3⑨.少なくともこの人は絶対敵に回したら駄目な人種(SIDE:アーデル) ※ クズ2度目のざまぁ回(その4)
そう言う本人も十分怒らせたら駄目な人種なのは確実です(笑)
最早肉体言語で無理やりわからせるしかない。
アーデルがそんな想いを抱いた時、待ったをかけるかのように一人の女性がクズの前に躍り出てきた。
「誰だお前は!?部外者がしゃしゃり出るな!!」
「失礼しました。k……デルフリ王太子様。平民の身でありますが改めて名乗らせてもらいます。私は王都の商業ギルドの幹部を務めているシィプシィでございます。この度は懇親会に私のような平民までご招待いただきありがとうございました」
平民と聞いてクズがぴくりっと眉を潜ませるも、シィプシィの礼儀正しいカーテシーをみて毒毛が抜かれたようだ。
「そうか。では私も改めて名乗らせてもらおう。王太子のデルフリだ」
「えぇ、よろしくお願いします。デルフリ王太子様」
にっこりと笑うその姿はまさに女神と錯覚してしまうだろうも、アーデルは知っていた。
あの笑顔はただの営業スマイル。
クラーラを彷彿とさせる、相手を骨抜きにしてしまう魔性の笑顔だという事を。
当然だろう。
なにせシィプシィは平民出身ながらも狸爺ことドム爺にその商才を見込まれて英才教育を受けた弟子の一人。8年前にゴッドライフ領国の外交要因としてアムル辺境領へと派遣された者の一人でもあり、クラーラに商売のイロハを教え込んだ師匠的な存在でもあるのだ。
商売事に関してなら彼女はクラーラの上位互換と言っても過言ではない。
さらにいえば年齢は22歳とアーデルより4歳も上であるも、世間一般ではまだまだ若手の部類。伸びしろも十分ある事から、将来的には商業ギルド長にまで辿りつけるだろうと噂されている逸材でもあるのだ。
(ただ、シシィ姉さんはドムお爺ちゃんの弟子なだけあってマイヤーと同類。表向き無害を装ってるけど腹の中は凄まじく黒いモノを抱え込んでるのよね。少なくともこの人は絶対敵に回したら駄目な人種)
そんな評価を抱いてるアーデルであるも、この場においては頼もしい援軍なのは変わりない。
シィプシィもアーデルには心配するなっとばかりに本心からの笑みを向けてくれている。
その逆、クズには顔こそ笑ってるけど目は獲物を見定める肉食獣のそれで見つめている。
だが、クズは気付いてない。自分がこれから調理されるまな板上の鯉だという事実に全く気付いてない。
その有様にアーデルはやれやれっと肩を竦めるのであった。
「では、今回の懇親会の設営に関してご説明させてもらいますが、よろしいでしょうか?」
「まて!なぜシェプシィ嬢が」
「……シィプシィです」
「失礼。シィプシェイ嬢が」
「だから、私はシィプシィです」
「う、五月蠅い!!そう何度も言われなくともわかっておるわ!!!」
(いや、わかってないから何度も訂正されてるのだけど)
アーデルはそう心の中で突っ込みを入れるが、シィプシィは心の中ではなく
「いや、わかってないから何度も訂正してるのですわよ。王太子殿下」
笑顔ながらも、わざわざ口に出して聞かせるあたり性格が悪かった。
「こ、この……」
クズはたまらず、拳を振り上げるも……
「もし言いにくいのであればシシィと呼んでもらってもかまいません。親しい者からはそう呼ばれておりますから」
見る人を和ませる笑顔で代案を出された事で殴るタイミングを反らさせてしまった。
「そ、そうか。ではシシィ嬢と呼ばせてもらう。なぜ部外者のシシィ嬢が今回の件に関わるのだ?」
「この懇親会は商業ギルドを通して依頼されたものですから、私達商業ギルドも関わりがあります」
「はぁ?!アーデル、これはどういうことだ!!この懇親会はお前の責任で行うもののはずだろ!!!」
「その前提が間違ってます。この懇親会は王太子殿下の発した王命で行われる物であり、国王様の承認印もあります。なので、責任者はく……デルフリ様となってます」
「だから、俺からアーデルに頼んで……」
「そのアーデル様がクラーラ様に委託し、クラーラ様が商業ギルドにこの案件を持ち込みました。商業ギルド側もこの案件に関して先方へと確認を取って受理しましたので、この件はアーデル様に関係ありません。わかりますか?」
「だから、これはアーデルの仕事で」
「何度も言いますが、懇親会の開催責任者はデルフリ様であってアーデル様ではありません。アーデル様を責任者に仕立て上げたければ、その旨も王命に盛り込むべきでしたね……」
まぁ企み事の詳細をほぼ全てマイヤー様に丸投げしてるような他力本願のクズにはそこまでの知恵なんて回るわけないのでしょうけどね。
最後にこっそり付け加えるも、この言葉はクズには聞こえなかったらしい。
「ならば今すぐその王命の内容を書き換えろ!!」
「できません!すでに受理された契約内容の書き換えなんて不可能です!!」
「王太子の命令に逆らう気か!!」
怒り……いや、この場合逆切れ的に拳を振り上げるもその拳が振り下ろされる前にペーターが掴んで止めた。
「殿下……もう一度言う。落ち着こう」
「だ、だが……」
「落ち着こう」
「くそっ……わかったよ!!」
悔し紛れに手を振りほどくも、怒りはまだ収まってないようだ。
憎しみ気にシィプシィを睨むも、彼女はにこやかに笑うのみ。
(相変わらずいい度胸してるというかなんというか……なにはともあれ、この場はもう完全にシシィ姉さんの独壇場ね。しばらくはこのままお任せしとこうかしら)
アーデルはそう呑気に考えるも……
現実は甘くなかった事に気付かされてしまうのは、この後すぐであった。
怒らせたら駄目な人種に丸投げした結果がこれだよ……
って、何度も言うけどお義姉ちゃんも十分怒らせたら駄目な人種ですw




