50.この空気を全く読まない馬鹿皇子を殴っていい?
神は言っている……右ストレートでぶっとばせと( ・ω・)っ≡つ ババババ
アーデルはペーターに関して一切オブラートに包むことなく辛辣な意見を述べるも、それはロッテンとシィプシィも同じだったようだ。二人はアーデルに追従するかのように口を開く。
「そうよねぇ。そもそも高潔な騎士様だったらクズの側近なんてやってられないっしょ。なれるのは同類のクズか、はたまたマイヤーみたいな超が付くほどの悪党」
「アーデル様もロッテン様も酷い言いようですね。ただ、ペーター様は私以上に腹黒な悪党であるマイヤー様と悪友になれてるので否定しませんが……」
「シシィ姉さん、自分が悪党って自覚あったんだ……」
「正直者な善人では商売の世界で生きていけません。ある程度の腹黒さや抜け目なさを兼ね備えなければ生きていけないので、ある意味貴族社会と同じかと思われます」
「全くだ。俺もあの騎士みたく生きたいが、皇族として生まれた以上狡猾に立ち回らならん。面倒な事にな」
「「………(どの口がそう言ってんだ?この本能で生きてるような脳筋馬鹿皇子が!!)」」
「よって、再度言わせてもらおう。アーデル、結婚してくれ」
「ねぇ、この空気を全く読まない馬鹿皇子を殴っていい?今すぐ殴っていい?ぼこぼこにしていい?」
「大丈夫だ、問題ない」
「神はきっとこう言ってるでしょう……『まっすぐ行ってぶっとばせ』と」
「同感です。告白するにしても、もう少し時と場所というものは考えるべきでしょう」
「いやいや、そういう問題じゃないっていうか……ヨーゼフn……大司教様!?」
ロッテンとシィプシィに紛れて話に加わってきたヨーゼフに驚く面々。
これはまずいと思うも、ヨーゼフは手で制す。
「大司教としての話はもう終わったようなものなので問題ありません。その証拠に皆さんすでに行動起こしてるでしょう」
「言われてみれば……」
気付けば、周囲は今後に備えるため会場を去ったり、仲間同士で集まって算段を立てたりと各々行動を起こしていた。
そんな中、残された取り巻きは状況がわからず慣性的にアーデルを非難するも、ヨーゼフのお付きだった神官やアーデルの側近で先日の定例会議にも出席していた男爵令嬢……
同性愛に情熱を燃やす悪癖を持ってるくせに治安を預かる法務部門所属という、なんともいえない立ち位置にいるミスミから自分達の置かれてる現状。“天誅”こそ免れても、子供でも理解してる規則を理解してない馬鹿さ加減を披露したお前らに明るい未来はないっと直球で諭されたために顔面蒼白。
どうすればっとオタオタし始めた所で、ミスミがぼそりと一言。
「もしかしたら、アーデル様に許しを請えば助けてくれるかもしれませんよね」
「えぇ、ミスミ様の言葉通り。アーデル様は王太子妃である上にヨーゼフ大司教と縁深いお方です。そんなお方から減刑を願われたら私たちも無碍にはできません」
ミスミだけでなく、お付きの女性神官……さりげなくミスミとは趣味仲間として同志の契りを行ったフランも乗っかっての言葉は効果抜群。
「アーデル様!!お願いです!!!ご慈悲を……なのとぞご慈悲を!!!」
「王太子があれだけ考えたらずなクズだなんて、知らなかったんです!!」
ずうずうしくアーデルに庇護を求めだしたのだ。だが、それは予め防壁を築いていた冒険者によって阻まれていた。
「貴様等!!俺達は貴族だぞ!!!平民ごときが阻んでいい相手ではないんだぞ!!!」
「首を切られたくなければどけ!!」
「貴族に逆らえばどうなるかわかってるのか!!!」
少しは反省したと思えば、すぐに化けの皮がはがれた。
ちなみにこれは馬鹿達に慈悲をかけるかどうかを判別する最後の審判だったらしく……
「あそこで騒いでるのは右からテケトー伯爵令息とダムラン子爵令嬢、それとムノー男爵令息で……」
貴族のたしなみとして貴族の顔と名前を一通り覚えているミスミの指示で淡々と閻魔帳に名前をメモって行くフラン。
その姿は真面目に職務を遂行する文官であるも、一部は気づいていた。
顔だけは良い貴族令息と荒々しい冒険者達が押し合いへし合いする姿を眺めたいがために、わざと取り巻き達をけしかけたのだと……
だが、国や教会としては最後の審判も必要不可欠なので咎めようとも咎められず……
結局、腐った同志のおかずとなる事を黙認するのであった。
そんな腐った同志のせいで余計な仕事を増やされた冒険者達はいい迷惑であるも、雇い主に群がる寄生虫をスルーさせるわけにはいかない。
行動原理は金という損得勘定ありきのものだろうと、雇い主の安全を守るという契約を遵守する姿は騎士とは違った誇りがあった。
例え、背中越しで『後で追加のボーナスお願いシャス』と訴えられようとも、これは当然の催促。
彼等がストライキしてしまったら、アーデル達は今頃貴族改め寄生虫に群がられていたのだ。
シィプシィは追加報酬任せておけっとばかりに彼等へサムズアップのサインを送った。
「それでヨーゼフ様。まだ何かあるのでしょうか?」
「あーはい。用というのは……えっと、ハイド第4皇子様。僕は貴方に話があって来たのです」
冒険者の肉壁越しからの血走った寄生虫達の視線が気になるらしく、再度弱気の部分が表に出てきているヨーゼフ。だが、この先は気弱では発せられないのか気合を入れなおして厳格な顔を意図的に作りだす。
「ハイド第4皇子よ……貴殿はアーデル王妃代理を……愛しているか?」
「当然だ!俺こそアーデルの夫にふさわしいと思っている。なにせ俺とアーデルの間には『真実の愛』で結ばれているからな」
「相変わらずの妄想具合ね。大司教様もこの勘違い皇子にびしっと言ってやってくd」
いくらハイドがおつむの足りない馬鹿といえども、教会の大司教の言葉を無下にするほど愚かでない。
アーデルも大司教であるヨーゼフがびしっと言えば場は収まると予測するも……
現実は場が収まるどころか……
「そうか。ならば祝福しよう。実際にこの目でみてわかる。私も二人とは『真実の愛』で結ばれてるいると確信できた」
さらなる混乱へと導くものであった。
B「くくく……今頃送り出したした爆弾の一つが盛大に爆発した頃合いだろうな」
S「全くです。王妃様もなかなかの悪ですのぉ」
B「いやいや、色恋沙汰だと婆や程ではないだろう」




