61.俺も一歩間違えれば同じような運命たどってたんだよなぁ(SIDE:フェルト)
義妹ちゃんのOHANASHIの効果は抜群でした
ケイトの元婚約者は、明け透けなく語るならばプライドだけしか取り柄のないドラ貴族令息であった。
政略結婚の重要性どころか実家の悲惨な経済状況。伯爵家は裕福なギスカーン子爵家からの融資のおかげで貴族らしく暮らせているというのにも関わらず、ドラ令息はただ伯爵家の生まれというだけで当時はまだ子爵令嬢だったケイトを見下すという馬鹿であった。
まぁそれぐらいであればケイト含むギスカーン家の面々も許せた。
伯爵家の領土はギスカーン家が抱える商会目線でみれば、金銭的援助を行っても十分にお釣りがくるほどの価値がある土地だ。
ケイトもクズ王太子との政略結婚を受け入れているアーデルの存在を知ってるだけに、まだクズよりマシな部類であった元婚約者との結婚も貴族の義務として受け入れていた。
何もなければこのまま結婚できると思いきや……
元婚約者は愚行に走った。
よりによって、クラーラを娶ろうとしたのだ。
一応その気持ちはわかる。
クラーラは貴族令嬢の優雅さと知性に平民の無邪気さと親しみやすさを併せ持つ稀有な存在。
将来は商人となる道を選んでるだけに、相手から好意的にみられる術を身に着けている。
そんなクラーラの営業トークと営業スマイルのコンボを決められたら、男なら勘違い起こしても仕方なかろう。
ただ、クラーラも自覚なしに誘惑するとはいえ、人の婚約者に手を出すほどの節操なしではない。
告白は丁寧に断ってるし、以後も関係性が崩れないというか……
クラーラ自身が気まずさなんて知らんっとばかりに接するのだ。
だから大半の者とは擦れた関係になる事なく友人関係で落ち着くわけだが……
元婚約者はクラーラが自分に好意を抱いてると思い込んでいた。
結婚できないのは身分の差と決めつけ、貴族の権力で無理やり娶ろうとしたわけだ。
さらにケイトは自分に惚れ込んでいるのだから、今後は愛人として家の仕事をすべて押し付けようとするクズっぷりと勘違いっぷりまで発揮。
伯爵家である自分の考えは全て正しいと思い込んでいるも、それらは全て勘違い。
まず、クラーラは振る舞いこそ平民にみえてもその身分は辺境伯令嬢。
義姉のアーデルは王太子妃であり、下手な貴族よりも権力はある。
おまけに義姉は超が付くほどのシスコンだ。クラーラとの婚約を企むものには死を覚悟しなければならないほどのTOITUMEが待っている。
まぁ幸いというかなんというか……騒ぎが起きた当時のアーデルは帝国に留学して不在だ。
直接のTOITUMEは避けられても、それで平穏無事なわけない。
クラーラ自身、不貞を行う輩には容赦しない性質だった。
慕う義姉を長年に渡って貶すクズを間近にみてきただけあって、ケイトを顧みないどころか愛人という名前の奴隷としてこき使おうとする元婚約者は完全なギルティ対象。
ケイトも元婚約者とは政略結婚の相手程度しか情はないので、クラーラの企みを知った上で止める気は全くない。
ギスカーン子爵家もほしいのは伯爵家の縁ではなく土地であり、伯爵家がどうなろうと知ったこっちゃなかった。
それでも伯爵家当主がまだドラ息子を諫めるだけの常識を持ってれば、被害を元婚約者にとどめるつもりであっても……
あいにくあの子にしてあの親あり。
結論から言えば、元婚約者は師匠の師匠から入れ知恵されたクラーラの容赦ない策略によって両親と伯爵家ごと消された。
伯爵家の領土もギスカーン子爵家が爵位ごと貰い受けた事でギスカーン家は伯爵に昇爵。
その領土はまだまともであった代官達に引き続いて治めてもらっているので、領民達に大きな混乱はない。
むしろ、無茶な要求や税収がなくなったので歓喜されてるぐらいでもある。
その逆で元婚約者とその両親達はというと……
フェルトは彼等のその後を知らなかった。
クラーラ曰くアムル家お抱えの矯正施設へと送ったそうだが、あそこはいろいろとヤバイ噂が蔓延っている上にクラーラも全く否定しないということはまぁそういうことだろう。
世の中、知らない方が幸せな事もある。
「……俺も一歩間違えれば同じような運命たどってたんだよなぁ」
フェルトは元婚約者の末路と比較し、改めて自身の幸運に感謝を捧げるのであった。
さすがに元婚約者の出番はもうない……と思う?




