205.そうよね、うじうじするなんて私らしくなかったわ(SIDE:アーデル)
うりうりするだったらお義姉ちゃんらしいともいえる……かも?
後、クリスマスに続いてバレンタインにもチョコ回がピンポイントとは……
いや、別に意図して話数調整したわけじゃないよ(゜∀゜)ホントダヨ
下準備を終えたアーデルは王城から礼拝堂へと移動し、現在アーデルの目の前にはチョコレートの塊とクッキー生地が置かれていた。
これからアーデルが行うのは、聖女の力……“祝福”をチョコレートに与える事だ。
本来の“祝福”は他者や道具に与えるものだが、アーデルは魔法的な才覚が皆無なためにまず自分自身へと“祝福”を与えてから他者や道具に分け与えるというプロセスをとっていた。
この他所から力を取り入れるという仕組みは『M・B・S・B』と共通しており、だからこそ周囲の者はアーデルが“祝福”の力を持っているなんて全く気付かなかったのだが……
まぁとにかく、この方法ではアーデルにかかる負担が膨大。
才覚が皆無であろうとも、アーデルの身体を経由せずに“祝福”を与える手段を身に着ける必要性があった。
その手段として最適だったのが幼少期の頃からクラーラのためにと思い入れを込めてながら作っていた『料理』だったのである。
以前まではほぼ無意識化だった故、料理には『健康になる』や『強い身体になる』という身体強化一辺倒の“祝福”の力しか込める事しか出来ず、そのせいでクラーラをはじめとしたアーデルの周囲。アーデルの手料理を食す機会がある者は身体能力に優れた者が多かったわけだが……
この一ヵ月の修行の成果で無意識化によるものではなく、『火の魔法が使えるようになる』や『動物の言葉がわかるようになる』といったある程度の方向性を持たせた“祝福”を意図して料理に与える事が出来るようになっていた。
ただまぁ、料理に“祝福”を与えたからといっても宿ってくれるかは別だ。
例をあげればこってりとした肉料理や油料理に『病人が健康になる』の“祝福”を与えても効果が薄いように、“祝福”を与えるにはある程度の相性がある。
『病人が健康になる』の“祝福”ならおかゆのような病人食が最適であり、こってりとした肉料理なら『強い身体になる』の“祝福”が最適。
このように、“祝福”の方向性に合わせた素材や料理をチョイスする必要があり、そのためにはありとあらゆる料理技術と知識に精通する必要がある。
そんなわけで、今回聖剣の原材料として選ばれたのが目の前にあるチョコレート。
強い魔除けの力を持つカカオの豆から作られたチョコレートだ。
これなら『魔王を滅する』“祝福”を宿す事は可能だろう。
問題あるとすれば、チョコレートを聖剣に形作る事が出来るかだ。
アーデルは生来の不器用さも相まってモノづくりの才覚はない。
クラーラのためという執念もあって料理だけは極める事は出来ても他はさっぱり。
当然ながらまともな武器を作った事なんて一度もない。ましてや聖剣としてふさわしい外観と機能を両立させた武器なんて作れるわけがない。
アーデルはそう思い込んでつい尻込みしはじめた時、背中にバンっと衝撃が走った。
「きゃっ!!?」
思わず悲鳴を上げ、後ろを振り返るとそこには満面の笑顔を向けるハイドが居た。
「はっはっは。やる前からくよくよと悩むなんてアーデルらしくないぞ。いつものアーデルならまずは行動だろ」
「そうそう。大体あの人もお義姉ちゃんの生来の不器用さは把握済みなわけだし、そのためにデールマンや“交信”の力を持つ私が居るんでしょ。ねっ、デールマン」
クラーラの視線に合わせてアーデルは腰につけてた人形のデールマンに手を当てると、『ママの言う通り、ご主人の駄目な所は僕らがサポートする』っと励ましてくれてるのはわかった。
「それに、今回は修行の時と違って心強い味方。お義兄ちゃん達が托してくれたこれもあるわけだしね」
そう言いながら取り出したのはアムル家の世紀末4兄弟が魔王城で課されていた試練を乗り越えて手に入れてきた槌。聖剣とまでは行かずとも、かつての魔王へと挑む戦士達が愛用してきた武具を作り出した名工が使っていたとされる槌。
その槌には持ち主であった名工の残留思念から生まれたとされる付喪神が宿っており、クラーラは“交信”の力を使ってその声を拾い上げながらサポートしてくれるのだ。
クラーラやデールマンだけでなく、武器作りの達人ともいえる名工の魂までもが力を貸してくれると思えば悩む必要性なんて全くない。
「そうよね、うじうじするなんて私らしくなかったわ」
二人からの励ましを受けたアーデルは改めてチョコレートの塊に挑む。
アーデルがこれからやる事は一つ。
たった一つのシンプルな答え……
病弱だったクラーラのためにっという想いを……
知らず知らずに『クラーラが健康になりますように』っという“祝福”の力を込めながら病人食を作っていたあの頃のように……
ありったっけの“祝福”を……魔王を滅するに相応しい聖剣に生まれ変わる“祝福”を与える。
ただそれだけを考えてればいいのである。
「よし、今から“祝福”の力を注ぐから細かい調整はクラーラに任せるわ。それでハイドは何もしなくていいから」
「おいおい、それはないだろ。ここにきて仲間外れは酷いじゃないか」
「仲間外れじゃないわよ。ハイドには聖剣の誕生を私の隣という特等席で見届けるという立派な仕事があるじゃない。もしそれに不満あるというなら特定席をヨーゼフ兄さんかロッテンと代わってもら」
「その大役、承ろう」
こうして不安要素の排除に成功したアーデルはハイドだけではない。
王国の主な重鎮達、さらには礼拝堂に入りきれず外に居る国民達に見守られながら聖剣の仕上げにかかった。
そして……
多くの者に見守れながら……
聖剣は完成した。
そういえば、世間ではチョコで聖剣エクスカリバーを作ったという酔狂な輩が居るとか居ないとか……(笑)




