2⑨.俺、もしかしてとんでもないとこに逃げ込んだんじゃないのか?!(SIDE:リーメ)
前門の鬼、後門の悪魔
逃げ場なんて最初からなかったんや……・
(ふぅ~兄貴には悪いけど、助かった~)
兄であるウールを生贄にして修羅場からちゃっかり逃亡したリーメ。
無事に逃げ切れた自分は勝ち組。
本気でそう思うも……事態はそう単純ではなかった。
「さてっと、皆にはこれからデスマーチを行ってもらうけど覚悟いいよね?」
「はっ?デスマーチってなんだよそれ……じゃなくって、何の事でしょうか?」
先ほどまで兄の前だからと素を出してた影響もあって、主であるクラーラにも思わず素で返しかけてしまったリーメ。
ただでさえ侍女にはまだ早いっと厳しい評価を受けてる中でこれは失態だ。
後の評価に響くと心配するも、次のクラーラの言葉は評価なんか遥か彼方へとすっ飛ぶようなものであった。
「何って、私達はこれから懇親会の準備しないといけないんだよ。お茶会のようなものではなくドレスコード付きのね。本来なら諸々に一週間の猶予がほしいのを3日で、しかも逆断罪劇の準備も並行だからデスマーチ覚悟は当然じゃない」
「………はっ?」
思わず素っ頓狂な返事をしてしまう。
頭の理解が追い付かず、必死に状況を整理する。クラーラの言葉を頭の中で反復させる。
そうして出てきた結論は……
「俺、もしかしてとんでもないとこに逃げ込んだんじゃないのか?!」
「そういうこと。鬼から逃れようとして逃げ込んだところが奴隷船とかすっごい笑い話と思わない?ね、マイ」
「ん。これは絶対笑い話」
クラーラの問いかけに応えたのはリーメと交代して財務部に残ったユキの双子の妹のマイ。
共にクラーラの幼少期から仕える専属侍女であり、14歳とリーメより2歳下ながらも先輩であった。
だが、今はそうした情報なんてどうでもいいだろう。
今重要なのは……
「えっと……ちなみに途中下船は?」
以下にして逃げるかであるも、時すでに遅しだった。
「そんなの認めるわけないじゃん。がしぃ~!!」
「がし~」
気が付けばクラーラとマイがそれぞれ笑顔で左右から腕をがっちりとホールしていた。
その様はまさに『逃がさん』っとばかりの圧力がかけられている。
「そ、そんな……お慈悲を、お慈悲をくださぁぁぁぁぁアーッ!!!
懇願もむなしく、ずるずると引きずられるようにして歩かされるリーメ。
その後リーメに待っていた運命は……
デスマーチの名に恥じない超が付くほどの激務であった。
「うぅぅ……こんな目に会うなら兄貴と共に王城へ残っていればよかった」
後悔しても、もう遅かった。
だが、クラーラは奴隷船と称しはしても本当に非人道的な奴隷扱いはしない。各々の限界を見極めて最低限の休息は取らせてくれる程度の慈悲はあった。
そのおかげでリーメは地獄のような3日間を切り抜ける事に成功するも……
「も、燃え尽きたぜ……真っ白にな……」
懇親会の当日、会場裏のスタッフルームでは他のスタッフと共に屍と化してしまった。
そして……
「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」
「はひゃ!?」
会場から響き渡ったクズの怒声に思わず跳ね起きてしまった。
寝起きだったため、一瞬何が起きたのかわからず混乱するも、会場からは絶え間なく響くクズの怒声のおかげですぐに理解できた。
「あーなるほど……クズの様子からするとクラーラの思惑は成功したわけかぁ」
断罪劇直前でのクラーラの失踪……
これは元々の計画に組み込まれていたモノだった。協力者の多く……それこそリーメのような末端にすら知らされたものでも、計画の中心人物となるアーデルにはあえて知らされてなかった。
だから、アーデルはクラーラの行方がわからない。
演技ではなく、本当にわかってない。
クズがどれだけアーデルを問い詰めても、望む答えなんて絶対に返ってこない。
だというのに……
「くくく……本当に滑稽なこと」
現場を直接見てなくとも、外で何が起きてるか……
クズがどれだけ醜態を晒しているのか手に取るようにわかってしまうリーメは、同じように飛び起きたスタッフと共に笑い出すのであった。
次回からついに皆お待たせ。
クズ処刑のお時間……の前に、ちょっと別の閑話が入ります。
がっかりでしょうけど、ご安心ください。
あちらでも特大のざまぁ劇がご用意されておりますので、クズ処刑の前菜的なご気分でご賞味くださいwwww




