に手を出すのは流石に洒落にならないと冷静になったか。ジュリエッタ様を大事にして見せることで意思表示しているのかも。“殿下との(こと)はなかったことにしたい”って。


しかしそれでは彼女たちは納得しない。

マリシアに目配せされて、私は仕方なしに立ち上がる。




「…ああっ!!申し訳ございません…っ!」

私がアマデウス様に話しかけて、楽師の話などをお聞きしていた少し前方でマリシアの謝罪が響いた。


マリシアが濃い色のジュースをわざとジュリエッタ様のスカートにかけたのだ。

王家の給仕にシミ抜きの魔法を使ってもらう為に一旦お茶会室から出て頂き。その隙に殿下とアマデウス様をバルコニーで二人きりにする為の作戦だった。


「…いえ、ごめんなさい。わたくしが手を出したせいでマリシア嬢のスカートにもかかってしまいました」

ジュリエッタ様は穏やかに返した。その手にはグラス。

マリシアがわざと手放したグラスを、落ちる前に素早くジュリエッタ様が掴んだのだ。その結果ジュースはマリシアのスカートの方に多くかかり、ジュリエッタ様のスカートにはほんの少しだけで済んだ。


…あれだけではすぐにシミ抜きが終わってかなり早く帰ってきてしまうかも…。


失敗寄りの成功であることはマリシアも感じているようで、微妙な顔をしてジュリエッタ様と給仕と部屋を出た。




「アマデウス、少しバルコニーで外の空気を吸いませんか…?」

勇気を出して殿下が誘うが、彼は少し困った顔をした。バルコニーはこちらの窓から見えるから二人になっても咎められる対象とまでは言えないが、中央の太い柱の向こう側に行ってしまえば死角になる。いちゃつくことも可能だ。

「貴方に、お話したいこともあるのです…」

殿下が宝玉のような瞳を潤ませて懇願する。これを断れる男はいまい。アマデウス様も観念したのか眉を八の字にしつつ頷いた。

「それでしたら、ドロシー嬢もご一緒に」


………えっ?



※※※



なっなんで私も。

断る上手い言い訳も思いつかないまま促されてバルコニーにご一緒することになってしまった。

殿下はアマデウス様をじっと見上げて彼しか見えていない様子で、そこまで私を気にしていないようである。もうちょっと気にしてほしい。

殿下が柱の向こう側、部屋から見えない位置に入る。



「…アマデウス…わたくし、今とても悲しいの。貴方が彼女の前でわたくしを慰めることが出来ないのはわかっているけれど…」

「……」

「今だけ、少しだけで良いから…慰めて…」


潤んだ瞳と声で、殿下はアマデウス様の胸に飛び込んだ。ジュリエッタ様が戻って来てバルコニーに来やしないかとハラハラしつつ、私はそれを見ない振りする。

殿下の小さな背中を、アマデウス様の腕が抱き締め――――――――





「んぇ…っ?!!?うぷっ」

ぐるりん、と私の方へ正面を向くように回された殿下。アマデウス様の手がぬっと伸びて、私の腕を掴み、引寄せ、ぶつかる。

私と殿下が抱き合うような形にされていた。殿下の美しい髪に私の鼻が突っ込む。間抜けな声が出てしまった。




…????????????




「―――――殿下。私には何を慰めてほしいのかさっぱりわかりませんので、悩みは親しいお友達などに打ち明けるのがよろしいかと。…誤解されるような振る舞いはそろそろ慎まれませんと、ロレンス様が悲しみますよ」



彼はそう言って私に殿下を押し付けて、大股で歩いてバルコニーから部屋の中に戻って行った。


ぽかんとしている私と殿下は取り残された。





ふと、同じクラスのリリーナ嬢が『アマデウス様はジュリエッタ様が本当にお好きだし、貴方たちが思っているようなことはないのよ?王女殿下に協力するのは考え直して下さらないかしら』とこっそり説得しに来たことを思い出す。

アマデウス様が公爵家に入るのが彼女の兄にとって望ましいし、ジュリエッタ様との仲が悪くなるのは困るからそう言うのだと思っていた。




――――――――――――――私は、私たちは、思い違いをしていた…?



そんな気持ちがぽつんと胸の内に生まれる。

私に押し付けた殿下を見下ろす彼の目。口元は一応の笑みを浮かべながら……目が。

心底、迷惑だと思っているような―――そんな目だった。

殿下を愛おしく思っている者の目ではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 誤解が解けた!! まだハッキリ確信してないだろうけど、 勘違いだった事が伝わってよかった(。>д<) [気になる点] 同じ場面の違う人視点も気になるし! その頃のジュリ様たちも気になるし!…
[一言] 甘やかされて育ってきたから本気で手に入るとか思ってそう。手に入らない理由をジュリエッタのせいにして酷い事しないか心配。
[一言] あーこれはめっちゃお怒りですねアマデウスさん……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ