28 (現場の命、都市の命)
レナと ジムがハンドガンを構え、スライドドアを開けて突入…。
私は 右から、ジムは 左から 敵がいないか銃を向けて確認する。
そして私は すぐに正面の敵に銃を向ける…。
大型冷蔵庫位のサーバーが6台並ぶ 中央区の運営システムのサーバールームの中で 椅子に座り、物理キーボード操作している…多分ヘンリーの後ろ姿だけだ。
私達が 部屋の安全を確認した所で、肥満の身体で必死に走って 汗をダラダラと流すピースクラフトと それに速度を合わしていた天尊が 入って来る。
「ヘンリー・ジャクソンですね…。」
私が男に言う。
「ええ、待ってました。」
「待ってた?」
「さあ、ヒトらしく 話し合いで解決しましょう。」
ヘンリーが 最後のエンターキーを押し、椅子を回して こちらを向き、手を上げる。
私は 銃を降ろして ホルスターに入れる…ただセーフティを掛けてはおらず、すぐに抜いて撃てる状態にしてある。
私が ハンドサインでジムに銃を下ろせと合図する。
「ジェームズ?」
ジムが 後ろ天尊に確認を取る。
「ああ、許可します。」
ジムがハンドガンを下ろす。
「さて、既に爆弾は投下されています…。
事態が どう転ぼうと私達の勝ちです。」
「でしょうね…で、何が望み?」
私がヘンリーに聞く。
詰まる所、この作戦は この部屋に来させない為の陽動だ。
このサーバールームで 何かをやったのでしょう…。
「私の目的は情報の公開です…。
安全で 公平だと言われている都市管理システムですが、実体は システム管理者を中心とした特権階級を優遇するシステムです。
このシステムの仕様を公にして、都市民にこのシステムを続けるか意見を都市民に仰ぎます。
そして、今、太陽系中のネットへアップしました…もはや駆除するのは無理でしょう。」
「何て事を…そんな事をすれば、この都市が如何なるのか理解しているのか?」
私の後ろにいるピースクラフトが言う。
「それが民主主義と言うものです。
あくまで考えるのは国民…政治家は国民に正確な情報を提供するだけで良いのです。
そして、民意の元に政策を決定する…これが正しいやり方です。」
「無教養な都市民に何が出来ると言うのか!!
彼らにシステムを任せたとして まともに運営出来るとは到底思えない。」
ピースクラフトがヘンリーに反論する。
「なら、独裁政治にすればいい…。
政策に失敗すれば都市民から殺されますが、あなたの好きに出来ますよ…。」
「………。」
「無理でしょうね…そうなった場合、あなたは自分が殺される事を理解している…。
さて、ピースクラフト…あなたには、2つの選択が出来ます。
システム権限を私に変更し、それなりに快適な余生を楽しむか…。
民主主義に乗っ取り、都市民に殺されるかです。」
情報を公開された時点で ピースクラフトは確実に都市民の敵になった。
民衆は 今の過酷な状況をすべてピースクラフトの責任だとし、彼を殺すだろう。
もし、生き残ったとしても 太陽系中のネットに拡散された以上、社会的に抹殺される事は確実だ。
この状況だと誰かの庇護の元暮らすしか方法が無い。
「1つ聞きたい…ジャクソン…。
君は、君の言葉で間接的に死んだ人に対してどう思う?」
「ヒトが生きる以上…常に何かを犠牲にしています。
私達に出来るのは、このバグに対してパッチを当て続ける事だけ…。
今回の件で この都市の様々なバグが浮き彫りにしました。
ピースクラフトの都市システムに パッチを当てて、同じ問題が起きないようにする。
それが、死者の犠牲を無駄にしない方法だと 私は考えます。」
「分かった…権限を返そう」
ピースクラフトは システムコンソールに触れ、認証をした。
「その決断は、今までの政策の中で一番良かったと思いますよ…。」
ヘンリーは そう皮肉を言い、管理者を引き継ぐ。
「良いの?」
ピースクラフトが戻った所で 私が聞く。
「ああ、確かにあなたの言う通りだ…。
あの遺体を見ては、もう人を数字として切り捨てる事は出来ない。
彼が新しい、ピースクラフトだ。」
現場は 上に対して『人の命を数として考えている』と言う。
ただ、非情な決断を行えるのは『人の命を数として扱える』人だ。
そして、現場の命を理解した上で 数として切り捨てが行えるのが、私が思う正しい管理者だ。
ピースクラフトは もう現場の人になってしまい、切り捨てる事が出来なくなってしまったのだろう。
その時、天井が崩れ、上から来た何かが 6台のサーバーを破壊した。
瓦礫の破片が 散乱銃の散弾の様に降り注ぐ。
レナは咄嗟に、ピースクラフトの足をかけて、頭を掴み 地面に叩きつける。
「がはっ」
私は 頭を抱えて伏せ、散弾をやり過ごす…。
耐弾素材で出来ているパイロットスーツに 何発か破片が刺さっているが、貫通はしていない…。
問題は 地面に転ばせた 被弾面積の大きいピースクラフトで、破片が数発当たり、出血している。
「あああああ」
自分の血が出ると言う体験をした事が無いのだろう…。
『ああ』と声にならない音を発している。
「動かないで…。」
私は スラム街にいたので、応急処置程度なら 何度もやっているし、無理やり弾の摘出手術を行った事もある…まぁ相手は死んだけど…。
私が ピースクラフトの傷口を見る。
破片は ピースクラフトの分厚い皮下脂肪装甲に阻まれ、中まで到達していないし、出血も思ったより少なく…表面の皮膚だけだ。
「大丈夫 死なない…傷口を手で押さえて、それで当分は 大丈夫。」
「ぐっ…本当に…。」
「私は死なない人には嘘をつかないから…。」
私は 笑みを浮かべながら言う。
「皆、大丈夫?」
私は グロックを抜き、構えながら探す…。
「如何にか…。」
天尊は ジムを盾にして後ろに伏せたので、スーツが 細かい破片でボロボロにはなっているが、下にパイロットスーツを着込んでいた事もあり、無事。
「私も無事です。」
ジムは 伏せれられないのと ジムを守る為に盾になり、破片がモロに当たったが、DL用の装甲材と同じ物を使っている為、大した事は無い。
問題は…一番近かったヘンリーだ。
「大丈夫…いくつか貰いましたが無事です。」
突入部隊を指揮していたヘンリーは 当然ながらパイロットスーツを着ている。
「さて、何が…。」
ヘンリーが原因を調べて固まる。
天井から突き刺さっているのはワームだ。
「でも、前のとは違う…ミサイル形態?」
私は ワームに銃を向ける…この状況だと急所を狙ったとしても致命打は与えられないでしょうが…。
「あたっ…動かない…死んでいる見たいですが…。」
起き上がった天尊が言う。
「気を抜かないで…脱出を…。」
私は ワームに銃を向けながら後ろに下がり、スライドドアのスイッチを押すが作動しない…。
「閉じ込められた。」
「サーバーが やられたからでしょう…。
通常なら1時間位で残りのドームからのバックアップが受けられ復旧するはず…。」
私がボタンを連打する中、天尊が言う。
「1時間も?」
「この都市の規模だとその位掛かります…残るは空いた穴から出る方法ですね…。
ワームを足場に使えば登れます。」
「でも目覚める可能性があるわよね…。」
完全にワームが死んでいるか、今の状態じゃ分からない…もしかしたら 死んだふりをしている可能性もある。
「なら尚更、時間が経てば経つ程 目覚る可能性が上がるのですから…多少無茶でもやった方が良いでしょう…ここで目覚められたら、まず生き残れません。」
「分かった…。
ただ ジムとピースクラフトは如何するの?
あれを 上るのは無理よね…。」
「ジェームズ…私の収納ボックスから救急箱を出してもらえますか?
私は ピースクラフトさんを治療しつつ救助を待ちます。」
「仕方ない ですかね…。」
天尊がジムの後ろに乗る為の足掛けの上にある装甲を開ると、収納ボックスになっている。
ドラムは その体型のお陰か余剰スペースが多い…。
なので追加パーツなどの改造が利き、ジムは 緊急用の収納ボックスを装備している
「さて、行きましょう。」
『レナ…何処だ…レナ』
スピーカーから私を呼ぶ声…トヨカズだ。
助けに来てくれたのね…。
「こっち…こっうああああ」
トヨカズ機が シャベルでミサイル型ワームを突き刺す。
レナ達は スライドドアの付近で伏せる。
「せっかく助かったのに死なすつもり!?」
『ああ、そこにいたのか…今、天井を崩す。』
ワームが開けた穴が広がり、トヨカズ機のパワードが降りる。
天井が2.5mしか無く、立っているDLは 腹部までしか見えないがトヨカズが乗っていたパワードだと言う事は分かる。
トヨカズ機が しゃがんで、両手を出し…私がつかまると瓦礫の上に上がる。
『無事で良かった。』
「はぁ…まぁありがと」
皆を助けてくれたトヨカズに私が 一応の感謝をしつつ、トヨカズ機の護衛の元、中央区を出た。
そして、戦闘開始から2時間程…やっとトヨカズの戦闘が終わった。




