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03 (最強の機体とは…)

 エクスマキナの都市は 2500mの高さの氷の上にある。

 そして、その氷を削って出来た地下100mの氷の中に隠された倉庫にナオ(オレ)達は 来ていた。

 他の客は 各都市ごとに自分の都市と連絡を取り、案内された部屋でオンライン会議をしていて、砦学園都市のメンバーが いなくなった事に気づいていない。


 分厚いスライドドアを開き、倉庫内の照明がつく。

「うわ~」

 ナオ(オレ)が 周りを見る。

 DLを乗せられる程 大きい工業用パレットに DLが乗せられ、倉庫棚に仕舞われている。

 オレが棚を見上げる。

黒鋼(クロガネ)疾風(ハヤテ)炎龍(エンリュウ)…とちゃんとある。」

 普通なら『土木用として使え』『安くて』『使いやすく』『素人でもそれなりの成果を出せる』黒鋼(クロガネ)が主力であり、一番多い。

 戦闘用スピード特化の疾風(ハヤテ)は、主に特殊部隊用で様々なデリケートなミッションをこなすせる。

 高火力 継続戦闘能力が高い炎龍(エンリュウ)は、空母の甲板に乗せて移動砲台としたり、前線での援護射撃や補給などで活躍する機体で、どちらも、戦時中なら大活躍出来るが、平和な平時では全く役に立たない。

 それなのに ちゃんと(そろ)えている。

「それぞれ12機ずつ有ります…。

 砦学園都市のDLと比べると 装甲やフレーム素材の変更で 耐久性は上がってますが、重量はそのままです。」

 コンパチが 壁に取り付けてある鍵棚(かぎだな)に 手をかざし ロックを外す。

「どの機体にします?」

「クロ…いや…ベックで…。」

 オレが鍵棚(かぎだな)の前でコンパチから鍵を貰うと、工業用ヘルメットを頭に乗せたクオリアが カウンターフォークリフトを オレの隣に持ってくる。

「ナオ、キーを見せてくれ…。」

 オレが クオリアにキーを渡す。

 クオリアは キーに付いていたQRコードから倉庫内の何処(どこ)仕舞(しま)ってあるのか照会する。

「少し遠いな…」

 クオリアは 鍵棚(かぎだな)の横に置いてある パレットの上に転落防止の為の柵が取り付けてある『ゴンドラパレット』をフォークの爪で()し、持ち上げる。

「ナオ…乗ってくれ」

 オレは 手慣れてように ゴンドラパレットに乗り込み、クオリアはバック走行で黒鋼(クロガネ)の所まで向かった。


「フォーク持ってきたぜ」

 遅れてやってきたジガ(ウチ)は ゴンドラパレットに()しこむとフォークリフトを降りる。

「機体は 決まったか?」

「いいえ、一通り使ってみたいそうなので、シミュレーターまでお願いします。」

「あいよ…乗りな」

 コンパチがそう言い、トヨカズが ゴンドラパレットに乗り込むとウチは フォークリフトを動かし始めた。


「クオリア、あれは何だ?」

 ナオ(オレ)は 指を差す。

 クオリアは フォークリフトを止め、指の方向を確認する…。

「ああ…タナトスか…。

 まぁナオなら見せても良いだろう。」

 クオリアのフォークリフトが、タナトス向かう。

 タナトスは 銀色の装甲を持つDLで、M字型の機械翼では無く 鳥の翼のような銀色の機械翼を持つ。

 大きさは DLの2倍の10mに近く…タナトスサイズの椅子に腰かけている。

 そして腕、足、胸にはチェーンで椅子に拘束されていて…他のDLとは 何から何まで規格外だ。

「機体名は タナトス…対ラプラス戦を想定して作られた最新鋭機だ。」

「ちゃんと打てる手は あるじゃないか…。」

「打てる手は無い…タナトスは 空間系の攻撃手段を持ったDLだ。

 動力を『デーモンズ・コア』と呼ばれる小型縮退炉にした事で 下準備に半年も掛った ガンマレイバーストを 30秒で撃てるようになったし、空間そのものを生成…縮小、破壊も出来る。

 これは ラプラスを太陽系外に出さない為の物だ。

 つまり、タナトスが戦闘を始めれば 太陽系が無くなる…そして、このままなら いずれ使う事になる。」

「止められないのか…。」

「恐らく…それに これが発覚した場合、人類全体からタナトスへの攻撃が始まるだろう。

 目先の生にしがみ付いて、宇宙全体の為に自己犠牲になろうとは 考えない からだ。」

「……。」

「だから、ピースクラフトの言い分にも納得は出来る…。

 例えそれが、殲滅戦(せんめつせん)だとしてもな…行くぞ」

 フォークリフトが また動き出した。


 倉庫の端には DLのコックピットブロックが 何のパーツを付けないまま置いてある…訓練用のシミュレーターだ。

 トヨカズ(オレ)は コックピットに乗り込むと、鍵を差し込み、回して曲げ…電源が入り、ハッチを閉鎖…シートベルトを()める。

『じゃあ、まずは 何から行く?』

 コックピットブロックの隣にあるコンソール席に座る ジガがARウィンドウに表示される。

「スピーダータイプから反応を見たい…。」

「OK…。」

 ダイレクトリンクシステムで機体と繋がり、DLの頭の視点に変わる。

 VR空間の市街地に スピーダーのトヨカズ機が駐機姿勢から ゆっくりと立ち上がる…。

「よーし、良い子だ。」

 スピーダーは スピード…反応速度を突き詰めた結果、素人には とても扱いにくい機体になっている。

 だが、それを扱える操縦テクニックがあれば…とても優秀な機体だ。

 トヨカズ機は 準備体操をし 身体を慣らす…機体の反応速度が速い。

「さて、走りますか……なあ゛っ」

 オレは 加速Gでシートに押し付けられ、スピーダーが加速する。

 全力疾走しようと思って動かしたが、機体が飛び上がり、足のタイミングが合わず…すぐさま修正。

 片足ごとにジャンプをしている挙動になりながら、オレは 疾走(しっそう)する…。

 うぐっ…速い…2秒で150km!

 通常DLは 時速100km位までしか出せない…。

 だが、空力特性を考え抜かれたデザインと最新の素材で底上げされた軽い機体は ここまで速くなる。

 トヨカズ機は 腕を後ろに向け『忍者走り』で走る。

 飛行機の翼のように空力を考えられた腕が 姿勢制御の役割を果たし、腕を動かすことで旋回(せんかい)がし(やす)くなる。

 トヨカズ機が腕を傾け、横滑りの状態で左折し、速度を殺さずに また走る。

 確かに良い機体なんだが…。

「次、動かないターゲット、こっちは 右手ボックスライフル装備」

 右手でライフルを持って構え、左手でライフルを支えながら走り、板に描かれたDLを撃っていく…。

 横滑りの状態で 右を向きターゲットに向かって発砲…が外れた。

 は?…止まっている的に オレが外した?

「火器管制システムが追い付いてない…?」

 トヨカズの目が敵を見る事で アイセンサーが働き、敵をロックオンする…。

 それが遅く感じる…こちらが速いから精度が落ちたか?

『150kmで単機で当てるのは かなりキツイぞ…。

 味方機からの位置情報が必要だな…。』

 あー複数機の観測が前提(ぜんてい)になってるって事か…。


 一通り動かし、トヨカズ(オレ)は コックピットブロックから出てきた。

「お疲れ…」

「あーホントにお疲れ…ん~。」

 オレは ジガの用意した椅子に座り、足を伸ばす。

「で、どうだった?」

 ジガが オレに聞いてくる。

「確かに扱える…スピードも反応速度も如何(どう)にかなるレベル…何だがな…。」

「だが?」

「機体に遊びが無い…。

 脳のリソースの大半が 機体制御に行ってる気がする…。

 これじゃあ 戦術レベルまで気が回らないし、自分の周りの敵を倒すので精いっぱいだ。」

 脳のリソース管理は重要だ。

 VRの戦場での話だが『死んでも大丈夫』だと思っていても、恐怖などでリソースが食い尽くされ、まともに判断出来なくなる事も多い。

 ワーム侵攻事件で ナオの後衛を務めていたのも、経験上、接近戦で脳のリソースが奪われるのを嫌ったからだ。

 DLパイロットは 常に戦場全体に注意を払い、戦術的に動かなければならない。

 そうしなければ、未来予測システムが有っても 音速を超える弾を回避出来るはずもない。

 そう言った意味では この機体は欠陥機なんだが…。

 ()()()()()()()()()なら普通に良い機体なんだろうな。

 ジガが オレの意見を文章にまとめていく。

「脳内リソースか…リミッターを付けても リソースを増やした方が良いのか…。」

「それなら この機体のメリットを殺さないか?」

「何だよな…やっぱし人が使う以上、国際規格に合わせるのがベストなんだよな…。」

 国際規格のスペックは 人のスペックを元に計算され尽くされた最適解だ。

 実際…素材の性能向上で 機体出力や、稼働時間、装甲は伸び続けているが、機動性は 人のスペックが上限になり、リミッターを付けてダウングレードさせなければ まともに扱えない。

 この問題に、500年も挑戦し続けている エレクトロンも未だに『人を辞める』以外の回答を出せていない程だ。

「なら、次はベックだな…」

 ジガが 次の機体の設定を始める。

「おいおい、ナオだけじゃ無くて オレもテストパイロットを やらされているんだが…。」

「何なら 申請しておくよ…人が乗るデータは、ここでは 貴重だからな。」

「はいはい…んじゃ相場の金額で頼むよ」

 オレは やれやれといった感じで、再び コックピットブロックに乗り込み、ハッチを閉鎖した。


「よしあった黒鋼(クロガネ)…。」

 フォークリフトから降り、黒鋼(クロガネ)を眺める。

「何でナオは ベック…黒鋼(クロガネ)にこだわるんだ?

 ナオの性能なら疾風(ハヤテ)でも十分乗りこなせるだろう。」

 倉庫棚に蜘蛛(くも)の巣状のベルトネットで機体が固定され、駐機姿勢でパレットに乗っている黒鋼(クロガネ)を見てクオリアが言う。

「戦闘だけならな。

 だけど、コイツは 戦場の環境が どれほど過酷でも、粗悪(そあく)なオイルでも、ロクに整備が行えなくても、とにかく動き、戦える…。

 つまり戦場では、継続戦闘能力が何より重要なんだ。

 まぁ今の時代なら(ほとん)ど信頼性かな…。

 オレの時代は 疾風(ハヤテ)炎龍(エンリュウ)は お上品過ぎて故障率(こしょうりつ)が高かった事もあって信頼性が低い。」

 フォークリフトが棚から黒鋼(クロガネ)を降ろし…ベルトネットを外し、オレは ハッチを開ける。

 コックピットブロックがスライドして開き、オレは乗り込む。

「ナオは 戦闘性能だけを見ていないのだな」

「弾が補給されなければ シャベルで戦うしかないし、パーツが高価なら修理出来なくて、そもそも動けない。

 黒鋼(クロガネ)なら、弾薬やパーツは 敵機を撃墜すればドロップするし、孤立しても如何(どう)にかなる。」

 鍵を差し込み回して折り畳む…黒鋼(クロガネ)が起動してOPTION(オプション)の項目を選択し、設定を確認していく。

 装甲強度が上がり、稼働時間も大幅に伸びている…。

 最大出力も大分(だいぶ)上がっていて、速度も速い。

「なんだ…フルスペックでも疾風(ハヤテ)位か…」

 この重量と積載量で オレがいた時の疾風(ハヤテ)の性能の少し下 位までスペックが上がっている。

 こうなると 今の疾風(ハヤテ)は どんな化け物になってるのか…。

「VRで動作確認とテストをする…サポートよろしく。」

「ああ分かった。」


 VRでダイブする…ナオ(オレ)のブレインキューブと機体が接続される。

 黒鋼(クロガネ)が地面を鳴らし走る…。

 疾風(ハヤテ)とは 比べ物にならない位、乱暴な走り…未来予測システムが 敵の発砲位置を割り出し警告…。

 それを瞬時に読み取り、敵の弾を回避し発砲…DLの最重要器官の腹部を破壊され沈黙する。

 4方向から囲まれるナオ機は射線を避けつつ、1機の後ろにまわり、腕を()め上げ盾にする。

 敵の敵味方識別装置(IFF)味方誤射(フレンドリーファイア)防止の為 射撃が止まり、敵機を盾にしながらボックスライフルを構えDLの腹部を撃ち抜く。

 誤射防止の為、銃が使えなくなり、コンバットナイフで接近戦に持ち込もうとする敵機に、盾にしていたDLの背中を蹴り飛ばし、敵機にぶつけて転倒させ、腹部に発砲…2機共 沈黙。

 そして、盾が離れた途端にコンバットナイフを捨て、銃に持ち変えようとした最後の敵機にナオ機は 接近する。

 右腕のハードポイントに装着されている(つか)が短い状態のシャベルで相手の銃を殴り、敵が発砲…銃身をズラした事で外れる。

 更に殴った状態から(つか)のロックを解除し、思いっきり振り回す…。

 遠心力で(つか)のパイプが伸び、シャベルが脇腹入り…機体を切断した。

 バランスが維持出来なくなった敵機の下半身が倒れ、コックピットブロックが地面を滑走する。

 身体(きたい)隅々(すみずみ)まで把握している、馴染みある第2の身体が戻ってきた。

 そのバランスの取れた汎用機の機能美を感じつつ、オレは「相変わらず、良い機体だ」と機体を()めた。


「さぁ後は 量子フライトユニットを付けて終わりだ…。」

 ナオ(オレ)の乗る黒鋼(クロガネ)が立ち上がり、前を走るフォークリフトに乗ったクオリアが ゆっくりと後ろからついて行く。

 試作品が格納されている棚まで行き、フライトユニットのパレットをフォークリフトでし、持ち上げる。

 量子フライトユニットと呼ばれているが、形状は銀色のバックパックにしか見えず、とても飛べるとは思えない。

 コックピットブロックは長く、機体を突き刺していると表現される。

 側面は 肩と繋がっていて、後部にはバックパックの接続コネクタがある。

 クオリアがフォークリフトで持ち上げ、黒鋼(クロガネ)の背中の位置まで持って行き、ゆっくりと前進する。

 本来は DLに持ってもらい 接続して貰うのだが、今回は その役目をフォークリフトでやっている。

 コックピットブロックが フライトユニットのジョイントに当たり、ネジのように回転を始めて、接続される。

 DLの接続部分に対応している『スクリューキャップ方式』だ。

 接続され、重心位置が変わって 後ろに傾くが、機体が接続ジョイントを経由して情報を取得し、すぐに機体の重量パラメーターを更新する。

『接続完了…エレベータまで向かうぞ』

 クオリアが乗るフォークリフトの後を追いかけ、倉庫の入り口まで向かう。

 入り口の近くには、DLが1個小隊6機を同時に上げられる程の大きさのエレベータが有り、その隣には DLの駐機場がある。

 ナオ機は 駐機場で脚を前に出して折り畳んで座り、手を後ろにやり、機体を固定…。

 コックピットブロックがスライドしてナオ(オレ)が降りる。

「お疲れ」

「お疲れ…悪いが次は 最短で量子フライトユニットを使えるようになって貰う。

 空間ハッキング込みでな」

「おお」

 とうとうオレも空間ハッキングが出来るようになるのか…。

「始めに言っておくが…今回は かなり手荒い」

 クオリアが そう言うと 近くのベンチに腰掛ける。

 ナオもクオリアの隣に座り、自分の首に磁石で接続するケーブルを付ける。

「これから、私とナオは、72倍で加速する。

 外部時間が1時間で内部時間で3日だ。」

「分かった…。」

 実時間で3日もやったら、ワームがとっくに侵攻してきている…。

 こう言う時、思考加速出来るブレインキューブは やっぱり便利だな。

 クオリアが オレにケーブルを取り付け、思考加速した。

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