225.今すぐここにアーデルを……王国の連中を一人残らず連れてこい!!この俺が直々に裁いてやる!!!!(SIDE:クズ) ※ クズ懲りないざまぁ回(その2)
もう何も言うまい……
「ふぅ……あれだけの地獄をみてきたのだ。少しぐらい性根が変わると思ってたが、結局変わらなかったところをみると、貴様は骨どころか魂の髄までのクズだったというわけか」
クズが一通り暴れ終えた所を見計らったかのように姿を現わした者達……
全員が頭上で輝く輪や背中から生える純白の羽をもっている事から、人間ではなく天使なのだとわかった。
その中でも一歩前に進み出た偉そうな天使はどこかでみたことあるのだが、クズはそれが誰か思い出せなかった。
“貴様は誰だ?”
「誰だ……か。一応貴様がまだ人間だった頃、大魔王になった後会いに行くっと言い残してたのだが、まぁ覚えてなくても別に構わん。私は貴様が真に反省してるか見定めに来ただけだからな」
“見定める……だと?”
「あぁ。どうせ貴様の事だ。口ではなく実際に見聞きしてもらった方が理解も早かろう。だから、先日のフランクフルト王国で行われたアーデル嬢とハイド氏との結婚式の様子を見せてやる」
偉そうな天使がパチンっと合図すると同時に壁へと何かが映し出された。
そこにいたのは……
純白のウェディングドレスを纏った黒髪で長身の女がピチピチのタキシードを着た大男と共に神の前で永遠の愛を誓っているところだった。
その光景を見た瞬間……
“アーデル!?”
クズは思い出した。
クズはかつて『デルフリ』と言う名前でフランクフルト王国の王太子であった事を……
元婚約者であるアーデルの汚い策略のせいで全てが狂った事を……
アーデルのせいでこんな目にあってる事を……
全て思い出したのだ。
そんな全ての元凶であるアーデルは大男に向かって、如何にも幸せと言わんばかりな笑みを浮かべながら接吻。
その瞬間、教会の鐘とファンファーレと割れんばかりの歓声が花びらや紙切れの吹雪と共に乱れ飛んだ。
その様をみたクズは……
“アーデルゥゥゥゥゥゥゥッゥゥゥゥゥゥ!!!貴様だけはぁぁぁぁゆるるるるるんんん許るさーん!!”
クズは怒りの感情のまま、映像のアーデル目掛けて触手を振るった。
どれだけ振るっても映像の中のアーデルは止まらない。
止まる事なく、アーデルが国民皆に祝福される様子が流された。
その様はさらにクズの怒りを煽るわけであり……
結果、クズの怒りは有頂天。
“うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!”
我を忘れて、手あたり次第に触手を繰り出した。
あらんかぎりの力を込めて壁を叩き続けた。
「ふぅ……こうまで予想通りだと一周まわって清々しく感じるな」
「全くですが、そんなことよりもう撤退でいいですよね?」
「もちろんだとも!!総員も聞いての通り、これからプランAに移行する!!急げ!!」
「「「「イエスマムー!!バニラ様の命令通り、即座に撤退へと移ります!!!」」」」
こうしてボス部屋から天使達が撤退した後も……
壁に投影されていた結婚式の様子が流れなくなってもクズは気付く事なく壁を叩き続けた。
どれだけぶん殴ろうとも壁に傷一つ付かないため、一体どれだけ殴り続けたかわからない。
それでも、未来永劫ずっと壁を殴り続けるわけでもなかったようだ。
“はぁはぁ……違う、俺が今すべき事は壁を殴り続ける事じゃない”
クズはあるタイミングで正気に戻った。
だが、正気といっても元々が修復不可能へと陥っていたクズの頭だ。到底まともな判断を行うわけなく……
“そうだ……俺がやるべきことはただ一つ……復讐だ!!この大魔王の力でアーデルを含めた、俺を散々コケにした王国の連中を血祭りにあげる事だ!!”
やはりクズはどこまでいってもクズだった。
ただ、復讐を果たすといっても、この場から一歩も動けないクズには到底無理な相談だ。
だが、それではいそうですかっと諦めるようなクズではない。
どうすれば復讐できるかっとしばし考えた後、クズの脳裏に名案が浮かんだ。
“おい!!ダンジョンマスターとやら!!聞こえるだろう!!聞こえるなら今すぐここにアーデルを……王国の連中を一人残らず連れてこい!!この俺が直々に裁いてやる!!!!”
自分が動けないなら向こうから来てもらう。
確かにそれは名案かもしれない。
だが、来てもらうにしても頼み方というものがあるし、何よりダンジョン内では神と言っても過言ではない存在を顎で扱うだなんて不敬にも程がある。
まぁこの世界には不敬とわかってなお神を顎で扱おうとする者も存在するが、あれは神であろうとも害をもたらす力を持ってるからできる事。
当然ながらそんな力を持ってないクズは……
「バニラさんや。あのクズは例の英霊の餌にするプランにするけど、意義はないかい?」
「ダンジョンマスターよ、反対する理由などあるわけなかろう。遠慮なくやってくれ」
想定する中でもっともきつい制裁が与えられる事となったのである。
そんな事実なぞ全く知らない、知る由もないクズは……
“さぁアーデルよ早く来い。たっぷりといたぶってやるぞ!!”
これから自分の身に何が起きるか全く知らないまま、ただただアーデルが来るのを待ち望んでいた。
そんなクズの前に現れたのは、一人の黒髪をした女性。
顔をよくみれば、彼女がアーデルでない事は確定的に明らか。
だが、アーデルをただ黒髪の女としかみてなかったクズは、彼女がアーデルと思い込んだ。
“はっはっはっはっは!!アーデル!!よく来た!!さぁこれはあいさつ代わりだ!!受け取れ!!”
クズは高笑いしながら触手を振るった。
過去に何人もの屈強な勇者を葬ってきた、必殺ともいうべき触手を最小の力で振るった。
運が悪ければこれで死んでしまうかもしれないが、その時はダンジョンマスターに頼んで蘇らせればいい。
飽きるまで殺しては蘇らせるを繰り返せばいい。
そんな下種な想いを込めて振るった触手は……
ぶちっ
あっさりと千切れた。
アーデル?の身体ではなく、クズの触手が千切れた。
うん、知ってた(笑)




