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12 (インフラで金儲けしてはいけない)

 人の思考は難しい…。

 常にロジックで動いている訳では無く、感情や気分と言った揺らぎがあり、不合理な行動を取る事も良くある。

 そして そのすべてを理解するには膨大な数の感情アルゴリズムと途方もない処理能力が要求され、実際、機械出身のエレクトロンがヒトとして振る舞うためには、人の100倍の処理能力が必要だ。

 ただ…クオリア()達からすれば『100倍で済む』とも言える。

 ヒューマノイドは その圧倒的な処理能力で人を深層学習(ディープラーニング)し、ゴリ押しで知性を手に入れた。

 それ(ゆえ)に ロジックがすべてで、感情による揺らぎを持つ事は無い。

 あの、人らしく振る舞えるヒューマノイドのジガだって 自分の行動をすべてロジックで説明できる。


 クオリア()達は ゲートに到着し、でっち上げた身分証明書でエアドームの中に入る。

 都市の管理システムの思考ロジックを解析し、それを元にロジックの誘導を行い 管理システムを納得させつつ、こちらの支配下に置く。

 基本がルールベースだから システム側のルールに逆らわ無ければ こちらに組する事も容易(たやす)い。

『スタンドアロンか…この都市には 9の都市システムがあって、それぞれ独立しているみたいだ。』 

『へぇ…1つが潰されても被害が最小限に食い止められるのか…。』

 私の言葉にナオが返す。

『しかも互いのシステムが互いを監視する相互監視システムだ…。

 誤魔化すにしても難易度が高い。』

 私達は短距離通信(内緒話)で会話する…。

 あくまで この都市システムとは 友好関係で、お願いを聞いて貰う立場を装う。

 不穏当な発言をシステムに聞かれ、信用ランクを下げられても面倒になるだけだ。


「じゃあまずは宿を見つけるか…。」

「宿の値段はどうする?

 近くにモーテルがあるが…。」

 ナオ(オレ)が言い、クオリアが答える。

「モーテルって、トラックドライバーが 休憩の為に立ち寄る宿だよな…。」

「ああ、ただトラックでは無くて、エアトラで空輸をやってるヒト向けだな。」

「あーマジで エアートラックになっちまったか…。」

 『空の物流を握るトラック』と言う思いを乗せて作られたエアトラが、今になって ようやく空のトラックをしている。

「都市同士の物流を結ぶ 大切な労働者だから、値段が安くて設備もそれなりに良いらしい。

 更に銃を持ったドラムが警備しているから防犯もバッチリだ。」

 銃で警備?防犯?

『なぁクオリア…ここは平和な都市だったよな…。』

 オレは 内緒話通信でクオリアに話しかける。

『今調べているが、中心のエアドーム…中央区と呼ばれているのだが、そこはイメージ通り平和らしい。

 周りを囲む外周区は 低所得と中所得に分かれていて、低所得者が住む地域は一部スラム化している。』

『これが 平和の都市?』

 話し合いで解決させると言いつつ 銃は携帯するのか…抑止(よくし)狙いか?

『まだ平和を創っている(ピースクラフト)中なのだろう…建国から500年程経っているが…。』

『うわぁ皮肉だな…。』

『だが、いろんな種族のヒトが出入りするこの都市で リボルバーで撃ち合っているのは まだ平和だとも言える。』

『え?何処(どこ)があ!?』

 オレはツッコむ。

『相手を本気で殺すならアサルトライフルやショットガンを使った方が 効率が良いからだ。

 それが無いってと言う事は、戦闘が発生しても小規模で終わるって事な。

 扱いやすく メンテナンスが簡単な リボルバーが使われているのも、撃っても6発で解決出来るレベルだって事。』

 オレの後ろにいるジガが答える。

『これが治安が悪くなると、オートマチックが主流になる…。

 扱いやメンテに手間がかかるが、総弾数がある程度 無いと解決出来ない事が多くなるからだ。』

 キョロキョロと辺りを見回しながら クオリアが言う。

『あーなるほど 確かに周りを見てもリボルバーが主流だな。』

 この都市に入る時 リボルバーの登録をしたが 拍子抜けするほど早かったのはそのせいか…。


 通常モーテルは トラックを止める都合上 2階建ての建物が多い。

 だが、狭いスペースを有効活用しなくてはならない この都市では、12階建てのマンション見たいな外観になっている。

 受付のドラムに話し、1泊3000UMの部屋を3人で借りる。

 1人辺り1000UMなので寮より少し高い位だ。

 中はそれなりに広く…と言うより、砦学園都市や日本の部屋のサイズが小さ過ぎるのだが、トイレ、シャワーなどは 普通にそろっているがキッチンが無い。

「キッチンは無いのか…。」

「そもそも ウチら3人は 食事をしないだろう…。」

 部屋のセキュリティを確認しながらジガが言う。

「まぁそうなんだけど…。」

「自販機は 階ごとにあるし、1階に売店とレストランがあった。

 宿泊料金が安い分 そこで吸い上げているんだろう。

 ちなみに 外周区の水道水は沸騰(ふっとう)させないと飲めないからな…。」

 今度は クオリアだ。

「は?」

「利益を優先した結果、水質が悪くなったんだ…この都市は良くも悪くも商売だからな…。」

「だから食事をしなくて良い ウチらがこっちに来たって訳なんだ。

 耐性の無いトヨカズが飲んだら体調が悪くなるに決まっているからな。」

 ジガがクオリアに続いて話す。

「インフラで金儲けを始めるとクオリティが下がるのは何処(どこ)でも一緒か…。」

 住民の生活基盤のインフラは 誰でも使えるように安くしなくてはならない。

 物を作るには 電気や水が必須で、これらの値段が上がると商品の値段まで高くなってしまうからだ。

 だが旧時代の日本では 原発に難癖(なんくせ)をつけて止めさせ 電力不足にさせ、面積当たりの発電効率が非常に悪く、太陽光を使う為、電力供給が不安定で停電のリスクを増大させる太陽光パネルを山の木を伐採して禿山(はげやま)にする位、立てまくった。

 そして奴らは これを『クリーンエネルギー』と呼んでいる。

 本当にクリーンにするなら安価で大電力を安定確保出来る原発を推進した方が環境が破壊される地域も限定出来て、皮肉な事に結果的 一番環境に良いのだが、効率の悪い 電力ビジネスをしている人が『原発事故』を理由に引きずり落とした。

 事故が起きたなら再発防止の為に改善と対策をして、もっと安全に運用 出来る様にすれば良い。

 それを危険だからと言う理由で 廃止してしまうのは ナンセンスだ。

 手に余る技術なら、研究し、手懐ければ良い…。

 人の歴史上…火や劇物など危険な物を無数の事故を対策し続ける事で 使いこなし、今の生活があるんだ。

 これは 事故と改善を永遠と繰り返し、最強の航空機システムになった『コパイ』が証明している。

「まさか…電気までクオリティが低下してないだろうな…」

 頻繁(ひんぱん)に停電が起きたり、周波数がコロコロ変わるなら…エアトラS2に戻って充電しないと行けなくなる。

「そっちは問題ない…エクスマキナからAQBを買っている。」

 クオリアが言う。

「なあ…他国からエネルギーの(かなめ)を買ってるって都市としてどうなのよ…。」

 日本は電力不足の為、原発の放射線より(はる)かに危険な二酸化炭素を出す火力発電を使い、他国に燃料を依存する国が出来上がった。

 そして 足元を見られ、燃料の価格が上げられても停電を回避する為、輸入し続けるしか無く、最終的にはロシアの経済制裁に巻き込まれる形で 燃料に大打撃を受け、大幅な燃料費の増加が、経済を更に追い詰められて行った。

 この都市も それをやっているって事か…。

「定期的に相手の物を買ってやれば 友好関係は上がる。

 だからAQBの供給が無くなる事は無い。」

「それは エクスマキナ側が裏切らない前提だよな…。」

「でも それが ここの都市の考え…。

 実際、私達が裏切ったとしても AQBの利益が無くなるから、損にしか ならない。」

 なるほど…損得で考える機械人だからこう言った事が成り立つのか…。


 少ない荷物を降ろし、部屋のドアを閉める。

 ガチャっと言う音がして、鍵が自動的にしまった。

 鍵のタイプは 砦学園都市と同じ、登録されている人が ノブを(つか)むと 開く、生体センサーだ。

 エレベーターで1階にまで降り、外に出る。

「さあ、今日中に 外周区8区を(まわ)るぞ。」

 モーテルの前に止めてある自動運転のレンタカーを1日契約で借り、走り出した。

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