48.愚か者どもに神の裁きたる“天誅”を!!! ※ クズ2度目のざまぁ回(その13)
豆知識的に……この世界にも『人誅』はあったりする。
というか、ある街で悪が権力を盾にやりたい放題してた事に憤慨した個人が悪を裁いた『人誅』騒ぎがあったからこそ、教会も威信回復をかけて『天誅』のシステムを作ったという裏話があったりなかったり……
「愚か者どもに神の裁きたる“天誅”を!!!」
アーデルがヨーゼフ兄さんと呼んだ大司教が宣言したその瞬間。激しい閃光が舞い降り、周囲に轟音を響かせた。
クズの周囲にもうもうとした白煙が巻き起こり、煙が晴れた後に残されたのは……
平然と膝をついたままやり過ごしていたペーターと、その周囲で地面に突っ伏したままピクリとも動かないクズ達。
その他は傷一つない。あれだけ派手な閃光が天から落ちてきたにも関わらず、天井も床も傷一つない。
傷付けたのはクズ達のみという、人の身では到底真似が出来ない神の御業であった。
「裁きは下った……あっ、でもちょっとこれはやりすぎ……た?」
「……ヨーゼフ様。クズ達は息あります。死んでません」
「ペーター様。よかった……しかしなんですかあれ?たまに印籠を掲げてなお反抗的な態度を取る者はいても、そういう人たちって大体は学のない者や人生に悲観したやけっぱちな者や奴隷契約されてる等で不本意でも逆らわないといけないような者が主なんですが、まさか王太子と貴族の子息が何も知らずに反抗するだなんて……この国の教育大丈夫なんですか?」
「返す言葉もありません……後、口調が素に戻ってます。混乱する気持ちは理解できますが、一応ここは公式の場です。修行時代と違って今の貴方は王国の教会のトップである大司教様なのですから威厳持たせてください」
アーデルからの謝罪と指摘でハッと気付いたヨーゼフ。周囲からの視線を受けて自分の失態に気付いたようだ。ごほんっと咳払いして
「失礼。先ほどの弱き姿は出来るなら見なかったことにしてほしい」
ごまかすように懇願した。
その様に周囲は『大丈夫なのかこいつ?』っと少々不安にかられるも、アーデルはヨーゼフがこういう性格だと知っているので慌てない。
アムル家が経営する孤児院に居た頃から、能力はあるけど覇気の足りない兄という目でみてきたので今更なのだ。
(先ほどまでは大司教に相応しいと思ってたのに……やっぱり人間ってそう簡単に変わらないのね。とにかくフォローはしないと)
そう判断したアーデルは素早く考えをまとめて口を開く。
「私は別に構いません。それに、私はヨーゼフ大司教様の弱き姿は長所と考えております。神の代弁者たる印籠の力は正しき事に使用しなければ自身に“天誅”が下されてしまう諸刃の剣。使用者は慎重で躊躇する臆病な心を持つぐらいで丁度いいと思います」
「そ、そう……だろうか?」
「そうです。加えて、いざという時は迷いなく決断を下すのは強き者の証拠。力の振るい時を見誤らないのであれば、皆もヨーゼフ大司教様を神の代弁者として認めるでしょう」
「「「「「「「その通りでございます!!」」」」」」」
アーデルのフォローに同意するかのごとく、周囲は頷いた。
ヨーゼフは隣国に渡って常人なら30年はかかる修行をわずか10年でやり遂げ、20歳という若さで大司教まで昇りつめた才覚と徳の持ち主。
ただ、才覚や徳こそあっても経験や実績が全く足りないからと、もうしばらくは一介の神官としてキャリアを積み上げる事を希望していた。その希望も最初は通す予定であるも、王都の教会上層部が王城同様に腐ってたせいで軒並み“天誅”が下されてしまい、気付けば適任者がほぼ全滅。
ここまで来たら個人のわがままは通せないっと、ヨーゼフは仕方なく大司教の座に就く事を承諾したのである。
ヨーゼフにとっては不本意な着任になったが、部外者からみたら王すらひれ伏す絶対の力を持ってなお謙虚な心を持ち続けられる彼こそが大司教の座に相応しいと思っていた。
教会内部の腐敗した状況を見てきた者にとってはなおさら……
なので、腐敗してきた教会に憤慨していた者は全面的にヨーゼフを信頼している。
大司教となった事で得た力を私利私欲に使用しないと信じてるからこそ、皆はヨーゼフ大司教を認めてるのだ。
ヨーゼフも皆の心意気を感じた事もあって改めて迷いを断ち切り、毅然な態度を全面に押し出させる。
「では……改めて、この場は私が取り仕切らせてもらう。それでよいか?」
「フランクフルト王国アーデル王妃代理。この場の取り仕切りをヨーゼフ大司教のお任せいたします」
「クールーラオロウ帝国ハイド第4皇子。この場の取り仕切りを大司教様にお任せしよう」
他者の迷惑を考えない超突猛進なハイドもさすがに目上の者を敬うだけの理性と知性はある。
意を唱えることなく素直に応じた事で各関係者はほっと胸をなでおろす。
「うむ。ではまず状況の確認であるが……この度、フランクフルト王国王太子によるクールーラオロウ帝国第4皇子を殺傷しようとた。これは戦争の意志有りとみてよろしいか?」
「いえ、フランクフルト王国としてはクールーラオロウ帝国との戦争の意志はございません」
「残念ながら、デルフリ王太子がハイド第4皇子を真剣で斬りつけたのだ。さらにその報復でハイド第4皇子がデルフリ王太子の顔面を殴りつけた。互いに国を背負う立場の者が起こした諍いだ。これは最早戦争であろう」
「そ、それは……その通りでございます」
ヨーゼフの言葉通りである。
アーデルはまだ最悪を回避できると思ってたが、状況はすでに最悪であった。
しかも先に手を出したのはクズ……すなわち非は完全に王国側。
帝国は王国に厳しく追及するだろう。
30年前に王太子が祝いの場で皇太子を殺害した実例があるだけに、同じことを繰り返した王国は全く反省なしとみなされるだろう。
もはや詰みだ。罪だけに詰みだ。
(終わった……もう全て終わった……)
アーデルはこのどうしようもない状況に目の前が真っ暗になった。
クズのせいで王国が終わりました/(^o^)\ナンテコッタイ




