76.今から計画の最終段階へと移るけど各自の役目は理解してるわよね?
多分、半数はあんまり理解してなさそう(ぇ
「さて、クズをさらなる地獄へと叩き落とす第二作戦は……うん。まぁ多少想定外の事はあったけどおおむね計画通り進んだとみていいわ。今から計画の最終段階へと移るけど各自の役目は理解してるわよね?特に馬鹿皇子!!」
「わかってるさ。俺の役目は『アーデルがクズに謂われなき拷問にかけられているという話を聞き、急ぎ現場に乗り込んでアーデルを救出。その後はロッテンを全速力でゼーゼマン領土へと連れて行く』だろ」
「概ねはその通り。クズは昨日王宮にアーデルへの拷問申請書を提出してるし、ハイドがそう勘違いしても無理はない筋書。私もこれからゼーゼマン領に戻る必要あるわけで、馬よりも早く駆ける事が出来るハイドにおぶってもらえば移動の短縮につながる……そして」
ばしゃり
「あら~『アイアンメイデン』で使用していた血液もどきをうっかり頭から被っちゃったわ~神官フランさん、着替えあるかしら~?」
「もうしわけございません。着替えはもうありませんので一先ず応急処置的にこのシーツをかぶってください」
「着替えがないなら仕方ないわね~それに時間ないし、もうこの恰好で出発するしかありませんわ~全く馬鹿皇子が唐突に消えたからその後始末でゼーゼマン領に出向く必要が出てくるだなんて不幸だわ~」
不幸だと言いながらも、実に楽しそうな表情をするロッテン。
全身血液もどきにまみれ、赤く染まったシーツですっぽり覆われた姿は何も知らない者からみれば重傷者にみえるだろう。
もっとも彼女の場合はそれが狙いである。
クズのアーデル拷問申請書やらハイドが拷問室に乱入したという目撃情報を合わせれば、誰もがロッテンをアーデルと誤認するだろう。
「次はアーデルね。貴女は替えが男物の見習い使用人の服しかなかったからそれに着替えて、フェルトと共にアムル領へ戻るよ。わかる?」
「ふふふ……クラーラが昨日公然と消えたのはお父さんが『娘に会わないと見境なく大暴れしちゃう病』を発症したせいだものね。私は公務があったので今まで残ってたけど、そろそろクラーラだけでは手に負えなくなってるはずだし、私も急ぎ帰らないといけないわね~」
「王国どころか世界全てからみても最強に君臨できそうな辺境伯様が大暴れしたら王国なんて簡単に吹き飛ぶし、アーデルも急ぎアムル家に戻る必要あるわけだから……当然、のんきに女物へと着替える余裕ないでしょうね~」
「それに、この使用人衣装の方が好都合なのよね。フェルトの護衛達の大半は直前で道を正す選択できた貴族子息令嬢達の保護に使うわけだし、私がその穴を埋めるならむしろ戦いに不向きなドレスなんて邪魔だわ」
「アーデル様。俺のわがままのせいで王妃代理自ら護衛させてしまって申し訳ない」
「いいのいいの。こういった下々の者が行う仕事を自ら体験するのはアムル家の教えだし、私も立場のせいで使用人や冒険者の真似事があまり出来なかったら好都合ってものよ」
「くくく……商隊を護衛する見習い使用人の中身が王妃代理だなんて、皆夢にも思わないだろうな」
「ロンジュ。今の貴方の姿はどうみても世界有数の商会の跡取り息子だなんてみえないでしょうに」
「アーデル義姉さん、それは言わないでくれ。俺自身思うところあるんだ……といっても、もうしばらく冒険者業続けるつもりだけどな」
「いいの?私は商売のイロハについて専門外だけど、今すっごい儲け時だってぐらいわかるわよ。このままだとシシィ姉さんが美味しい話を根こそぎ全部かっさらいそうだけど」
「サクラ商会は他国の内乱を利用して儲けるような商売は表向きしてないんでな。それに表向き帝国も静観してるなら俺達も表向き静観する。
……とか理由つけてるが、本音を言うと今のぶちぎれてるシシィの姐御と利権のやりとりをしたくない。下手に動いてヘイトを向けられたらたまったもんじゃないんで、俺はもうしばらく姐御の護衛を続ける事にした。それで姐御の気が済んだ頃合いを見計らってから利権のおこぼれを狙うってとこかな」
「懸命な判断ね。さすがは私が認めた男。これからもクラーラの事任せたわよ」
「な、なにぃぃぃぃぃいぃぃい!!!?な、なにがあった……クラーラの事になったら我を忘れて大暴れするようなシスコン義姉さんが笑顔で俺にクラーラを任せるだなんて……何があった?!何か変なものk……」
ゴチン!!!
「訂正するわ。やっぱりこいつにクラーラは任せられそうにないから、後でゆっくりOHANASHIしましょうか」
にっこり笑いながら問いかけるアーデルであるも、ロンジュからの返事はない。
脳天にどでかいコブを生成したまま倒れ伏し、ぴくりとも動かなかった。
そんなロンジュに『口は災いの元』とか『ムチャシヤガッテ……』とか各々悔みの言葉をかけながら冥福の祈りを捧げる冒険者仲間であった。
「では俺達はこいつを商業ギルドに送り届けてから、フェルト様が保護を約束した貴族達を迎えに行きます」
「あぁ。何かとプライドの高い貴族の護衛は大変だと思うが、なるべく穏便で頼むな」
「「「「「そう思うなら、特別手当をお願いシャス」」」」」
「「ついでに私達も特別手当を催促してよろしいでしょうか?」」
「じゃぁせっかくなので、俺も催促させてもらおうかな」
「わかったわかった。用意しておこう」
そんな冒険者達と先輩メイドとリーメのちゃっかりとした態度にフェルトは苦笑しつつも、踏み倒すような事はせず報酬を捻出するために保護した貴族からどうやって搾り取るかのプランを考え始めるのであった。
なんだかんだいって、彼も商人としてぬけめなく成長してるのである。
冒頭の予想とは裏腹に、以外と皆理解してる辺りはあれかな
クズとは違うのだよ!クズとは!




