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09 (戦うだけが戦闘では無い)

 翌日…。

 ナオ機の黒鋼(クロガネ)は 前線基地の設置をしていた。

 今後のワームの進行に対応する為、前線付近に弾薬や、DLのパーツなどを備蓄して置くんだ。

 こうする事で 前線部隊と入れ替えた際に DLの簡易修理がスムーズに行え、F1のピットイン並のスピードで補給が出来る。

 倉庫は DLサイズの折り畳みコンテナのユニットを繋げる事で出来ていて、ナオ機が コンテナを展開し、それを繋げていく。

 1コンテナの展開は慣れれば 10秒掛からず出来る為、DLが持ち上げられる2~3階建ての建物でよく使われる。

 砦学園都市の地上倉庫も同じ構造だ。

「よし、2つ目が完成…」

 ナオ(オレ)は 2つ目の補給基地の設置が終わり、次のポイントに進む…後1つだ。

 分散配置した補給倉庫が3つを1時間足らずで完成させ、ナオ機は穴掘りの手伝いに行った。


 ワームの攻撃は 自分の身体をぶつける体当たり攻撃のみ…。

 その為、落とし穴を設置して 先頭の足を止め、後続が止まった所を撃つ。

 ただ その落とし穴の規模が凄まじく、DLが楽に入れるほどの大きさの塹壕(ざんごう)になっている。

 昨日から、休憩なしのノーストップで ひたすら穴を掘っていくブラック労働状態の『ドラムキング』達…。

 ARウィンドウに表示される完成図から、作業場所が割り当てられ、ナオ機が向かう。

 シャベルを地面に突き刺し、体重をかける。

 5tの黒鋼(クロガネ)の重量でシャベルが更に沈み、てこの原理を利用して土をかき出す。

 土を塹壕(ざんごう)の上に()げ、山のようにして ワームに対してのバリケードにする。

 戦争は 四六時中ドンパチをやっている訳では無く、軍事行動の9割は穴を掘る塹壕(ざんごう)、拠点設営、補給部隊の警備のどれかだ。

 そして、ショベルカー(ユンボ)で 敵を殺す事が出来ない以上、前線に持って行くには無駄が多く、戦闘が出来る土木重機の黒鋼(クロガネ)は こう言った時に大活躍する。

「この分だと後、3時間位で終わるか?」

 ワームが来るのは 明日の朝なので 十分に間に合う。

 ナオ(オレ)は そう思いつつ また地面にシャベルを突き刺した。


 前時代のように 道路が整備されていない不整地では、2足歩行のDLが重宝(ちょうほう)する。

 トヨカズ機が引いているのは DLの大きさに拡大されたリアカーだ。

「昔の戦争では よく使われたって聞いているが…まさかトヨカズ(オレ)がやるとはな…。」

 リアカーには DL用マガジンが積載量ギリギリの1tまで積まれていて、それをトヨカズ機が輸送する。

 補給部隊は 敵に狙われやすく、補給が届かなければ 前線の戦力は大幅に下がる。

 銃弾が無い銃なんて棍棒(こんぼう)にしかならないし、腹を空かしていれば、ロクに頭が回らずに殺される…。

 なので、実際の戦争では 如何(いか)に補給部隊を守るかが戦争の(かなめ)となる。

 そこで編み出されたのが、DL用のリアカーだ。

 輸送部隊を護衛していたDL部隊にリアカーを引かせ、戦闘が出来る補給車両とした。

 こうする事で 補給回数を減らせ、積載重量に1tと言う縛りがあって 詰め込める量では 大型トラックに劣るが、確実に前線に物資を届けられるようになった。

 終戦直前には 戦闘がある前線は、DLのリアカー部隊で補給をし、後方は大量輸送が出来るトラック部隊と分けられた らしい。

 実際 こんだけDLがあれば、大量のリアカーで一気に輸送しちまった方が断然 速い。

 トヨカズ機は ピストン輸送で、ナオが建てた補給倉庫に物資を運ぶ…。

 倉庫には リアカーの中身を下ろさず、そのまま置いて戻る。

 こうする事で 倉庫が襲われた場合 速やかに物資を避難させる事が出来るし移動も楽だ。

 こういった事が出来るのも、リアカーの構造が単純で量産がし(やす)いからだ。

 トヨカズ機は 既に詰め込まれてあるリアカーを『スレイブロイドファクトリー』で受け取り、また運ぶ。

 もう少しで この倉庫は満タンになるかな…。

 トヨカズ機は そう思い また歩き出した。


 エアトラの整備倉庫に エアトラS2を運び、機体全体を検査機器にかけてスキャンする。

「丁寧に使われていますね…疲労も最低限に収まっています。」

『そうでしょ、そうでしょ…結構苦労しているんですよ…。』

 現場監督のドラムとコパイが話している。

『クオリアさん、こちらが修理項目になります…確認をお願いします。』

 ドラムからタブレット端末を受け取り、クオリア()が 確認する。

 修理自体は いつも通りで、特に気になる項目も無い。

「確認した…修理費を支払う。」

 クオリアが 明細書表示になっている タブレットのセンサーに指を当てて Fポート経由で支払いを済ませる。

 タブレット端末をドラムに返し、確認。

「はい、確かに…。」

 倉庫の奥にいた 整備師のドラムとドラムキングがやって来、テキパキと耐熱パネルを外して行く。

 外されたパーツは 中古品として販売され、宇宙に行く事が無い地球での物資輸送機に使われる。

 メカニック担当のジガは ドラムと会話をしながら作業を監視し、隣ではハルミが 遠くからドラムを暇そうに見ている…。

「初めてじゃないか?ハルミが 戦場に出るなんて…。」

 私がハルミに言う。

「いや…まぁ私は 衛生兵だから 基本自衛だけで ドンパチやる事 自体が無いからな…。

 私にとっての戦場は 病院だよ。」

「だったら 何かワームで気になる事があったのか?」

「あーと言うより、可能性の検証かな…。

 私は 寄生虫の類の可能性を考えているんだ。

 つまり、宿主が死ぬと生活形態を維持できなくなって寄生虫が死んじまうってケースだな…。

 こうなると、死んだワームを調べても寄生虫は見つからないし、見つけるには 出来立ての死骸(しがい)を見るしかない。

 とは 言っても望み薄なんだけど…。」

 ワームについては、ラプラス戦以降 研究はされているが、サンプルが少なく機械的な規格で構成された生物 位しか分かってない。

 それでもエレクトロンに解析が出来ないと言う事は 解析方法に問題がある可能性がある。

 そう考えれば 寄生虫の可能性も無視は出来ないレベルではあるのだが…。

 今回の件で何かしらの進展があれば タナトスを使わないで良くなるかもしれない…いや。

「希望的観測だな。」

 私は そう つぶやいた…。

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