26.貴族令嬢は夫を尻に敷くのが標準なのか?(SIDE:ウール)
令嬢の尻に敷かれるなんて、我々の業界ではご褒美です(*゜∀゜)=3
ロッテンが口にした影。
それはロッテンが手をたたけば即座に天井やら床から現れる全身黒尽くめの人物達だ。
年齢どころか性別すら不明の怪しげな集団だが、わかるのは彼等がゼーゼマン家の者に忠誠を誓っている事である。
そんな彼等の主な仕事は掃除であり、例えどれほど汚れてようとも……血が飛び散った凄惨な殺人事件の現場もあっという間にその痕跡残さず消え失せる。
彼等の手にかかれば、血の海に沈んでいるアーデル達を綺麗に掃除できるというわけだ。
「「「「「「…………(いや、影って本来はこういう事に使うものじゃないだろ)」」」」」」
なお、モブ達の心の声はあくまでウールの予想であるも、モブ達とは2か月程度ながらも濃密な時間を過ごして来たのだ。
こういう時のツッコミは一致団結してると思っていいだろう。
そんなわけだから、『くだらない事に使うな』という言葉の説得力は満場一致で皆無だった。
だが、何度も言うが下手に異を唱えると拳骨ではなく鋼のハリセンで脳天をぶっ叩かれる危険性がある。
それはクラーラが相手でも例外ではないため、クラーラは今回もしぶしぶと引き下がったようだ。
「むー……まだ言いたいことあるけど、時間切羽詰まってるからさっさと予算案のとりまとめを始めようか」
「あ、あぁ。話をまとめるための場所は財務部の個室でいいか?」
「個室っていうと、もしや二人っきりで……」
「そんな命を投げ捨てるような真似できるか!!秘書や書記も一緒にだ!!」
「ちっ、残念……じゃぁ行こうか」
何が残念なのか、理由を聞きたいようで聞いてはいけない……っと判断できない内に部屋を退出したクラーラ。その様から大した理由はなさそうだ。
悩みも解決した事でウールも続いて部屋を出ようとするが、その背に同僚から次々と激励の言葉が投げかけられる。
「一応がんばれ」
「骨は拾ってやる」
「墓穴の用意しとこうか」
「お供えものは林檎ジュースで決まりだな」
訂正。彼等が投げたのは激励ではなく、お悔みの言葉であった。
それでもウールは啖呵をきる。
「今回は負けるつもりはない!!だから用意するのは祝勝会だ!!!」
「わかったわ。葬式の準備して待ってるから……逝ってらっしゃい」
「………」
同僚ではない、宰相代理というあからさまに上の立場であるロッテンの言葉は強烈だった。
上司すら信頼されてない事実にウールは泣きそうになるも……
「大丈夫です。私は信じております……ロッテン様の言葉を借りると、夫を信じるのが婚約者としての義務ですから」
秘書兼婚約者であるケイトからの言葉で元気を取り戻した。だが……
「ケイトさん。一応忠告入れておくけど、夫を闇雲に信じたら駄目よ。貴族の夫人は最悪の事態を想定して対策を取っておく事も重要な役目なのだものね」
「わかっております。大損害を出したら未来の夫のお小遣いから天引きして補填する方向で調整をする……でよろしいでしょうか?ロッテン様」
「もちろん、よくわかってるじゃない」
「……なぁ、俺は平民で貴族の事よくわかってないから初歩的な質問させてもらうんだけど……貴族令嬢は夫を尻に敷くのが標準なのか?」
「男爵令嬢の私が代表としてぶっちゃけさせてもらうと、あんなのと一緒にするな!!……ですかね」
「「「「「「…………(大半の令嬢は男同士の同性愛を神聖視してる腐ったお前と一緒にされたくはないと思ってるだろうがな)」」」」」」
結論からいえば、優秀な貴族令嬢ほど世間一般のスタンダードな貴族令嬢像からかけ離れるっということである。
「そっか……そうだよな。とにかく俺の未来のお小遣いのためにも、頑張ろう!!うん!!!」
これ以上ここに残り続ければ精神的に耐えきれないからっと、なけなしのカラ元気をふり絞って部屋を出るウール。
目指すは一足先にクラーラが向かっている財務部の個室。
そこで彼の待ち受けている運命は……
「ぷしゅううう……」
無常であった。
まぁ勝ってたら次は義姉の対戦が待ってるだろうから……
平穏無事で居たければ負けるが勝ちかもしれないw




