21 (幻実の映画館)
20世紀シネマ館 2階。
スプリングと2階に行ったナオは その光景に驚く。
「うわっ本格的」
大型シアタールームのある2階は、上の階をぶち抜いた感じで天井が広くなっている。
2020年の設備には見劣りするが、6×6の36席で一段ごとに30センチ程度高くなる ひな壇式で、本来席は 繋がっているはずだが、席同士も少しだが離れていて、足も延ばせるので窮屈間は無いようになっている。
前にあるステージ部分は暗幕が 掛かっていて中を覗いてみると 大きな エンクロージャースピーカーが4台。
内2つは重低音用だろうか?
壁や天井など周りを見てスピーカーの数を数えると…スピーカーの台数は24台…。
「え~と24台ってことは、22.2chか?」
「おお、良く知っているね…スピーカーの設計図が無くて1から作った甲斐があったよ。」
「構造が簡単だとは言え…1から作るのか…て事は製作用の工場もあるのか…?」
「ありますよ…3階にね…と こっちが映写室…どうぞ」
映写室は プロジェクターの機械にPCと比較的普通な物から…。
「これは もしかしてフィルムタイプの映写機…これも自作?」
「そうそう苦労したんだよね…コレ」
と映写室に繋がる部屋には、映画のフィルムリールが、劣化を防ぐ為か真空パックした状態でズラリとしまわれている。
「……これもマスタリングしてるとか言わないよね」
「テープが550年も持つわけないでしょ…。
当時の色を出すのに苦労したんですから…。」
隣の映写室でPCを動かしているスプリングが、この価値を理解出来る人に会えた事が嬉しいのか楽しそうに言った。
データとしてあるデジタルリマスター作品をあえて劣化させたのか…。
「こりゃ、文化遺産になる訳だ…。」
化石映画を発掘しただけではなく、20世紀のシアタールームを1から自作した上に、当時を再現してわざと劣化させフィルムに記録する徹底ぶり…本当に映画マニアだから出来る技なのか…。
「はいOK…今回は2025年の作品でデータだから 劣化加工も無し、そのままで上映するよ」
暗幕を開閉し、レーザー式の映写機のテストをし、暗幕をまた締める…。
上映開始になってから開くのが良いのだろうか?そこら辺 徹底しているな…。
オレが 映写室から出て、一番後ろの席に座ると、5時になったのか、ピンポンパンポンと木琴を鳴らす音がして『大変お待たせいたしました。これより5:10分開始の『花売り少女のラッダイト』の入場を開始します。ご視聴の方は1階受付までお集まり下さい』とドラムのアナウンスがあり、ピンポンパンポンとまた木琴の音がなる。
20世紀シネマ館 1階受付。
1階の受付には 5人の人と、若干身体が透けた人が10名ほど来ていて、レナとヒロムが見る。
もちろんこの人達は おばけや妖怪の類ではなく、ネットからVRでアクセスしている人だ。
それを砦学園都市民は入れる事が義務付けられている『AR用ナノマシン』で、私の目で透けた状態で映している。
ARウィンドウを表示させ、ウィンドウ以外のARを解除してみると やっぱり、透けていた人は 消えた。
再度起動して 客の顔を見てみると1人の外国人の顔も見つける。
別の都市からVR通信でアクセスして来ている見たいだ。
2階にぞろぞろと透けた人が入ってくる…。
「スプリング…あの透けた人はVRで接続しているのか?」
ナオには 透けていなければARだと気づけない…。
何せオレの感覚情報は すべてVRなのだから。
「そうですよ…VR上で『20世紀シネマ館』をそのまま再現して同期しているです…。
これが、すんごく面倒でね…。」
1人の透けた客が、オレにぶつからないように避け、椅子に座る。
客は ARウィンドウを出して Lサイズジュースと8分の1サイズのピザを実体化させる。
「あら持ち込み良いの?ここ?」
「ウチは、VR食品は販売していないからね…。
今の主流は1万トニー位で食品の権利を買う買取型…。
1回で払う料は 大きいけど1度買えば その食品は食べ放題になるから…そもそも稼ぎにならないんですよ。
それに、実際に足を運んで貰いたいから ですからね。」
スプリングは そう言いオレの隣の席に腰を下ろした。
透けた人が入り終わると その次に来たのは、レナも含めた5人の人だ。
レナが オレのもう隣に座り、レナの友人であろう子供達が レナの隣に座り友達の1人がその1段下に座った。
「これは 5分ずれるかな」
スプリングがそう言いつつ、ARウィンドウを開き何か操作する。
ナオの視線に気づいたのか、スプリングが青色で見えなかったウィンドウを可視化して、ウィンドウ下を摘み オレにも見えるように傾ける。
表示されていたのは地図で、光点が2つあり、光点とこちらへの距離をmで表示されている。
「位置ビーコンか?誰の?」
「仕事帰りに来るお客さんだよ…。
1人は会社前にバスタクを呼んでいたみたいだね…速度が速い。
もう1人は、会社はこの近くで…これは 走ってるのかな?」
プライバシーないな…そんなに簡単にアクセス出来る訳でもないだろうに。
「開始時間5分遅延だね…ドラムちゃんコールをお願い。」
ウィンドウにはドラムが表示され「かしこまりました」と文字で表示される。
ピンポンパンポン…『大変お待たせして申し訳ありません。5:10分の『花売り少女のラッダイト』は、予約のお客様が遅れている為、5分遅延をし5:15分開始となりました。
お客様には大変ご迷惑をおかけいたします。』
ピンポンパンポン…。
「いいのか遅延して?」
「最大で5分までね。
やっぱり映画は 最初から見たいでしょ…。
リアルでわざわざ走って来てくれているんだからサービス、サービス」
「あらっ待ってくれたの、悪いね 店長さん」
「お客さんにもね」
「ありがとうございました~」
背広の男が皆に頭を下げ、席につく…。
「遅れました…」
少し遅れて入ってきたのは 私服の男性だ。
走ってきたのか顔に汗をかいており、ハンカチで拭っている。
ブーーー
映画の開始音がなり、それまで喋っていた人たちが大人しくなる。
『お待たせしました これより『花売り少女のラッダイト』を上映します。どうぞ最後までお楽しみ下さい。』
暗幕が開き、開き終わった1秒後に照明がゆっくり落ち、後ろの映写室から光が放れ、そして 映画が始まった。




