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21 (ディベート)

 10kmのドーム型都市エクスマキナ…。

 都市の名前の由来になっているのは エレクトロンが信仰する機械の神『デウス・エクス・マキナ』…。

 そのご利益は『新しい概念の機械を設計し、ヒトが快適な生活を送れる様にする』事だ。


 エクスマキナ都市のドームの丁度(ちょうど)真ん中にあり、この都市を支える柱の様に見える高層ビルの最上階にある神殿に『彼女』はいる。

 ナオ(オレ)とクオリアが スライドドアを開けて中に入る。

 部屋にはソファーが2台あり、その後ろに円柱のガラスケースに浮かんでいるキューブがある…多分 あれが『デウス・エクス・マキナ』だ。

 このキューブは オレ達の頭のキューブとは違って、立方体の中に立方体が入った様な形状で、見る位置によって立方体の形がコロコロ変わる。

 これは4次元超立方体の形だ。

 如何(どう)やら エレクトロンは、高次元を利用した演算方法とその計算機を造る為の加工技術を身に着けているらしい。

 ガラスケースの前にある ソファーには 金髪の男が座っていて ドアが開いた事に反応して、こちらを見ている。

「やあ…時間に 正確なエレクトロンにしては珍しいね…。」

 ソファーの男が言う。

「ちょっとあってな…アナタこそ、面会時間は過ぎているのでは?」

 クオリアがそう言うと、オレとクオリアがソファーに近づく。

「キミたちに会いたくてね…。」

 男は立ち上がり、オレ前で止まる。

「ジェームズ・天尊です…次期社長をやっています。」

 天尊は 好印象を完璧に演出し、手を差し出す。

 コイツがか…。

「カンザキ・ナオトだ…よろしく」

 オレは 差し出された手を握り、ぎこちない作り笑顔で握手をする。

「それじゃあ…また。」

 天尊は オレの顔を見て 笑みを浮かべると、挨拶だけしてスライドドアを開けて 外に出て行った。


 ナオ(オレ)とクオリアは ソファーに座り 前を見る…。

 前には円柱のガラスケースに液体で満たされ、キューブが浮いている。

「機械の神様だってのに やけに小さいな…。」

「だが あれ1つで 質量が1㎏もあるし、処理能力も1恒河沙(ごうがしゃ)…10の52乗フロップスだ。」

「あ~人の頭が10の16乗だから…10の36乗倍?…単位は…」

 そもそも単位があるのか…?

 いや『恒河沙(ごうがしゃ)』何て聞いたことない単位が出るんだ…。

 それより低いなら多分あるはず。

「1(かん)倍だ。」

「さっぱり分からない…。」

 全く聞いた事が無い単位だ。

 クオリアが少し考える…。

「ヒト1人が これで思考加速したら、1秒で太陽系誕生から今までを約6893京回繰り返せる。」

「やっと馴染みのある単位になったが……とんでもなく多い事だけは 理解出来た。」

 サーバーみたいに大きくならないのは、そもそも必要が無いからか。

「あれが(ほとん)ど 物理限界…それ以上の処理速度を出すなら、もう数を増やすしかない。」


 目の前のソファーに人の形の量子光が輝き、人の形に生成されていく…多分ARだ。

 童顔に低身長の巨乳、機械の神様と言う事もあって身体のラインが出るボディスーツにメカチックな手や足。

 背中には クオリアとは違うデザインの神の翼を意識した機械翼。

 そんな萌え要素を詰め込みまくった相手が目の前に座る。

『用件をどうぞ』

 挨拶もせずに単刀直入に聞いてくる。

「ラプラスの対抗策に ついて議論したい。」

『タナトスによる ガンマレイバーストが適切だと判断します。』

 それを先読みしていたかの様にデウスは間を置かず答える。

「威力が高すぎる。」

『敵の脅威度から考えれば、大火力で一瞬で終わらした方が被害は明らかに少なく済みます。』

「だが その被害は許容出来ない。」

『命のやり取りをしているのです…。

 犠牲を出さないと言う事は まずありえません。

 なら損害を可能な限り減らすのが最良の手段です。』

 クオリアの髪の色は変わっていないが、相当に考えているのだろう…髪から熱を感じる。

「ガンマレイバースト以外の手段は?」

『ラプラスに3次元攻撃は(ほとん)ど効果がありません。

 有効な手段は 空間系統です…。

 ラプラスを空間ごと閉じ込めて無力化する事 以外ありません。

 あなたはそれを理解しているはずです…クオリア。』

「破壊は不可能だと…?」

『不可能です。

 ワームは量子通信ネットワークで繋がっている社会性生物。

 ラプラスは これに4次元(確率)5次元(時間)を含めた社会性生物です。

 私達にタイムマシンが無い以上、過去に逃げた個体の対処(たいしょ)が出来ません。』

「あれが複数いると…。」

『理論上無限に増殖が出来ます…。

 そもそも出会う事を回避する事が重要なのです。

 出会ってしまった以上、大筋の結果は変わりません。』

 クオリアの答えに間を置かず、答え続けるデウス…。

 そしてクオリアは しばらく考え込み

「………他には手は無いと。」

 ゆっくりと言葉を絞り出した。

『ええ、ですが『滅びる』と言う選択肢も取れます…。

 実行するのはあなたです…『クオリア・エクスマキナ』』

 あのクオリアが一方的に押されている…そもそも『ラプラス』が強すぎるせいで、議論にすらなってない。

「失礼する。」

 クオリアが立ち上がり…ドアに向かう。

 オレも慌てて立ち上がる。

「私は、そのプランを認めない。」

 クオリアがそう言い、ドアを開け歩く。

 オレは デウスに軽く会釈し、クオリアの後を追った。

 デウスは一言「そう…」と言うと量子光に包まれ飛散した。

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