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04 (クオリア流ゲーム格闘術)

 1時間で 3日の速度で加速ダイブする。

 目の前に見えるのは 砦学園都市のような規格化された ビルが並ぶ市街地だ。

 ナオ(オレ)とクオリアは パイロットスーツ姿で道路に立つ。

「これは 私とナオのブレインキューブが構築したVR空間だ。

 流石(さすが)に 死なないが、ここで体験する事は すべて現実だ。」

 クオリアが 準備体操を始める。

「能力は 人のレベルに落としてある…スペック上では ナオの方が上だ。」

 クオリアと距離を取り構える。

「忍者なら…格闘は 出来るだろう。」

「この義体になってから一度もやってないけどな。」

 そう言いオレは構える。

 『神崎流総合戦闘術』…あのクオリア相手にどこまで通じるか。

「訓練内容は『私を殺してみろ』だ。

 もう一度言って置く…ここはVRだ。

 ここで死んでも現実の私は死なない…ナオもだ。」

「でも空間ハッキングと何の関係が?」

「体感だ…身体の感覚を(つか)め…行くぞ」

 クオリアが視界から消える。

 オレは とっさにガードし、クオリアの下からのパンチを受け止めるが、のけぞる…重い!!

 このパンチは 少女が出せるものじゃない。

 人のレベルって人の上限かよ…。

 オレは 身体のバランスを立て直し、次のパンチを 正面から受け止めず、クオリアの次の拳を手で右に押す事で 拳の軌道を()らし、パンチを回避(かわ)す…。

 まだ、如何(どう)にかなるレベルだ。

 オレが クオリアの横腹に向けて 蹴りを入れる…がクオリアは、それをガードし、両手で足を抱える。

 マズイ…。

 クオリアが オレの足を上に持ち上げる事で、身体のバランスが崩れ、後ろに倒れる…。

 オレは 咄嗟(とっさ)に地面を蹴って後ろに下がり、足を(つか)んでいたクオリアが引っぱる…だが、クオリアは バランスを崩される事を嫌い、手を放す。

 オレは 身体を丸めて後転する事で、衝撃を受け流し、うつ伏せになった状態から、素早くクオリアに 体当たりを仕掛ける…。

 クオリアは オレの軌道から少し 横にずれ、オレの肩に触れ、少し力を入れる事で 軌道をずらし回避した。

 回避されたと判断した所で オレは そこ軌道を利用して裏拳で対応…丁度(ちょうど)クオリアの側頭部に命中し、脳を()らす。

 オレは ダメージが入ったと感じると急いで後ろに下がり、クオリアと距離を取った。

「途中で加減したな…それに詰めないで退()いた。」

 クオリアは構え直し言う。

「……。」

 裏拳の途中でクオリアと目が合った…その時、スラム街の施設に突入した時に 咄嗟(とっさ)にリボルバーを抜いて頭を吹っ飛ばした少女の崩れた赤い顔を見た。

「私が女だからか?…私の見た目が幼いからか?」

 オレの目を見つめ、目に浮かぶ 迷いを正確に見抜く…。

「多分両方だ…うぐっ」

 言い終わる直前、急接近してきた クオリアのアッパーをガード出来ず、(あご)に綺麗に決まる。

「私は 守られる存在か?守る存在か?」

 オレのブレインキューブは、脳震盪(のうしんとう)を忠実に再現し、身体が動かなくなる。

 クオリアは オレと距離を取り、オレの回復を待つ…。

 オレは 頭を軽く振り、ゆっくりと起き上がる…。

 あー殴られたせいか…思考がクリーンになって行く…。

 クオリアが使う 見栄えの良い綺麗な格闘術…見覚えのある格闘術だと思っていたが…あれは 格ゲーが元ネタの『ゲーム格闘術』だ。


 立ち上がったナオが構える…目は鋭くなり、殺気を感じる。

 新しい身体での誤差を埋める為の対人格闘だが…。

 身体が変わったのにもう、精神レベルで適応している。

 この適応力は一体何なんだ?

 クオリア()は構え、ナオに攻撃を仕掛ける。


 これでラストだ。

 思考加速状態で更に思考加速する。

 ナオ(オレ)に 突っ込んで来るクオリアが、120フレームのコマ送りのように感じる…見える。

 クオリアのパンチを受け流し、受け流されたと判断すると今度は回し蹴りが飛んでくる。

 蹴りを捕まえるが、クオリアがもう片足でジャンプし オレの側頭部(そくとうぶ)に飛び膝蹴りを入れようとする。

 オレは 咄嗟(とっさ)に クオリアの足を(はな)してガードする。

 いきなり足を放した為、クオリアは バランスを崩し仰向(あおむ)けで倒れた。

 オレが足で首を踏み潰そうするが、クオリアは両足でオレの腹部を蹴り上げ、腹筋と背筋を上手く使って起き上がる。

 そして、クオリアがパンチを繰り出す…。

 ここ!!

 オレは 手で拳の軌道を操作し(つか)み、ひねり上げ、クオリアの後ろに回る…。

 バキッ、ボキッ

 クオリアの関節を意図的に脱臼させ、もう一本も外す。

「あ゛っ…。」

 意図的に痛覚神経に当たるように無理やり脱臼させた事で クオリアが声を上げる。

 オレは クオリアの後頭部を片手で(つか)み、足を引っ掛けて アスファルトの地面に思いっきり叩きつけた。

「がぁっ」

 そして…。

「オレは、クオリアの相棒(バディ)だ!」

 (ヒジ)を曲げ、80kgの体重を乗せて 首に思いっきり、のしかかる。

 首の一点に(ヒジ)とオレの体重が上乗せされ、ボキッと折れた。

 首の骨が折られ、身体に信号を伝達出来なくなったクオリアは 倒れ動かなくなる。

「オレの……勝ちだ…。」

 今度は オレが いじめっ子にブチ切れて 学校で殺しちまった時の あの光景が浮かぶ…。

 オレは 深く息をしつつ その場に座り込んだ。

 やっぱり可愛い少女を殴るのも、ましてやVRとは言え 殺してしまうのも精神に来る。

 聞く前に オレが死んじまったので聞けなかったが、義父…ナオキは 爆弾少女を射殺する時、何を思っていたのだろう?


 しばらくしてクオリアが光に包まれ、再生が始まる。

 VRだからだろうか?こちらの痛みも傷ももう消えていた。


 復活したクオリアが起き上がり、座るオレに手を差し伸べる。

「合格だ…私の相棒(パートナー)

 オレは クオリアの手を(つか)み、立ち上がった。

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