28.オテヤワラカニオネガイシマス(SIDE:ウール)
何がお手柔らかになのかは……見てのお楽しみ?
「ちなみにクラーラは今何やってるんだ?」
「あれは各所の支出と収入のチェックだな。不正や無駄があれば修正することで余剰金が確保できる、いわば埋蔵金捜しってやつか」
「……そういうのは本来、兄貴の仕事じゃねーのか?」
「そうだよ。だが俺はクラーラ程の才覚がないから巧妙に隠された埋蔵金を探し当てるなんて無理なんだ……ははは」
「いやいや。俺は兄貴も才覚あると思ってるけどな。なにせ今までクラーラが行って来た商談だが、見込みなしだと適当にあしらって以後は全く相手にしない。悪党相手では容赦なく心へし折ってきたが、見込みありだと心こそへし折っても終了時には再挑戦いつでもウェルカムな態度で切り上げてるぞ。
それに商談内容もそばで聞いてた俺がわからなかったクラーラの企みを兄貴はこうやってわかりやすく説明してくれたんだ。少なくとも兄貴はそこらの有象無象とは違うだろ」
「そ、そうか……?」
「といっても、馬鹿な俺の評価なんてアテになるかどうか……だけどな」
自嘲気味に笑うリーメであるも、ウールは別にリーメが馬鹿と思ってない。
純粋な知識でいえば不足してるだろうも、基本的な読み書きと計算はできる。
基本知識があるからこそ今回の商談内容が賃金の支払いが満足にできないほどの低予算で終わった事に関するまずさに気付けたのだ。
本当に馬鹿だったら気付かない。
さらに、淹れてくれたお茶に関しても王宮の専属侍女が淹れたモノと大差ない。
これもしっかりとしたお茶の知識がなければ出来ない事だ。
つまり、リーメは兄の贔屓目を抜きにしても決して馬鹿ではない。
そういった事を説明すれば……
「そ、そうか……?」
先ほどのウールと全く同じ反応を示した辺り、二人は血の繋がりがなくとも兄妹だと証明される結果となった。
「とにかく、外部のクラーラ達が働いてる中で財務部長代理の俺がいつまでも休んでるわけにもいかない。そろそろ復帰するか」
お茶を飲み切ったウールは気持ちを切り替える。
その姿をみてリーメも心得たっとばかりに姿勢を正し、二人並んで部屋を出る。
「おや、お二人とももっと休んでてもいいのに……具体的に言うと昔みたく一つのベットで仲良く添い寝を」
「まてぃ!!!その言い方誤解生むからやめろ!!!」
「そ、そうだぞ!!一緒に寝るのは事実だがベットで寝る事はしてねーぞ!!」
「リーメもさらに誤解を加速させるような言い回しするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「……ん?……あっ、そうか。すまん、今のなしで」
ウールからの突っ込みを受けて自分が何を口走ったか気付いたリーメ。慌てて口を噤むも時すでに遅し。
バキッ
「その話……詳しく聞かせてもらいませんでしょうか?」
ウールの婚約者であるケイトが持っていたペンを握り潰しながらにじり寄ってきたのだ。
「あっ、いや……えっと、その……一緒なのは孤児たち皆と雑魚寝ということで、少なくとも俺達兄妹で間違いは……」
「……お二人は血の繋がりないと聞いてますが、よもや」
「そのあたり含めてじっくり話し合うといいよ。なんせ平民と貴族はいろいろ常識に齟齬があるわけだし、今のうちにすり合わせ大事だからね」
「わかりました。貴族令嬢ながらも平民と婚約した事で苦労したであろうクラーラ様の言葉に倣ってOHANASIAIいたします。ばきぼきばきぼきばきっ」
「アーデル様みたく、拳をバキボキ鳴らすなぁぁぁ!!!」
思わず突っ込むも、それで事態が変わるわけがない。
それどころか……
「じゃぁ、用も済んだし私はこれで失礼させてもらおうかな」
「クラーラ様がお戻りであるなら、私も失礼させてもらいます」
クラーラが席を立つと同時にちゃっかりクラーラのそばへと戻るリーメ。
その様にクラーラは一瞬「えっ?」と首傾げる。
「私はクラーラ様のメイドです。共に行動することに何かおかしなことでも?」
「いや、リーメはここに残ってもらう予定だったはずだけど」
「おかしなことでも?」
「……ないかな?じゃぁ代わりにユキ。お願いできる?」
「わっかりました」
礼儀正しいながらもこの場から逃走したい想いを全面に押し出した交渉の圧に負けたのか、別のお付きの侍女のユキに視線を向ければ心得たとばかりに一歩前へと進み出た。
「リーメ!!お前逃げる気か!!」
「兄貴、安心しろ!!骨なら後で拾いに来てやる!!……ささ、クラーラ様。早くこの場から逃げましょう」
リーメも少々混乱してるのか、メイドと素が入り混じった応対してしまうも周囲は特に気にしない。
アーデルやロッテンといった国のトップともいうべき者達も裏表が激しいのだ。気にしてたらやってられないので、よほどの事がない限りはスルーである。
「話がまとまったようなので、二人っきりでOHANASIしましょうか……ウール様」
「わ、わかりました……オテヤワラカニオネガイシマス」
最早逃亡は敵わないっと観念したウールはそのまま先ほどの個室へと連れ込まれた。
バタンっと扉が閉まり、そして……
その後、彼の行く末を知る者は……
誰もいなかった?




