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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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無邪気な人



【Side:ジュリエッタ】





朝、目が真っ赤に充血してしまっていた。

目の周りも腫れてしまってみっともないことこの上ない。


モリーには夜中目が痒くて擦ってしまったと言い訳した。顔を濡れ手拭で冷やして目薬を差したがあまり改善せず、わざわざ治癒師を呼んだりしてお父様に心配されるのも気が引けて、久しぶりに仮面を被って学院へ行く。

一応試しに服の中に腕輪を付けたまま訓練もしてみた。体調が悪くなることはなかったが、夕食の後外すまではあまり気が休まらなかった。


父も試しにこの魔力を抑える腕輪をつけてみたそうだが「小一時間で吐き気がしてきた」と言う。かなりの魔力を消費するらしい。

魔力をずっと使っている状態なら少なく計測されるのでは?と思ったが、魔力計はその人間の生まれ持った魔力量をちゃんと計るようになっている為、魔力を使い切っていたとしても万全の状態の量をちゃんと計れるという。

もっと杜撰な物だったら良かったのに。


このままでも問題なさそうだが、それでもかなりの魔力量が出るので三年生の魔力測定までにもう少し抑えられるように改良を頼むとお父様が言ってくれた。



私の体調を案じてわずかに曇る父の顔を見て、夢の中でやらかした親不孝が申し訳なくなった。

お父様も伯父様もモリーも、私を大切にしてくれていたのに。自分の苦しみのことしか考えられずに全部放棄してしまった。

自死なんて選んで。

私が死んだ後の皆の心痛を思うと―――――たかが夢、そうは思えなくて、私は心の中で謝罪した。




次の日にはまた化粧をして登院し、いつも通り振る舞っていたつもりだったが、馬車の中で彼に気落ちすることがあったかと心配された。私が気付いたように、彼も気付いてくれる。嬉しくもあり少し気まずくもある。



あの夢のせいで、この先振られるんじゃないかという懸念が拭い切れず。

何かしてほしいことはないか、と訊くと膝枕という聞き覚えの無い行為を要求された。

どんなに高価な物でも強請られたら差し上げるのに、そういう物は特に欲しがらないから喜ばす方法は本人に訊くしかないのだ。

太腿の上に人の頭を乗せたことなど勿論無いので緊張した。彼の洗髪剤の匂いがわかるほどの距離、真っ赤になった可愛らしい耳。彼の髪の感触、頭の重みを時間が許すならもっと感じていたかった。愛しくて幸せな重み。


焦燥は消え去ってしまって、幸せな重みだけが残る。





※※※




演奏会が間近に迫り、デウス様が手早く挨拶だけして帰ってしまわれた日。

お友達と情報交換していたら少し遅くなってしまった。校門近くで皆と別れたところで呼び止められた。

私が一人になるのを待っていたのだろう。


「シレンツィオ公爵令嬢。お嬢様がお呼びです」


イリス・モデスト伯爵令嬢。彼女がお嬢様と呼ぶのは王女殿下のことだ。母親が宮廷侍女長を務め、幼い頃から王女殿下の傍に侍る忠実な侍女候補。

デウス様に突然脅しをかけたという。冷静そうな見た目によらず激情を秘めているらしい。いや、拗れた忠誠心というべきか。



王女殿下と少し離れた廊下に見張りの騎士がいるお茶会室。窓から差し込む夕陽に照らされた王女殿下の横顔は、息を呑むほど美しい。


「あ…、急にごめんなさいね、ジュリエッタ。どうぞ、お座りになって」

こちらを見て目の前の椅子を指し示し、にっこりと笑う。暫くデウス様にちょっかいを出していなかったようだけど、私だけを狙って呼び出したということは……


正直座りたくなかったがイリス嬢が椅子を引いた状態で待機している。仕方なく腰かける。

「もう暗くなりますわ。殿下も早くお帰りにならないと…」

「端的にお願いしますね。アマデウスとの婚約を解消してほしいのです」

「……」

申し訳なさそうに美しい眉を下げながら私を真っ直ぐ見る純粋な瞳。デウス様とは少し異なる、綺麗な緑。…憐みが込められた瞳。


「わたくしが彼に想いを寄せていることはもうおわかりよね。貴方には本当に申し訳ないと思っているけれど…これから先も、諦めずに彼と親交を深めていくつもりよ。時間をかけて愛を伝えれば、彼は私を愛してくれる。それはわかるでしょう?」



―――――傲慢ともいえる理屈に、否と返すことが出来ないほど…彼女は綺麗だ。



周囲に愛されなかったことがない。

好意を伝えた人が応えてくれなかったことがない。

頑張れば愛されるという確信がある。



ああ、――――――――――――なんて無邪気な、羨ましい人。



「これからゆっくりとわたくしと彼が愛し合うのを眺める羽目になるなんて…貴女は辛い思いをする。早いうちに、貴女の方から彼を見限ってやった、という形で婚約を解消した方がいい。そう思うの。だって彼は―――綺麗なものが好きだもの」


ぐさりと心臓を針で刺されるような感覚がした。


「その…たまにいらっしゃるのよね、綺麗なものに興味が無い人。崩れたものがお好きなの。廃墟とか、古いものとかに美を見出す…わたくしにはその趣味はよくわからないけれど、そういう人は…器量の良くない人がお好きだったりするの。でも、アマデウスは違う…彼は美しいものを素直に美しいと思っている人。目を見ればわかるの。わたくしのことをとても綺麗だと、好ましいと思っている。だから…いずれわたくしに応えてくれる。今彼は貴女を大事にしているけれど、貴女を邪魔に思ってしまう日が来る…」



少し言いにくそうにはしつつずけずけと嫌なことを言う。やはりユリウス様の妹君だ。王家は王子王女を甘やかし過ぎではなかろうか。

王女殿下はおそらく私を傷付けようとこう言っているのではない。本心で申し訳ないと思っているが、こういうことだから諦めてほしいと、優しく説得しているつもりなのだ。自分の残酷さが理解出来ていない。まだ…真実、少女なのだろう。



わかっている。デウス様は醜女好きではない。

私の手前他の女子に見惚れないようにはしているようだけど、アルフレド様には時々見惚れていらっしゃる。

今は私を好いてくれていても…こんな美少女に健気に好意を寄せ続けられたら、彼だって…



恋人が別れること。夫婦の仲が冷めること。口では伴侶に良いように言っておいて、愛人を囲うこと。世の中で当然のように起きている、心変わり。

デウス様がずっと私を好きでいてくれる確信なんて私には持てない。どうしても。物心ついてからずっと減り続けてきた自信が、醜い痣が、あの絶望的な夢が、許してくれない。





…それでも今は。今は、…私を愛してくれている。





「聞き分けて頂けるわね、ジュリエッタ…?」

「…お話、拝聴しました。大変、恐縮ですが――――――――――死んでも、嫌ですわ」

「えっ…、」



王女殿下は心底驚いた顔で絶句した。断られるなんて露ほども思っていなかったらしい。予想を外してやったことに少しだけ胸がすいた。


私の言葉だけをなぞれば毅然としていたかもしれないが―――声は小さかったし少し震えていた。王女殿下の顔を真っ直ぐ見ることも出来なかった。

地面を見ながら「御機嫌よう」と言い捨てて逃げるようにその場を立ち去る。


まだ彼を奪われた訳ではないのに、惨めな気分で帰路についた。





※※※





次の日の帰り際、彼が薄紅色に塗られた文字が書かれた薄い板を差し出す。お願いしていた演奏会初日の入場券だ。


貴族は護衛がつくし、見ず知らずの平民と隣り合う訳にはいかないので必然的に個室のように区切られた露台席になる。露台席は最大で5人程入れるので、カリーナとプリムラと行かせてもらう。

彼の劇場は基本的には平民向けに作られたので露台席は少ない。申し込みが多かった場合くじ引き…抽選になるそうだ。初日は抽選で、外れてしまって観られないと“信奉する会”の一部の令嬢が嘆いていた。


卑怯かもと思ったけれど、初日に観に行きたいとお願いしたら二つ返事で確保して下さった。

「信奉する会や他の方から…苦情を言われませんでしたか?」

「『婚約者を贔屓してずるいです』とかるーく文句をつけてきた方はいましたけど。『婚約者を贔屓しないで誰を贔屓するんです?』と返して納得してもらいました。ジュリ様以外確保は受け付けてないですからね、平等でしょう」

それは納得というより、呆れて返す言葉がなかったのかもしれないけれど。

「ふふっ…、ありがとうございます。楽しみですわ」

「気に入った曲があれば教えて下さい。楽譜はお贈りしますよ」

「全部買うつもりですが…」

「お贈りしますって」

「いえ、貰ってばかりでは申し訳ないのでちゃんと購入します」



王女殿下に喧嘩を売られた(向こうは喧嘩のつもりはない、そもそも対等とみなされていない)ことは心を重くしていたが、細心の注意を払って普段通り振る舞ったので流石に気付かれていない。

デウス様に話そうかとは何度も思ったが、思い出したくないし口に出したくもなかった。告げ口みたいになるのも嫌だった。きっとこの話をする私はあまり感心出来ない顔をしている。そんな顔を見られたくない。

報告がてら父かカリーナたちに話すことは考えたが、どうしようもない泣き言になりそうで躊躇していた。



「そんな気にしなくていいのに。結婚したら全部そちらの家に持っていくんですし…でもまぁ、ジュリ様が気になるならお好きなようにしてもらっていいですけど」


当り前のように私と結婚する未来を想定している彼に慰められる。

そしてますます言えない、と思う。

こうして頻繁に好意を示してくれている彼に、心変わりするのを恐れている、だなんて言えない。流石に失礼の域に当たるだろう。ここまでしているのに面倒な女だ、と思われたくない。彼はそうは思わないかもしれないけど、優しいから気を遣わせてしまうことにはなるだろう。




隣にいる権利を、無邪気な笑顔を、優しい指を、手放したくない。自分から離れたりなんて死んでもしない。離れるとしたら―――彼に拒絶された時。



彼の言葉で心が少し軽くなるも、どこか心に重苦しい鬱憤を抱えたままでいた。





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― 新着の感想 ―
うーん、お辛い。アマデウスの普段の態度に自白剤使っての尋問も、結局「今」であって「未来」を保証するもんではないからねぇ。こればかりは自身の強さを育むしかないもんなぁ。でも、王女に否を突き付ける事が出来…
[一言] 頼む抱いてくれ!!!アマデウスの愛の深さを教えてくれ!!そのまま孕ませでもして、結婚しろ!!!ずっと一緒にいろ!!!!!!!!! こういう恋のすれ違いを見ると悲しくなります。
[良い点] 健気な美少女「こんな美少女に健気に好意を寄せ続けられたら、彼だって…」 本人的には深刻な問題と分かっていても読者目線だと「自己紹介と惚気かな?」となっています 「愛しくて幸せな重み。焦…
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