210.いいから薬を投与しろ!! ※ クズ7度目のざまぁ回(その3)
そんなことより……
ゆっくり〇ていってね
「デルフリ様。大丈夫でしょうか?」
のたうちまわるクズに向かってチャカボは問いかける。
どうみても大丈夫でない有様ながらも、あえて問いかけてくるチャカボにクズは殺意を抱いた。
下僕の分際で主が危機に瀕しているのに動かないなんて言語道断っという、どこまでも自分本位なクズはチャカボをにらみつけるも当人は涼しい顔。
「大丈夫ではなさそうですね。それに言いたい事はわかります。その痛みをなんとかしてほしいのでしょう?」
“わかってるなら早くなんとかしろ!!”
「えぇえぇ。なんとかする方法はあります。ですが……」
“いいから早くなんとかしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!”
「わかりました。それがお望みというなら……」
クズに言われるがまま、クズへと何らかの薬を投与するチャカボ。
その効果は抜群。
先ほどまでクズを苦しめていた苦痛が嘘のように引いたのだ。
「ある筋から手に入れた薬ですが、無事に効いたようで安心しました」
“安心したではない!!次は身体を元に戻せ!!今すぐ戻せ!!!っというか下僕なら俺が命令する前に動け!!!”
痛みは取り除かれたといっても生首状態なのは変わりない。
だから次の要望として、元の五体満足な身体に戻すよう要求するのは自然の流れであろう。
付け加えるなら、それはあくまでクズにとってはだ。常人ならまず先に礼を述べるだろう。
だが、真正のクズにそんな人としての礼儀なんて備わってるわけがない。
ましてや恩人である悪魔を勝手に下僕と称する辺り礼儀以前の問題なのだが、チャカボは気にしない。
クズのクズ具合なんてとっくに承知済。
チャカボはどんな扱いを受けようとも紳士としての態度を崩さず、淡々と事実を述べはじめた。
「残念ですが、デルフリ様の身体を癒す事はできません。というより、私のような悪魔は治療を不得手とされてます。頼むとすれば天使が最適なのですが……」
「残念だが、貴様に施した処置は慈愛の女神カプリス様が直々に施した“祝福”だ。私はカプリス様の配下として、主の意向に逆らう真似は許されない」
“なんだと!!慈愛の女神がこんな残酷な事をするなんて、信じられるか!!”
「どう思われようとも結構。カプリス様も貴様のようなクズから感謝されても嬉しくないどころか、恨まれる方が心地よいとおっしゃってる程だ。慈愛の女神様にそこまで嫌悪される人間なんてお前ぐらいなものだぞ。
だが、それでもカプリス様は慈愛の女神。義務として最低限の慈悲を……不死の祝福に30日の期限を定めたのだぞ。ここは泣いて喜ぶところであろう?」
いや、それのどこが泣いて喜ぶところだ?っと常識ある者ならツッコミたいところであるも、バニラは気にしない。
彼女は慈愛の女神直属の上位天使といっても、残虐非道な上位悪魔であるチャカボとなんだかんだいって垣根無しな友好関係を築き合えるほどなのだ。
厭味ったらしい皮肉を込めた罵倒を平然と口に出せる程度の黒い部分を持っていてもおかしくなかろう。
“きっさまぁぁぁぁぁ!!!殺してやる!!!今すぐ殺してやる!!!”
「そんな無様な身体で出来るものならな。だがまぁ30日後には大魔王として復活するのだろう。その時にまだ挑む気概があるというなら受けて立とう。それまで生き地獄の中で自分の罪を償うがよい」
そう言い残して去っていく天使バニラ。
終始クズを見下していたその態度に、クズは怒りは有頂天。
“チャカボ!!命令だ!!奴を殺せ!!!”
怒りのままチャカボに命令するも、答えは決まっていた。
「何度も言った通り、上位天使を殺せば神陣営との全面戦争に突入です。そうなれば死後に大魔王として復活する時期が大幅に遅れますが、それでよければ……」
“うぐぅ……”
何度も何度も同じ命令を出しては同様のデメリットを提示され、最後には結局取り消すのである。
その様はもう『まるで成長していない……』と言わざるを得ないであろう。
「さて、落ち着いたところで現状の説明ですが……クズ様に投与した薬は5分程度しか効果がありません」
“なんだと!?どういうことだそれは!!”
「説明の通り、先ほど投与した薬の効き目は5分だけ。手持ちもあの一本しかありません。
ですがご心配なく。こちらの薬は一回投与すれば30日間首の痛みを遮断する事が可能です。ただ、相応のデメリットが……」
チャカボは淡々と薬のデメリットを説明するも、クズはその説明を聞いてなかった。いや、聞ける状況でなかった。
“ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!”
説明開始直後に襲われた痛み。
首筋から激痛という言葉では到底収まりきらない、嘘偽りなく死ぬような痛みが前触れなくクズに襲い掛かったのである。
その原因は言うまでもなく、薬の効果が切れたからであろう。
だからクズは必死に叫ぶ。
“チャカボ!!何をしている!!薬だ!!その30日間効果が出る薬をよこせ!!!”
「まだ説明途中なのですけどいいのでしょうか?30日間効き目が続く薬は相応のデメリットが……」
「いいから薬を投与しろ!!」
「……同意いたしました。それがデルフリ様のお望みというなら……ね」
いそいそと後ろを向いて薬の用意を始めるチャカボ。
その際のチャカボは『計画通り』と言わんばかりな新世界の神のごとき顔芸を行うも、当然その事実にクズは気付かない。
彼の頭の中はただただこの苦痛から逃れる事。
これだけしかなかった。
一応、結論から言えば薬の投与によってクズは首の痛みから逃れる事はできた。
だが……クズは知らなかった。
チャカボから投与された薬は切り落とされた首の痛みが生き地獄の入口と称されるほどの……
真の生き地獄へと突き落とすに相応しい文字通りの意味での悪魔の薬であった事を……
この時の彼は知る由もなかったのであった。
そんな有様はまさにこの言葉が相応しいであろう。
“地獄への道は善意で舗装されている”
※ 上記の言葉は善意に見せかけてさらなる地獄へと突き落とすという意味でよく使われるが、それは『ネットスラング』による誤った認識である。本来は善意による行動であっても当事者からみれば『余計なお世話』や『ありがた迷惑』といった意味合いで使われる言葉であるため、悪意ありきで起こした行動では当てはまらない。
ちなみに悪意ありきで行われてる場合は
“いともたやすく行われるえげつない行為”
辺りが適切であろう。
でもって、今回のクズの状況でぴったりの言葉は
地獄まで自分の足で歩いていけ! by世紀末⑨世主
だと思われるw




