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08 (見捨てられた都市)

 駐機場にあるエアトラS2にDLで乗り込む。

 席は コックピットのクオリア、ジカ、客席のトヨカズ、ナオ(オレ)…計4台以外の席は外し、貨物用の設備を装着していく。

 ナオ機の黒鋼(クロガネ)が エアトラS2の後部ハッチまで行き、DL用のパレットに座る。

 脚を三角に曲げ、出っ張っているコックピットを膝で固定し、腕で脚を固定…そして 身体を丸め、頭を下げる。

 この世界に この表現が生き残っているのか疑問なんだが、この姿勢を一言で表現するなら体育座りだ。

 そして コックピットブロックからオレが出て、体育座りの状態で蜘蛛(くも)の巣の(よう)に編まれた ラッシングベルトを被せ、8点で固定。

 更に ベルトに付いているラチェットバックルを上下に動かし、ベルトをきつく締める。

 続いて トヨカズ機の炎龍が後ろのパレットに座り、駐機姿勢で座る。

 ガッシリとした体格の炎龍は 装備を外した状態でも 体育座りの姿勢は難しい…。

 同じくトヨカズが機体を降り、ネットで固定される。

 2機のDL用パレットを大型のフォークリフトで持ち上げて入れる。

 パレットの下にはローラーが付いており、乗せてしまえば人力で押して中に入れられる。

 その後は パレット自体をベルトで固定して終わりだ。

 そして、バランス調整の為に機体に取り付けず別にした シャベルやボックスライフル、スナイパーライフルなどを間に積み込み固定。

『もう少し右…はいOKです。』

 コパイの指示の元、機体のバランスが ヒトの重量も入れて 等しくなるように正確に積まれる。

『積み込み完了です…。

 搭乗の用意をお願いします。』

「分かった…今、乗り込む。」

 クオリアは そう言うと、炎龍の肩に足をかけ、滑り込むように入っていく。

 DLを入れたエアトラS2内は ヒトが乗り込むスペースが無く、半円状の機内とDLの頭部と肩に出来る(わず)かな隙間を通るしかない。

 エアトラFは コックピット横にドアがあり、そこから入れたが…宇宙を行き来するエアトラS2では 耐熱性確保の為、オミットされている。

「これ最初からコックピットに乗り込んだ方が良かったんじゃね…。」

 トヨカズが言うが…。

「耐Gシートじゃないから、意識失うぞ…。」

 ジガが言って機体に乗り込む。

 さぁオレの番だ。

「うわぁギッチギチ…。」

 これ事故った場合、DL(機体)投棄(とうき)しないと 脱出出来ないな…。

 オレは 140cmの小さい身体にしてくれた クオリアに感謝しつつ乗り込んだ。


 エアトラS2の天尊機が先に離陸し 空に上がり、2kmの間隔を開けてナオ(オレ)達が乗る|エアトラS2のクオリア機が発進し、天尊機の後ろに付く…。

 2kmの距離を取っているのは 向こうの機体から発生する後方乱気流で 機体のコントロールに影響が出る事を避ける為だ。

 前方の天尊機の中には 天尊とドラムのジム…それに レナ、ロウ、ハルミの席が取り付けられており、こちらは 必要最低限の物資だけなので 広々としているだろう。

『そろそろ限界高度です…耐G姿勢』

 前方の天尊の通信に反応するように、客席のシートが耐G姿勢に切り替わる。

 その後、天尊機、クオリア機の2機のスクラムジェットエンジンも作動し、最大加速で高度を上げる。

 前方の天尊機から発生する 後方乱気流をコパイが手懐け、積載量ギリギリまで積んだクオリア機の揚力に変える。

 通常なら墜落する所だが、2機の機体を制御仕切るコパイだからこそ出来る芸当だ。

 そして、高度100km…速度は 第1宇宙速度は行ってないが、今回は 弾道飛行なので問題ない。

 赤道付近の『スレイブロイドファクトリー』に向けて 微調整を掛けつつ直ぐに降下…。

 乗客には 迷惑極まりない連続した加速Gが掛かる。

 コパイが膨大なタイムスケジュールを定刻通りにこなし、安全に降下して行く…。

 赤道付近は 氷河期だと言うのに 雪に(おお)われておらず、緑もまだ見える。

 水平線付近には、海に建設された1km程の六角形の人工島(メガフロート)がある。

 宇宙にある衛星から超軽量で超強靭(ちょうきょうじん)なワイヤーを地球の人工島(メガフロート)に降ろし、それを引っ張って移動するゴンドラを取り付ける事で、低価格で大量の物資を運ぶ事が出来る施設…。

「あれが軌道エレベーター。」

 ナオ(オレ)が思わず言う。

「名前は バベルタワーだ。

 宇宙への重量物の輸送はここが やっている。」

 計器を確認しながら、前の座席に座るクオリアが言う。

「また不吉(ふきつ)な…。」

 人が天界まで行ける塔を立てようとして 神の怒りを買い、人の言葉を多言語にされ、意思疎通が出来無くなって 建造が中止されたとされる塔の名前だ。

「別に不吉ではない…。

 バベル翻訳機を通じて意思疎通を図り、神が与えた挑戦状を科学と知恵の力で解決して建てた物だからだ。」

「それ神様に喧嘩売ってないか?」

「売ってる…。

 だが、まだ 天地創造を1週間でやる事は難しいが、空間ハッキングを扱えるポストヒューマンは、神と同等の力を持っているとされている。」

「神話の神様は 空間ハッキングで この世界を作ったのか?」

「……神話を実話だと仮定すればの話だがな…。」


 エアトラS2が空力制御が効く、高度1万mで 降下地点の誤差修正に入り、方向を修正すると正面に『スレイブロイドファクトリー』が見え始める。

 500m四方の都市で ドーム型では無く、12階建てビルが それぞれ、通路で連結され、外に出ないでも移動が出来るようになっている。

 そして、ワーム対策なのだろう…ワームがやってくる海岸線には 大きな塹壕(ざんごう)が作られようとしていた。

 そこで シャベルを振るうのは コックピットブロックにドラムの4本の脚が くっついた様なDL…多分 アレがスレイブロイド(ドラム)用のDLだ。

 なるほど…人型じゃないドラムが DLを運用すると形がドラムに似るのか…。

 エアトラS2が 着陸地点の周辺を周り、地形を確認して3Dマップを作成する。

 ヘリモードに切り替え、天尊機が着陸。

 クオリア機は 重量の問題で若干(じゃっかん) 揺れるが、直ぐに立て直して 着陸。

 プロペラの回転が停止し、ハッチが開く。

 狭い機内を如何(どう)にかして通り抜け、ナオ(オレ)達は 機体を脱出する。

 オレ達が出た時には、天尊機のメンバーは もう機体から出ていた。

 機体の停止を見計らって『スレイブロイドファクトリー』製のDLがやって来、蜘蛛(クモ)のような足を屈め、駐機姿勢に入る…。

 コックピットブロックは オレ達のと同じだが、前面に センサー類が埋め込まれ 頭部の変わりになっており、コックピットブロックの上には 頭部が無い。

 コックピットが スライドし、DLの腕が中のドラムを引き抜き、降ろす。

「ようこそ、『スレイブロイドファクトリー』へ…。

 私は この都市の都市長を務めますAdmi(アドミ)nistrator(ニストレーター)クリストファーです。」

 クリストファーは オレ達に握手を求めた。


 クリストファーはナオ(オレ)達 一人一人と握手をして ビルの中に入り、オレ達はクリストファーの後について行く。

 歩くオレ、トヨカズ、レナ、ロウの後ろには ドラムのジムに乗った天尊が ゆっくりと追っている。

 クオリア、ジガ、ハルミは、観測機器やDLを出す作業の為、エアトラS2に残った。

 ビルの1階が他のビルと繋がっており、外の25℃に比べ、空調が20℃に設定されている事もあり 少し涼しい。

 外に出なくても生活が出来る設計だな。


「元々この都市は、人とスレイブロイドが共存する都市だったのですが、製作者(オーサー)達は 地球の氷河期を甘く見ていたようです。

 他の都市に比べ、既存のビル群を改造しただけで、安価で早く対応出来たのですが…。

 狭く、生産施設の面積が限られ、娯楽のような文化は 形成出来ないギリギリの生活の為、他のドーム型都市の完成と共に、少人数ずつ人が出て行きました。

 その結果、私達だけが残されたのです。」

 ナオ(オレ)は 周りを見て見る…大型のショッピングモールを改造したものだろうか?

 それぞれの店は 営業していないが 看板の文字から、服屋、雑貨店か…。

 足についている小さなタイヤで ゆっくりと走行しながら、クリストファーが言う。

「それから ずっと ここで?」

 オレはクリストファーに聞く。

「ええ、オーサーから 都市の保守メンテナンスの命令は まだ生きていますし、それにオーサーがいなくなる事で 私達は 自立する事も出来ました。

 今では、ここが私達の都市です…正式に名前も変えましたし…。」

「それで スレイブロイド ファクトリーか…。

 ドラムの補修部品を作っているのか?」

「ドラム自体もですね…。

 後は、貿易拠点のピースクラフトが近くにありますので、エアトラの補修(ほしゅう)整備なども請け負っています。」

 しばらく進み、ホテルのような一角に入る。

「着きました…皆さんの個室は こちらを使って下さい。

 それと後で トヨカズさん、レナさん、ロウさんへの食事を持って来ます。」

「助かります…クリストファー」

 レナが言う。

「明日は 午前中から協力して貰いますので、それまで ゆっくりして下さい。

 それでは…私達は 明日の準備がありますので…。」

 ドラムのクリストファーは 腰を曲げられないので、ディスプレイの頭を下げ、部屋を去って行った。


 ナオ(オレ)は 個室に入る。

 中は ヒト用のホテルの部屋だ。

 多分、人がいた時に住んでいた住居だろう。

 中は 綺麗に手入れがされており、布団も綺麗なままだ。

 室内は 砦学園都市の部屋と比べ広く、通信やVRも完備で不足はない。

「さてと…。」

 オレは ARウィンドウを開き、クオリアに呼び出し(コール)する。

「ナオ…どうした?」

 電子妖精のクオリアが現れ、ARウィンドウに座る。

「機体の状態は 如何(どう)かなっと思ってな…。」

「弾道軌道で運んだのに 各種センサーや私のスキャンでも良好…。

 今『ドラムキング』に運んで貰っている。

「ドラムキングって あのDLか…。」

「そう、ベックと違って、多脚戦車のような使い方らしいが、ダイレクトリンクシステムを搭載したDLだ。」

「あれは…オレでも動かせるのか?」

 オレが 興味本位で聞いてみる。

「実戦レベルでは まず無理だろう…ナオは脚が2本だからな…。

 でも、ロウなら行けるかもしれない。」

「確かにアイツは、走る時は4足だからな…。」

 獣人は 通常は 2足で移動するが、走る時は 4足で走る事もあるので、足が短く、腕と同じ位の長さになっている。

 まぁ交通インフラが整っている砦学園都市では 4足で走る文化も無くなっている みたいなんだが…。

「と言っても、現状『(がく)』が無いロウだとな…。」

 あの完璧な野生児は、言葉は話せるが 幼年学校(幼稚園)で習うはずの 文字の読み書きや四則計算が まるっきり出来ない。

 なので、ARウィンドウに書いてある文字を読めず、完全に宝の持ち腐れ状態になっている。

「まぁ今回は 流石に無理だろうが、DLの訓練を受けさせてみるのも良いかもしれない。」

「ロウがか?」

「ああ…そうだ 帰ったら学校でテストがあるぞ…テスト対策はしているか?」

「あ?テスト…忘れてた。」

 ARで授業は受けられるし、学校のサーバーでは 見逃し配信もやっている…だが、テストは リアルで受けなければならない。

「頭は良くなったんだ。

 ちゃんと勉強をしていれば合格は出来るだろう…。」

「ちゃんと勉強していないから問題なんだよ。」

 色々問題がありすぎて完全に頭の中から抜けていた。

「なら、私も明日まで出番は無さそうだし、そちらで勉強をしようか?」

「頼む…。」

 電子妖精のクオリアが消える。

 オレは ARウィンドウを開き、学校のサーバーから見逃し配信の講義データをダウンロードした。

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