1 プロローグ
「おばあちゃん、どうしてそんなに人に優しくするの?」
幼い頃、私はしょっちゅう尋ねていた。
すると、いつも祖母は笑ってこう答えたのだ。
「人に優しくすると、巡り巡って自分のためになるんだよ。【情けは人の為ならず】って言うの」
その言葉は、私の人生の指針になった。
身勝手な選択をした両親に捨てられた私は、祖母に育ててもらった。
祖母は近所の人にも、通りすがりの人にも、誰にでも親切な人だった。お裾分けをしたり、道案内をしたり、見知らぬ人の話し相手になったり…、お金に困った誰かに施しをしたりもした。
人見知りが激しかった私だけど、祖母の横で一緒にいろんな人と話をしているうちに少しずつ変わっていった。
祖母の背中を見て育った私は、自然と人に優しくすることが当たり前になった。
だけど…、現実は厳しかった。
高校では「お人好し」と馬鹿にされ、大学では「都合のいい女」として利用された。
就職しても、仕事を押し付けられて手柄を奪われた。恋人に裏切られ、友人にも距離を置かれた。
それでも…私は、祖母の言葉を信じていた。
【情けは人の為ならず】
誰かのためにしたことは、いつか自分に返ってくる。…そう信じて。
祖母が亡くなった日、私は泣きながら仏壇に手を合わせた。
「おばあちゃん、私…、間違ってないよね?」
大切なたった一人の家族を失い、深く傷ついた私のもとを訪れたのは、かつて私を捨てた人達だった。
助けてほしい、今まで悪かった、これからは俺たちがいてやるからな…。その言葉を信じ、体が辛くてたまらないという人のために身を粉にして働き、尽くした。
思い出を勝手に売り払われ、家の中をめちゃめちゃにされて、もっとがんばるからやめてくださいとお願いして。
願いは聞いてもらえず、むしゃくしゃするという理由で…叩きのめされて。
……目を覚ますと、そこは見知らぬ世界だった。
薄く紫がかっている空、心地よい風になびく青く草原、甘い香りがする、不思議な…空気。
「……ここは?」
戸惑う私の前に、ふわりと光が舞って…降りてきた。
———ようこそ、フルールへ。私は…この世界の神の一人。あなたを歓迎するわ?
私は、異世界に転生したらしい…?
———あなたの魂は、優しさに満ちていました。だから…この世界に招くことにしたの
———人のために生きる者が、幸運を呼ぶ…。この世界には、あなたのような人が必要なのよ
———お願い、ここで生きて…幸せを、たくさんのひと に ・ ・ ・
遠くなっていく声を聞きながら、私は…、祖母の言葉を思い出した。
【情けは人の為ならず】
この言葉を信じて…この世界でも、生きていこう。
そう、決めた。




