218.まぁ、同情する気は一切ないがな(SIDE:慈愛の女神カプリス)
本編のざまぁ劇は終わったけど、閑話的なざまぁ劇はもうちょっとだけ続くんじゃ
「さぁもっと力を込めて回さんか!!貴様ら奴隷にはこの毎日8時間の労働が待ってるのだ!!今日の夕飯を腹いっぱい食いたいというなら、もっと根性入れてやれー!!」
魔女クレアの聖域の地下に広がる労働所。ここでは生前に罪を犯した罪人や悪魔と取引を行った者が地獄での懲役刑代わりとして棒をグルグルと回す労働に準じている。
その様を慈愛の女神であるカプリスは高みから見下ろしていた。
罪人達の労働環境は見ての通り、一日8時間という上限がしっかり決められてるし、食事も質素ながら三ツ星クラスのシェフや板前に匹敵する悪魔が一切の妥協をせずに腕を振るったものが朝昼晩全てお代わり自由で食べられるのだ。
真面目に働いてる限りは鞭打ちのような乱暴もされないどころか、酒や甘いデザートといった嗜好品や淫魔と一晩遊ぶ権利すらもらえる。
地獄の懲役刑の中でも破格と言っていいほどの恵まれた環境だろう。
大抵の者は真面目に働く。下手に逆らって本当の地獄へと送られたくないからっと大真面目に働く。
まぁそれでも一部の者は不満たらたらで労働をボイコットしているようだ。
「確か、あいつらは少し前に起きたフランクフルト王国での革命で死んだ害虫貴族の子息だったよな?」
「ん~確かそうだったと思うけど~もしかして説教でもかます気?かぷねーやん」
カプリスの疑問に応えてくれたのは、隣を歩く堕天使であり腹違いの妹であるビスナだ。
本来ならここは慈愛の女神の義務として愚者に説教の一つでもすべきかもしれないが、カプリスにそんな気はさらさらない。
ビスナもその辺りわかってるはずなのだが……
「えーねーやんならやりそーじゃん。拳でわからせ」
「……まぁ、それに関しては否定せんか」
訂正。やはりビスナは義妹ながらも義姉の事をよくわかっていた。
そんな義姉の態度にビスナはわざとらしい態度で驚く。
「わーめっちゃひくわーそんなでよく慈愛の女神なんかやれるよねー?」
「そう思うなら、いつでも譲ってやってもいいんだぞ。なにせお前は愚者相手でも積極的に慈悲をかけているっと聞いてるからな」
「ちょーそれだれじょーほー?もしかしてレアママ」
「いくざくとりーだ。先日も王国の教会で悪魔王の配下が行ってた慰安ライブで多額の寄付を始めとした様々な便宜を計ってたのだろう。自腹で」
「えーあれは商売のぐっちゃんだし、商人として投資は基本っしょ」
いや、お前商人じゃないだろ。
一瞬そう突っ込もうかと思ったが、彼女は慈善活動の運営費用や孤児や難民の働き場所を確保するために商会を運用しているから商人と言えなくもない。
(まぁ、扱う商品の主力があいつとその配下の成果物だから全うかどうか怪しいんだが……)
そんなカプリスの視線は労働現場の一角。
丁度野暮用のために会う必要があった地下労働所の最高責任者であるギネスと話し込んでいる悪魔。『悪魔博士』の異名を持つマッドサイエンティストなサツマに向けられてた。
ちなみにその内容だが……
「いや~~ちょ~っとモルモットが入用になったんで、君のとこから何人か持ってっていきたいんだけど~」
「むにゃむにゃ……」
「いや、自分で募集かけろって言われても応募者が全然来ないの知ってるよね。その点君のとこはすぐに集まるわけだし~~もちろん、モルモットを大切にしないといけないのはわかってるんだけど~」
「すぴー」
「あぅぅ……研究費がカツカツだからそのレンタル料は……なら諦めろって言われても、いないの?不真面目で懲罰牢送りにできそうな馬鹿とか」
「相変わらず、ギネス殿の言葉は寝言にしか思えないのだが、なぜサツマ博士は理解できるのやら」
「そりゃーツマ博士は種族が“夢魔”だしー“睡魔”なギネっちとは分かり合えるところがあるからっしょ」
「そういうものなのか?」
そうぼやきながら、カプリスは懲罰牢送りに出来そうな馬鹿……
先ほどまで仕事をボイコットしてた害虫貴族子息達に目を向けてみた。
彼等は先ほどまで不満ぶーたら垂れてたが、今は態度を一変。
『ハッハッハーオシゴトタノチー』とか『ロウドウサイコーニジュウヨジカンハタラケマスカー』っと焦点が合ってない目で労働へと戻っていた。
それだけで、彼等が過去にモルモットとされた経験があるのだと容易に想像できるというもの。
「まぁ、同情する気は一切ないがな」
「だねーあたしも反省のない愚者に慈悲与える気なんてないんだけどーっていうかーあのクズの一件でもう懲りたし」
あのクズの一件
その台詞だけは普段の軽い雰囲気から一転して非常に重みがあった。
だが、彼女の履歴からみれば当然だろう。
(なにせ、ビスナは30年前のフランクフルト王国で起きた大騒動。神が俗にいう『乙女ゲームの強制力』でもって多数の人間の思考に介入したせいで世界大戦の引き金になりかねない愚行を引き起こした王太子達にわざわざ慈悲を与えたぐらいだからな)
カプリスはビナスがサツマとギネマとの会話に割り込み始める様を見つめながら、ぼんやりと昔を思い出し始めた。
っというわけで、この閑話は慈愛の女神様の過去を通して、30年前の前王太子達がやらかした愚行の真相に迫ろうと思いますw




