30.どうしてこうなった……(SIDE:ブリギッテ)
本編から離れた番外編。
そのためナンバリングも本編と切り離そうか迷ったけど……
今後もこういった番外はさみそうだし、その度にナンバリングの調整は面倒なんで本編からの続きにしました。
“どうしてこうなった……”
外から響いてくる喧噪を聞きながら、私は考える。
何度考えたかわからない自問自答を行う。
皇太子であった実兄がフランクフルト王国の王太子に殺され、さらに王国への報復戦争を仕掛けた際に父である皇帝がアムル辺境伯との一騎打ちの末に戦死……
泥沼の皇位継承争いでの共倒れの末、気付けば皇帝の座に着いた私はかつての父が……クールーラオロウ帝国の中心とも言える謁見の間の玉座に腰掛けながら、私は自分が歩んだ人生を走馬灯のように思い出す。
一体何を間違えたのかを……
どこで間違えたかを……
なぜ、クールーラオロウ帝国が滅び去る運命を辿ったのかを……
「考えても、今さらか」
滅びの前兆は昔から、先代の頃からすでにあった。
父や兄だけではない、異母兄弟達もその前兆を感じていた。
なのに、私は気付かなかった。
帝国が滅びるなんてありえない。
何の根拠もなく、そう思い込んでいた。
それでも……
“どうしてこうなった……”
何度も何度も自問自答してしまう。
わかりきっている答えを振り払うかのように、何度も自問自答する。
「ブリギッテ様……もうすぐ謁見者がお見えになります」
「そうか……」
そば仕えの声に私は思考を現実に戻す。
耳をすませば、外の喧噪も収まっていた。
すぐに謁見の間へと突入しないのは、体制を整えているからであろう。
のんきなものだ……っと思う。
ここで私が謁見の間から飛び出して強襲するなんて思ってもみないのだろう。
だが、その予測は正しくもある。
これはすでに勝敗が決した負け戦なのだ。
ここで強襲を仕掛けて勝利しても、それは所詮戦術的な勝利。
戦略ではすでに帝国が敗北している。滅びが確定している。
なら、私のやるべきことは一つ。
帝国最後の皇帝として、玉座にて威風堂々と待ち受ける……前にやる事を済ませようと私は隣へと目線を向ける。
「婆や……」
「何度も言いますが、私もお供いたします」
「だが、何も私のような愚かな」
「何をおっしゃいますか。夫もおっしゃってましたが、ブリギッテ様の行いは決して間違っておりません。今までも……そして、これからもです」
「そうか……ならば、最早何も言うまい……最後まで面倒をかけてしまったな」
「いいのですよ。私達夫婦は子どもが居なかった事もあって、ブリギッテ様は娘のように思ってました。子どもは親に迷惑かけるもの……この年まで迷惑かけられるなんてこれ以上にない親孝行ではないですか。ほほほ……」
婆やは笑う。これから死ぬというのに……帝国を滅ぼす切っ掛けを作った私に最後の最後まで付き従ってくれた。
「あーでも、死後は先に夫へ会わせてください。夫とは温泉へ行く約束をしていたのです」
「温泉?」
「えぇ。夫とは新婚旅行で温泉巡りに行こうと約束してたのですが、お互い都合が付かずに延期に次ぐ延期としたまま夫は先代の陛下と共に……ですから、この程度のわがままはお許しください」
「もちろん許s」
バン!!
「皇帝ブリギッテ!!貴様の野望もこれまでだ!!」
話し込んでる内に謁見者が来てしまった。
少しは空気を読めっと思う気持ちはあれど、世界はままならない事だらけ。
この程度で心を乱してはやっていけないのである。
そう……これは30年前のあの日に学んだこと。
同盟の証として嫁ぐ予定だったフランクフルト王国で起きた大事件。元婚約者であった王太子ザルフリが祝いの場で皇太子を斬り殺した前代未聞ともいうべき大事件で……
私は選択肢を間違えたのだ。
「本当に今さらよ」
すでに賽子は投げ終わっているのだ。
神でさえも、一度出た賽子の目は変えられない。
運命は覆らない。
世界はそう定められているのだ。
それでも、運命を覆す者が……
一度出た賽子の目を変えようと企む者がいるとすれば……
それは……
世界の定めを破壊する異端者であろう。
それからの私は謁見者と……勇者達と戦い……
私は自分自身の血で視界を……世界を赤く染め上げながら……
謁見の間を……玉座を枕にして……
私は死んだ。
これで全てが終わった。
はずであったが……
“ブリギッテ!!危ない!!!”
「えっ?」
本来は本編終了後に語ろうと思っていたけど、あるお方からの感想もあって急遽このタイミングで挟んでみたブリギッテ王妃の番外ストーリー。
30年前のあの日に一体何があったのか……
そして、王妃様はこの30年に間に何を思っていたのか……
全ては語らないけど、5話ほど続くこの番外で一部明らかになる予定?




