⑨6.いいだろう。その策、貰い受けるぞ(SIDE:アインズ) ※ 1度目の害虫貴族駆除回(その4)
待てあわてるな!これは孔明の罠だ!!
「夜襲だと?」
「えぇ、実は開戦前から敵陣営へスパイを放ってましてね。なので敵の動きはある程度把握してたのですよ」
「貴様!!なぜその話を開戦前にしなかった!!!」
「おや?貴方は思慮足らずではないっと思ってたのですが、それは思い違いでしたか……残念ですよ。くいくい」
眼鏡をくいくいっと正しながら、蔑むような視線を送るマイヤーにアインズはぶちぎれそうになるも、ここで切れたらマイヤーの思うつぼ。
若造の思い通りにはならぬっという年長者のプライドにかけてギリギリ耐えたようだ。
「すまぬ。わしのような思慮浅い者にもわかるよう説明してくれ」
「おやおや、年長者が私のような若造に教えを請うとは、さすが思慮足らずなご子息の親な事ありますねぇ」
「…………(こやつ、本当に人の神経を逆撫ですることに関しては天才だな)」
もっとも、それは思うだけで言葉には出さない。
出したところでさらに嫌味を叩きこまれるだけな上、最悪敵に回ってしまう。
今この場でマイヤーを敵にするわけにはいかないのでその言葉を怒りと共にぐっと飲み込んだ。
その様にマイヤーはつまらないといった感じで続きを語る。
「…………私が敵陣営にスパイを送ったのと同様、敵も同じくこちらにスパイを送り込まれてるとみていいでしょう。開戦前に私が送ったスパイの存在を知られるわけにはいかなかったので、あえて話さなかったのです」
「なるほど……それは懸命な判断だと思われるな」
そんなアインズの脳裏にはワイン片手に前祝いしていた能天気な貴族達の姿が浮かんだ。
「そうして敵陣営のスパイは今頃自軍に戻って王国軍の現状を報告してるでしょう。『奴等は負け確定なのに打開策を練るわけでもなく、ただ漫然と明日になれば戦況が有利になると信じ込んでいる』っという現状を……ね。だがしかし、そこで夜襲を仕掛けられたら……」
「敵陣営は要塞を築かれていて侵入が容易でないという報告を受けてるぞ」
「浅はかな。そのためのスパイですよ。現地では内部に侵入したスパイに手引きしてもらう算段が整えられてます……ここまで言えば後はわかりますよね」
「あぁ、わかる。つまり……勝利を確信し、襲撃もなさそうだからっと安心して熟睡している奴等に不意打ちを食らわせろか」
「一応付け加えると、戦争ルールは24時間以内での決着。夜間の戦闘行為は禁止されてないので教会からの横やりもありません。にやり」
「相変わらず悪辣な奴だ。だが、いいだろう。その策、貰い受けるぞ」
「構いません。手柄に関しても貸し一つでお譲りしましょう。私は直接的な手柄よりも貴方様のようなお方への縁こそに値千金な価値があると思ってますからね。くくく……」
貸し一つ……
笑いながら放ったその言葉には言い知れぬ恐怖が満ちているも、背に腹は代えられぬ事もあってただ受け入れるしかなかった。
「……一つ聞くが、この策は他に知ってる者いるのか?」
「今現在は貴方様お一人ですね。ですが、これから何人かに授けてまわるつもりです。なにせ私は直接的な手柄よりも縁を大事にする性質ですから」
「そうか。なら先走る連中が出る前に動くとしよう」
「止めないのですか?」
「逆に聞くが、ワシが頼んだ所でやめてくれるのか?」
「まさか?私には貴方様の頼みを聞く義務も義理もありませんから」
わかりきっていた返事にアインズは怒る事なく、今はこのチャンスを……息子のやらかしを帳消しどころか補って余りあるほどの手柄を手にするため、急ぎ襲撃の準備を急がせた。
準備中に話を聞いたライバル達が動き始めるも、先に話を聞いていたアドバンテージのおかげでアインズは一早く出発。
現地ではマイヤーが手配したスパイの手引きもあり、難なく侵入に成功した。
敵要塞内は不用心にも見張りがほとんどおらず、灯りもほとんどない。
「馬鹿な奴等だ……これでは隠密行動してくださいっと言ってるようなモノではないか」
指揮が出来る子飼いが全員戦死した上に息子が頼りないため、直接部隊を率いているアインズはすでに勝利を確信したかのような笑みを浮かべながら奥へと向かう。
モタモタしてれば後続に手柄を取られてしまうからっと、迅速な行動を重視したため違和感に気付かなかった。
少ないのは見張りと灯りだけでなく……
兵そのものが少なかった事に……
目標である大将のハイドがどこにも居ない事に……
そして……
マイヤーからはめられた事に……
アインズが全てを悟ったのは、火の海に囲まれてからだった。
様々なお膳立てをしてからの、空城の計発動!!
さらに、火計発動!!
こうかはばつぐんだ!!




