7⑨.な、なんだってー!?(SIDE:ビィト)
王様の昔話です。
あーうん、なんかどっかで聞いたことある設定なのは、否定しない。
30年前、当時7歳だったトビアスはビィトという名前でアムル辺境領が抱える開拓村の一つ。アルプス村の外れで村の由来となったアルプス山脈の中腹にて祖父のアルパイン、通称アル爺と従妹であるハイジと共に過ごしていた。
両親は物心着く前に流行り病で無くし、孤児となった所を親族であるアル爺が引き取ってくれたと聞いていた。
ハイジも似たような経歴でアル爺に引き取られており、二人はアル爺の元で兄妹のように育った。
山を切り開いて整えた牧場でヤギや羊を育てる牧歌的な生活。
王都の喧騒とは無縁の生活であったが、ある日それが唐突に終わりを告げた。
「ヒャッハー!!水と食い物をよこせー!!」
棘の付いた肩パットの鎧とモヒカンが特徴的な男達が牧場に現れたのである。
……………………
「かーうめー!!相変わらずここの水。アルプス山脈の清水はうめーよなー!!」
「チーズも最高だ!!このあぶったチーズのとろけ具合はまさに世紀末級!!」
「おいおい、お前ら何子供みたいなこと言ってんだ!!一番なのは肉だろ!!ヤギ乳でじっくり煮込まれたクリームシチュー、これこそまさにお袋の味!!よってハイジちゃん、お替りよろしくな」
「俺もだ!!」
「俺は腸詰め肉とチーズ乗せパンだ」
「はい!!ただいまお持ちします!!ビィト、聞いての通り~」
「わかった。すぐ用意するから先にこれ運んで~!!」
庭の一角に用意された簡易厨房でビィトは次々と注文された料理を作り、それらをひっつかむようにして配膳していくハイジ。
一見すれば傍若無人なならず者に牧場を占拠されたようにみえるだろうも、真実は違う。
モヒカン達はアムル辺境伯家が雇っている私兵であり、領内のパトロールは彼等の業務の一つ。
牧場の訪問も業務の一環であり、訪れた際には腰を悪くしているアル爺やまだまだ子供のビィトやハイジでは対処できない仕事。小屋や柵の修繕や周辺をうろつく危険な魔物の間引きといった仕事を無償で引き受けてくれる、便利屋として頼りになる存在であった。
傍若無人な態度も本職の便利屋である冒険者によく見られるもの。慣れれば気にならない。
それに、彼らも子供にすべて押し付けるような外道ではない。宴会場の設営から料理の下準備までは手伝ってくれたので、後はただ鍋を焦げないよう時々かき回しながら下準備を終えた肉や野菜、チーズ等を焼くだけという簡単なお仕事をこなすだけでよかったのだ。
おまけに働き具合ではチップと称したお小遣いまでくれるとなれば、はりきらない理由はない。
二人はお小遣い欲しさに夢我夢中で働くのであった。
だからビィトも最初は違和感に気付かなかった。
今はまだモヒカン達が訪れる時期ではない。仮にあるとすれば緊急性の高い厄介ごと。例えば村を襲うゴブリンやオークの群れが出没したなど、早急に対応しなければまずい事態が起きた場合であるも、彼等にそうした緊迫した空気はない。
アル爺も今日は小屋に引っ込んだまま出てこない事に疑問はあれど、モヒカン達と共にやってきた身なりの良い人も一緒に入っていたので大事なお話でもしてるのだろうと思っていた。
その予想は一応当たっており、小屋の中では大事な話は行われていた。
そして……お祭り騒ぎが一段落付いた頃合いにアル爺から呼ばれたビィトは自身の出自……
王家の血筋だった事を聞かされた。
「な、なんだってー!?」
ビィトは最初何を言われたかわからなかった。
自分の本名はビィトではなくトビアスであり、王家の血筋という貴族よりも偉い立場なんて全く理解できなかった。
だが、アル爺から渡された手紙。国王の妹でもあった母が生前に書いたビィト……トビアスに充てた手紙と血縁関係を明らかにするDNE鑑定書が事実を伝えていた。
王家の血筋だったトビアスがなぜビィトとしてアル爺に預けられたかについてだが……
最大の要因はナドラガンド公爵家当主であり、王位継承権を持つ王妹でもあるフルーワ女公爵が婿入りした父スネイプに暗殺されたからであった。
家の乗っ取りはなーろっぱの貴族の間ではよくある事ですっというか、下剋上なんて戦国の日本でもよくある事かもしんない。




