人生の岐路
僕を取り合い? なんて馬鹿な想像をしていたけど、二人は姉妹なんじゃないか?……そう思ってしまう程仲良くしていた。
家事全般、いや、なんでもできるオールマイティの泉、特に料理に関してはプロ並み、愛真は泉に料理を教わりその腕に心酔している様だった。
年齢は一緒の二人、でも見た感じは、愛真が妹で泉が姉って感じだ。
二人は喧嘩する事も無く、仲の良い姉妹の様に、仲良く料理をしたり洗濯をしたりと家事を分担して過ごしていた。
そして今も僕の目の前で、二人で仲良く夕飯を作っていた。
可愛らしいお揃いのエプロンをして、味見なんかをしながらキャッキャと楽しそうに料理をしているのを見ていると物凄く心が和む……和む筈なんだけど……僕はあのお風呂で聞いた話……(覗き疑惑(疑惑じゃない!言いがかりだ))と、愛真の説教、そして深夜の愛真の訪問のあの日から頭の中のもやもやが晴れず、何も手に付かなくなっていた。
そうあって僕は何もする事も出来ず……ダイニングでボーッと二人を見ていた。
可愛い美女が二人、僕の為にご飯の準備をしてくれる……なんか嫁が二人居る様な、うーーんどっちかって言うと、愛真が小姑って感じだけど……。
そんな思いで二人を眺めていると、僕の視線に気がついた愛真が持っていたお玉を僕に向けて言った。
「真ちゃんほら、暇だったらお風呂の掃除してお湯を入れてきて」
「……え、えええ?」
「もう、聞いたよ! 何でもかんでも泉さんにやらせて、少しは泉さんの手伝いを、家事をやりなさい!」
「いや、でも」
僕だって出来ないわけじゃない、泉が来るまでは何でもやっていた。だから僕がやろうか? と泉に何度か言ったけど、自分がやりたいと言って、全て断られていた。
「あのね、泉さんがやるって言っても、やるの! 奪ってでもやらないと駄目なの!」
「いや……でも」
「勉強だって真ちゃんよりよっぽど出来るし、友達もいっぱいいっぱい居るし、ただでさえ忙しいのに更に家の事を全部して、更に真ちゃんの面倒まで見て……なんとも思わないの?」
「……はい」
ですよね……。
「わかったらとっととやる!」
「は、はーーい」
「はい、は短くはっきりと!」
「はい!」
愛真に言われ僕はキッチンを後にする……泉は少し困った顔をしていたけど、何も言わずに僕を見ていた。
久しぶりのお風呂掃除なんだけど……僕が掃除をしていた時とは違い、どこを掃除すれば良いのかわからない位お風呂場はピカピカに磨かれていた。
「うーーん」
とりあえず振りだけでもと、僕はスポンジを取り出し洗剤をバラマキ何となく風呂桶を洗い出す。
恐らくすでに洗ってあるのだろう、髪の毛一本落ちていないお風呂場……いや、変な物を探そうなんてしてないぞ!
そう言えば、いつも僕の後にお風呂にはいっている泉、「お兄様よりも先になんて入れません」と言っていたが、本当は……。
そして、そんな事を考えながらゴシゴシと風呂桶を洗い、シャワーでさっと流しお湯をいれた。
ドボドボと音を立ててお湯が溜まって行く。
それをぼーっと眺めながら、「この後また二人は仲良く入るのだろうか?」なんて事を思う。
そしてそれと同時にあの時の……あの二人の裸体、胸が……おっぱいが僕の頭に浮かぶ……。
「く、ふ……ふ」
嬉しさと戸惑いと……なんとも言えない感情が込み上げてくる。
泉は勿論知らないが、生では昔チラリと見た事がある。
怪我をしていた時にブラ越しに見たけど……生は……。
だからこそ、今の変貌ぶりにあの胸の大きさにブラをしていた時なんかよりも大きい事に僕は驚いた。
小学生の時から大きかったけど……あそこまで……とは……。てか、ブラを外した方が大きく見えるの? なんて疑問が頭に浮かぶ。
「……違うそうじゃない、今はそんな事を考えている場合じゃない」
僕はそう言って頭を振った。
そして……僕は何故こんな事を考えてもやもやしているのかわかっている。
なぜか……それは……その考えに、自分の気の多さに嫌気がしていた。
そうなんだ……あれだけ、泉の事がやっぱり好きだと、兄妹でも良い、一生泉と一緒に居たいって一緒に居るって心に誓ったのに……僕の気持ちは大きく揺らいでいた。
愛真……そして……凛ちゃん。
二人の事がどうしても頭を過る。泉の事だけを考えようと思っても二人の顔が浮かんできてしまう。
一番好きなのは泉……それは間違いない。
でも……大差があった泉と二人の差は、僕の中ではもうあまりない。
すぐにでも、逆転してしまう……そう感じていた。
僕はマザコンだ、それはこの間わかった。
泉は妹になりたいと、僕の妹になりたいとそう思っている。
同じ穴のムジナ……おなじトラウマを持つ者。
そんな二人が一緒に居ていいのだろうか? ずっと傷を舐め合い生きて行っていいのだろうか?
あの言葉が、愛真の言葉が僕の頭の中に浮かぶ。
『そんなの許さない……お父さんもお母さんも居るのに普通の家庭に出来ないなんて……私の好きな人の将来をそんな事にするなんて、そんなの許さない……貴女の、泉さんのエゴに真ちゃんを巻き込まないで!』
あの叫び声がずっと僕の頭の中で鳴り響いている。
「将来……」
高校2年……進学……大学、就職……。
この先僕にどれだけの出会いがあるのだろうか?
でも、これだけ僕の事を考えてくれる人は女性はもう……この先二度と現れないだろう。
僕は……どうすれば……。
人生の岐路……僕は今、人生の岐路に立っているのかも知れない。
この先僕が、自分が幸せになれるのは、そして僕が幸せにできる人は……多分3人の中にいる。
「ちょっと真ちゃん! なにぼーっとしてるの、お風呂溢れてる!!」
「え? あ!」
愛真がお風呂場に飛び込んで来て、お湯を止めた。僕は考え事をしてぼーっとなっていた。いつの間にか風呂桶一杯に溜まっていたお湯があふれ出ていた。
「もう! お風呂も入れられないとか……」
呆れ顔で僕を見る愛真……あれ、なんだろう……そんな顔で見つめられているのに、なぜだか僕の胸が熱くなる。涙が出そうになる。
「ご、ごめん」
僕はそう言って、その場を慌てる様に後にする。
「し、真ちゃん?」
その声を無視して、僕は慌てて部屋に戻りベットに倒れこんだ……。
間違いない……僕は愛真の事も……。
ベットの上で身体を抱え、僕は自分を責めた。
どれだけ優柔不断で、気が多い駄目な奴なんだと、僕は自分を責め続けた。




