正座
いい匂い漂うリビングにて僕は美女二人を前に……正座をしていた。
長い時間お風呂で話し合っていた二人はのぼせそうな位真っ赤な顔で僕の前に座っている。勿論ソファーに、僕は床に……。
寝間着姿の二人、これがこういう状況でなければ楽しめたのに……なんて考える余裕もなく愛真の説教が始まる。
「本当真ちゃんは……」
「ご、誤解だ!」
「じゃあ何してたのよ!」
「そ、それは……ね、猫がいたから……」
話を聞いていた……とは言えなかった……。
「また猫……聞いて泉さん、真ちゃんって困った事があるといつも猫のせいにするの、前に私の下着を」
「わーーわーー!」
「うるさい! この際泉さんに真ちゃんがどういう人か知って貰った方がいい!」
「わーーわーー!」
「うるさい!」
「そんなあああ、過去の事をほじくるとか」
「過去って、さっきも同じ事したでしょ!」
「だってえええ」
「だってじゃない!」
愛真は真顔で僕を睨み付ける……助けて泉と泉を見ると泉は何か心ここにあらずの様な考え事をしている様な表情をしていた。
「泉さん聞いて! 真ちゃんはねえ、小学生の時、お母さんの生理用品で実験するとか言って、テレビのCMとかの様にコップの水をかけたり、洗濯していたブラジャーを頭に乗せて耳とか言って遊んだりしてたの」
「……え? ええ?!」
「だから一つ一つ私が教えたの……それは遊んじゃいけない物だって、特に生理用品とかは駄目だって、でもしんちゃんポカンだし……だから……学校で貰ったプリントとかを見せて……恥ずかしかったけど……私が」
「だ、だって……」
僕は女の子……ううん、女の人を知らないから、今までお手伝いさんしか接点が無かったから……お母さんを知らないから……それらがどういう物なのか知らなかったから……。
「わかってるよ……だから恥ずかしかったけど……私は真ちゃんのお姉さんだから……って。
真ちゃんまだまだ女の子の事をわかっていない……あの時と小学生の時から何も変わっていない」
愛真の説教は昔から一つ一つが胸に突き刺さる……本当にお母さんの様に優しくも厳しい言葉を僕に言ってくれる。
でも、でも今は……泉が泉がいる……僕にだってプライドはある……泉の兄として……そんな威厳は無いけれど……でも……。
「真ちゃんはずっと一人だった……それは知ってる、でもね、そう思っているのは自分だけ……今は私だって、泉さんだって、一萬田さんだっているんだから……あと……そんなに見たかったなら……いってくれれば……その……」
火照った顔が更に真っ赤になる愛真、しかしその横にいる聞いているのかいないのかわからない様な表情の泉はその愛真の最後の言葉にピクリと反応し、ジロリと愛真を睨みつける……聞いているんですね泉さん……」
「えっと、とにかく……真ちゃんはもう透明なんかじゃない、最新のステルスなんかじゃないんだから! わかった!」
「は、はい!」
「よし! じゃあ泉さんどうぞ!」
「! ええ?!」
これで終わりじゃないの? 僕が困惑した顔でそう言う。
「私が見られた分の説教は終わり! 次は泉さんが見られた分!」
「そ、そんな……」
そう言われ、僕はさっきの二人の姿を、あらわになった胸が頭に浮かぶ。
昔よりも大きくなった愛真の胸……そして、この世の物とは思えない程に美しかった泉の……。
「なに鼻の下伸ばしてるの? 真ちゃん、説教じゃ足らない?」
顔は笑っていたが、目が……人でも刺すような、狂気の目になっている愛真……。
「な、なにも、いいえ、なにも考えていません、反省してます」
覗くつもりはなかったが結果ああなってしまった。
「そ……じゃあ泉さん」
「……あ、はい……」
愛真が泉にそう促したが、泉は相変わらず考え事をしている様子……。
そして……数十秒の沈黙の後、意を決した様に口を開いた。
「……お兄様……お兄様は……迷惑ですか? 私と兄妹になった事」
「え?」
「お兄様は……無理をなされているのですか?」
「ちょ、泉さん」
「泉……」
さっきお風呂で言っていた……泉のエゴを押し付けるなと……僕は僕自身……今はこれで良いと、幸せだと思っている……いや、思っていた。
でも……でも一生このままは……ずっと兄妹で居続けるのは……。
好きな人と大好きな人と……兄妹で居続ける事は……嫌だ……って今はそう思っている。
でも……もしそれを言ってしまったら……僕は泉を失う……この生活を、この幸せな生活を失うかも知れない。
「そ、そんな事無いよ」
僕は笑顔でそう言った。
「お兄様……」
僕の言葉で泉に笑顔が戻った……そう……これで良いんだ……この笑顔を失う位なら、これでこのままで良いんだ。
僕は自分にそう言い聞かせた。




