206.じゃぁ聖女王として命ずるわ。その方向でよろしく
当て字にすれば、『夜露死苦』である(ぇ
アーデルは渦中に居たため、制作中は自分達がどう見られたかわからない。
だから見守っていた者達の言によると……
制作中は神秘的な光に包まれるどころか、礼拝堂の外では精霊や天使らしき者達が次々と舞い降りてくるというとんでもない光景が広がっていたそうだ。
でもって精霊や天使達が集まった理由に関してだが、裏の事情を知るオニオン曰くそれは……
「そいつらは素材となったチョコレート目当てで集まった連中だぜ」
新たに生まれる聖剣に“祝福”を与えに来たのではなく、聖剣作りに使われなかったチョコレートの余りをおこぼれとしてもらいに来ただけの存在だったようだ。
「はっはっは、聖女の“祝福”が籠ったチョコレートは精霊や天使にとってご馳走だからな。それが少量でもタダでもらえると告知すれば皆こぞってやってくるって先方さ」
悪魔であるオニオン目線では(悪魔だけに)あくまで食い意地張った小動物に餌をやった程度の感覚なんだろうが、裏の事情を一切知らない者達は純粋に聖剣に祝福を与えに来たのだと思い込んでしまうだろう。
そうなれば当然、“聖女王”アーデルの新たな逸話が一つ刻まれた事になる。
「ボス含めて俺達は王国がもっともっと繁栄してほしいと思ってるんでな。だから遠慮なく名声を受け取るがいいぜ」
「ふふふ、その言葉を素直に受け取るほど私達は愚かではありません。よってクズの処刑に関して少し提案します。まず……かくかくしかじか」
「まるまるうまうま。クズの亡骸を悪用しようと企む連中を悪魔への生贄として提供するとは、それまた随分鬼畜な発想だな、マイヤーさん」
「愚かな馬鹿は放置すると害悪にしかなりません。ならば自ら悪魔の生贄となってもらうよう仕向けさせるのは為政者として当然の発想でしょう」
「処分ではなく悪魔の生贄となるよう仕向けさせるなんて発想を出す為政者は普通いねーよ。だが、愚かな馬鹿を排除したい気持ちはよくわかる。それに、利用される形にはなっても俺達に利があるからその提案は素直に受け取るぜ。これで貸し借りなしだな」
「ありがとうございます。私達はあくまで持ちつ持たれつな関係にしたいので今後も対等なお付き合い出来る事を願います」
「くっくっく。悪魔相手に対等なあり方なんて傲慢にも程があるっと言いたいところだが、俺としてはその傲慢さも含めて気に入っている。俺からも改めて対等なお付き合いを提案させてもらうぜ」
「もちろんいいですとも。以後も裏でいろいろとあくどい事を企みましょう。くっくっく……」
「「くっくっく……」」
「ねぇロッテン……このやりとりってどう反応すればいいと思う?」
「アーデル、私もわからないけどこれだけは言えるんじゃない?……マイヤーは絶対に首輪付けて監視しとかないと駄目な奴だって」
「じゃぁ“聖女王”として命ずるわ。その方向でよろしく」
「お任せください、女王様」
いろいろと物騒な会話はあれど、聖剣は無事に完成したのだ。
後はこれでクズを処刑すれば全て終わる。
そう、全て終わる………はずなのに、マイヤーとオニオンという混ぜるな危険とも言うべきコンビが結成された事でもう一波乱起きると感じたのは多分気のせいではないだろう。
アーデル達は予定調和ともいえるトラブルに全力で備えながら迎えた翌日の処刑日。
クズの最期を拝むべく大勢が集まった処刑場にて、引っ立てられるようにしてクズが現れた瞬間、観客から罵倒の嵐が飛んだ。
あちらこちらから石が飛び、この一ヵ月の拷問でボロボロにされたクズをさらに傷つけるが、クズは全く堪えない。その目は恐怖に怯えるどころか、ギラギラとした怨念染みた復讐心に満ちていた。
だが、アーデル達にとっては予想されていた事。
今までの経験上、クズ関係の企み事が予定通りに済んだような試しなぞない。
ましてや想像の斜め上を散々やらかしてきたクズだ。
実際、処刑場に上がったクズは民達を前にしても一切の怯えを見せる事なく堂々と宣言までした。
「聞け!!アーデル、そして愚民共よ!!!俺はここで死んでもいずれ大魔王に生まれ変わって戻ってくるぞ!!戻った際には俺に与えた屈辱を何倍にもして返してやるから、その日が来るのを楽しみにしておくがいい!!!!」
今際の言葉を終えたクズは処刑人に……実の息子の不始末は自分の手で付けるといって聞かなかった実父トビアスが振り下ろした聖剣で……
長い柄に黒光りする刃を取り付けた|斧と槍の特徴を持つ大剣という、聖剣というより魔剣と呼んだ方がふさわしい外観ながらも、神々しい光を放つからやはり聖剣には違わない……
その刃によって……
ザシュッ!!
クズの首は斬り落とされた。
そして…………
アーデル達が危惧していたトラブルは何も起きなかった。
ΩΩΩ<な、なんだってー!?
ありえない、何かの間違いではないのか?((;゜Д゜)ガクガクブルブル




