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14 (ポチョムキン通り)

 (あらかじ)めピースクラフトに連絡を入れといたトヨカズ(オレ)達は、天尊機で定刻通りピースクラフトに入国する。

 着陸し ハッチを開けると ピースクラフトの都市長『キース・ピースクラフト』が、黒塗りの高級車から出てきた。

 栄養バランスが完璧に調整されている完全食のソイフードが 主流のこの世界で 150cmで体重100㎏越えの肥満体型は非常に珍しい。

「ようこそピースクラフトへ…こちらへどうぞ。」

 高級車は2台あり、前の車に乗り込めるのは 後3人…レナと天尊は 顔を見合わせ、ピースクラフト、レナ、オレ、天尊で前の車に乗る事に決まった。

「あーガードマンさん?武器の携帯はよろしいですかね…。」

 助手席から出てきたガードマンにトヨカズが聞く…。

「ええ、構いませんよ…。

 とは言いましても この都市は平和な都市なので 使う事も無いでしょうが…。」

 あまり過剰なのも相手を信用していないと思われるか…。

 と言っても、下手に手を抜いてレナが死んだら意味が無し、こちらのやり方でいっか…。

「それじゃあ 後ろの車両はよろしく。」

 天尊がジムに言う。

「任されました…ロウさん行きましょう。」

「分かた、行こう」

 ロウにハルミ、それにジムが 後ろの車に乗り込む。

 トヨカズはM4アサルトライフルに予備マガジン4本、索敵用のゴリアテ6機、サブウェポンのステアーTMPとフル装備で 車に乗り込んだ。


 車の後ろの席は 向かい合うようにな配置になっていて、ピースクラフトの隣にトヨカズ(オレ)…その向かい側にレナと天尊だ。

 通常相手国の要人の隣に座るのは マナー違反なんだが、席が無いのでしょうがない。

 車が動き出し、後ろからロウ達が乗っている車が 間隔を空けて後ろから付いて来る。

「お久しぶり、元気なようで何よりです。」

 天尊が 営業スマイルをしながら、最初の挨拶を始める。

「天尊カンパニーからの商売が(とどこお)りなく、行われているおかげです。

 それで、そちらの方は?」

 ピースクラフトは レナを見て言う。

「わた…」

 天尊が 手を軽く前に出し、レナを止め、すぐにピースクラフトの方に顔を向ける。

「こちら、新しく砦学園都市の次期都市長になった『レナ・トニー』です。」

 天尊からレナの紹介をする事で レナの信用を担保する。

「よろしくお願いします。」

 ピースクラフトは 40位の口髭を蓄えた ブロンドでデブのおっさんだ。

 ファンタジーゲームの王様が着てそうな白い服にマントを羽織っていて、そこら中に宝石を付けている…。

 その宝石も、少し混じりっ気がある天然物で、見た目を自由に変えられる人工の宝石では無い事が分かる。

 天尊が主体でレナとピースクラフトが雑談を始める。

 後の交渉にスムーズに持っていく為の前段取りだ。

 正直『すぐに交渉に入れよ』と突っ込みたくなるのだが…500年以上もこの不効率な事をやってるんだから何かしらの意味はあるのだろう。

 オレは 窓から外を見る。

 7番中央道路…住民には『ポチョムキン通り』と呼ばれているらしい。

 狭い都市の貴重なスペースを不断(ふんだん)に使い、VRゲームに出てくるような中世ヨーロッパ風の庭付きの建物が並び、景観は とても良い…。

 が、よく見ると後ろにある白い塗装がされた高い建物は DLで設置する仮設住居だ。

 それも高低差の関係上よく見ないと気づかないように設計されている。

 昔、王様の視察で貧困の実態などを隠すために作られた見せかけだけの村があったらしい。

 その村の名前が『ポチョムキン村』だ。

 恐らくこの道の元ネタはそれだろう…。

 住民の身なりにも かなりの落差があり、所得の格差は かなり開いている。

 何より 通りかかる低所得者に生気を感じられない。

 低所得者の(しかばね)のピラミットに立つ王か…。

 オレは レナ達の雑談を聞き流しながら、窓の外へ意識を集中させる。

「トヨカズさん、そこまで神経質にならないでも大丈夫ですよ。

 私達を傷つけるようなヒトは この都市にはいません…。」

 ピースクラフトが言う。

「別にピースクラフトさんを信用していないのでは ありません。

 ただ初めての土地での要人警護ですから…この程度でちょうど良いとオレは考えています。」

 とピースクラフトを信用せず オレは 再び窓を見始めた。

「そうですか…。」


 後ろの車両。

「うおぉ、家いっぱい」

 外の景色が珍しいのか、ロウが窓に かじりつく。

「そんなに珍しいか?」

 ハルミ()はARウィンドウを(いじ)りつつ ロウに聞く。

「いろんな家、あって面白い。」

「ああ…砦学園都市もエクスマキナも四角いビルが基本だからな…。」

 狭い都市内で生活の生産拠点に娯楽施設などを密集させないと行けない都合上、特に住宅などの施設は上に高くなり、整備効率を上げる為 デザインは皆同じだ。

 私も窓から見て見る。

 確かに 家らしいデザインだな…ちょっと古いが。

「そうだ…ロウ…ファミリーネームはあるか?」

「ふぁ~みり~ねむ?」

「家族の名前だ。」

「ワイズウルフ、長老、呼んでた。」

「それは母親の名前か?」

「そうワイズ母さん」

 その長老ってのが ロウと母親に名前を付けたのだろう。

 ロウは ほぼ確実に雑食狼に育てられているだろうから、狩猟特化言語の狼語を使える。

 ただ常に集団で行動する狼の都合上、個体名を付けないし、過去や未来に関する言葉もない。

 ある程度 言葉が話せるのは、長老の所に いたから何だろうが…。

「ワイズウルフ…賢い狼か。

 『ロウ・ワイズウルフ』響き的には 問題無いか…」

 ハルミがARウィンドウのキーを入力していく。

「何、やってん、の?」

「ああ、ロウが砦学園都市に住むための書類な…。

 ここの名前の記述(きじゅつ)を考えてたんだ。」

 ウィンドウをロウに傾けて指を差して見せるが、ロウは理解していない。

「これ、文字?」

「そう これから学校って所に行って同年代…いや年下か…の人達と これを書けるようにするんだ…。」

「文字、必要?」

 ロウは 文字の重要性を理解していない見たいだ。

 まぁ文字を残して読み返すのは 未来だから発想が無いのか…。

「ロウはARウィンドウの文字が分からないだろう…。

 これから生活するのに絶対に必要だ。

 賢い狼の子なんだろう…。

 子供がLow(ロウ) Wolf(ウルフ)(低い狼)でどうする…。」

「勉強?」

「そう、勉強が苦手でも良いから取り合えずやってみろ…必ず役に立つ時があるから…。」

 ロウは(しばら)く考える素振りをして「分かた、やってみる」と言う。

「じゃあ まず オマエの名前は『ロウ・ワイズウルフ』だ。

 ちゃんと覚えて置けよ。」

「ロウ、ワイズ、ウルフ」

 一単語ずつ噛み締める様に発音する。

「気に入た、ロウ、ワイズ、ウルフ」

「そう、ロウ・ワイズウルフな」

「ロウ、ワイズ、ウルフ」

 ロウは 少し頬が(ゆる)み、嬉しそうだった。


「いやあ、天尊さんのおかげで 今期の収益も好調です…。」

 ピースクラフトは天尊を持ち上げつつ、間接的な自分の都市を褒める。

 自分の都市の自慢話がしたいだけ なのでしょう…かなり饒舌(じょうぜつ)だ。

 レナ()が必死で笑顔を造り、維持しながらピースクラフトの話に付き合う。

 ピースクラフトは 労働を奪う自立機械のドラムやエレクトロンを嫌っている。

 クオリア達を潜入に向かわせているのも それが原因だ。

「この都市は グローバル経済を中心に運営されているそうですが、我々の都市とは違い 安定を望まないのは何故(なぜ)でしょうか?」

 私が ピースクラフトに聞く。

「新しい物、新しい技術と言うのは競争や苦境から脱っしようとする力から生まれると考えているからです。」

 生物の淘汰圧(とうたあつ)かな?

 でも淘汰(とうた)される生物の事は 考えているのだろうか?

 それに、自分が淘汰(とうた)される可能性もある。

「なるほど…では競争で敗れる敗者については、どうお考えですか?」

「競争を行う以上、必ず敗者が出ます…。

 ですが負けた事が原動力になり、より良い製品を作ると私は 考えています。」

 あくまで良い製品を作る事が目的の競争で、犠牲になる敗者は放置って訳ね…。

 まあ良い製品を作る事で 生活水準が上がるから考え方としては間違えでは無いのでしょうが…。

「社会保障についてはどうお考えですか?

 調べた所によると この都市には無いとか…。」

「そう言ったサービスは 会社側が民間の保険会社と契約を行う形になっています…。

 別に無いと言う訳では無いのです。」

「失礼しました。

 何分(なにぶん)見習いの身でして…。」

 『保険料を払えない所得者の人は見殺しにするのね』と思ったが、私は 営業顔を維持しつつ話を続ける。

 都市全体と言う大きな(くく)りで見れば確かに成長が速いのでしょうが…低所得者の憎悪値(ヘイト)を無視すると暴動や暗殺の対象になると言う事を この人は知っているのかな?

 それにしても ワームに都市を壊滅させられる危険があるのに、よく落ち着いていられるわね。

 接待と歓迎をとっとと終わりにさせて 交渉に入りたいのに まだまだ 時間が掛かりそう。

 それまで ワームが待ってくれれば良いのだけれど…。

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