202.ここで一発アーデルにはド派手にクズを処刑してもらって聖女王様の存在を徹底的にアピールしてもらいましょうか
人それを『プロパガンダ』と言う
決して『RX-78GP01(試作型ガンダム1号機)』ではない
オニオンは執務室へ訪れる直前にボスこと魔女クレアからしばらくは王国にちょっかいを出さないよう言いくるめられてる事もあってか、王国ではこれといった悪行を働かなかった。
これはクズを相手していたチャカボ一派も同様。
特にチャカボは王国軍と公爵軍との戦後処理という名前の大虐殺を引き起こすよう民兵を煽った元凶であっても、それはあくまで自分達の糧を得るため。
あれでチャカボとその配下どころか、クレア陣営に属してる悪魔達全員が営業に出ず毎日食っちゃ寝しても10年は悠々に暮らせるほどの糧を確保できてるのでこれ以上の回収は必要ない。
むしろ、今の王国は刈り入れを終えたばかりの土地なのだ。これ以上無理して収穫するよりも次の収穫に向けて肥え太らせる方が断然お得。
だからチャカボ達一派は現在クズの下ごしらえのみに専念しており、オニオンもロッテン達にはアーデル達の近況含む渡しても問題ない範囲の情報を嘘偽りなく提供する程度に協力的なのである。
その証拠に、オニオンがロッテン達に会う時はまさに悪魔な姿ではなく魔女クレアのお膝元に居た時の姿。悪魔の力を肉体の奥底に隠した10歳前後の褐色肌をした少年の姿。ドム爺に情報収集の才覚を見込まれた暗部候補という立場に準じている。
これならロッテン達が悪魔に情報提供してもらってるなんて誰も見抜けないであろう。
「それでアーデルの言動についてだけど、詳しく教えてくれないかしらね?オニオンさん」
「そうだな、まず前提としてアーデルとクラーラはボスの元に居た時の記憶は朧げだ。これはボスが抱えてる機密を保持するための仕様で俺にはどうにもならない部分だ。
だがアーデルとクラーラには俺達のボスを初めとしたお偉いさん方の考えた筋書に沿って動かないと(主に審判の神様の胃が)大変な事になるから二人……いや、ボスの元から直接王国へ送り届けてもらっていたハイドも含めて3人は何が何でも筋書に沿った行動を取るっとある種の脅迫概念が刷り込まれた状態となってるはずだぜ。5Eにビショップことり」
「ほぅほぅ、筋書ですか。神々も結構俗な事考えますねぇ。ならば私もビショップを動かしましょうか。3Cにことり」
「神も王も上に立つ者同士、考え方も割と似通るものだろ。その挑発受けて立つ!逝け、クイーン!!」
「チェスで盛り上がるのはいいけど、その筋書はどんなものなわけ?私達がやる事は?」
「それはだな……っと、せっかくだ、キングも前に出す!!」
マイヤーとのチェス勝負にのめりこんでるせいで半分が筋書と関係ない話であるも……
オニオンが語った内容はクレアがアーデル達に語った筋書とほぼ同じ。
ロッテン達が事前に行ってもらうようなものはあまりない。
あるとすればクズの処刑に関してだろう。
「それでどうする?クライアント様の依頼は『クズを生き地獄へと落とせ』というほとんど私怨での“人誅”なんだが、その準備はチャカボさんが大体終わらせてる。公開処刑そのものは、どちらかというと“聖女王”様のお披露目を兼ねた拍付けにやるようなものだからな。俺としては公開処刑じゃなく裏でこっそりでも」
「裏でこっそり処刑だなんて冗談じゃないわ!!
最近はアーデルではなく私を王にっという声が出てるわけだし、ここで一発アーデルにはド派手にクズを処刑してもらって“聖女王”様の存在を徹底的にアピールしてもらいましょうか。
カナリア、聞いていた通り明日クズを公開処刑するからその準備を勧めるよう各関係者に通達しなさい」
「わかりました。ですが……差し出がましいと思いますけど一つ質問いいでしょうか?アーデル様が聖剣作りのために向かったのは厨房なのですけど……なぜ工房ではなく厨房なのか、なぜそこに疑問思わなかったのでしょうか?」
「あ~~………そういえばそうだったわ。アーデルは昔から料理好きで毎回肉やら野菜を鍋ごと宙に舞わせながら調理してたし、聖剣作りもミンチ肉やマッシュポテトを作るような要領でやるのだと根拠なく思い込んでたものだから、つい疑問に思わなかったけど……なぜなの?」
「その辺りは聖剣誕生の瞬間を実際みてみるのが早いと思うぜ。成り行きを見守らせてた配下からもそろそろ出来るぞーって報告来たからな。それでチェスの勝負は……」
「引き分け……ですね。相変わらず御強い」
「毎回毎回わざと引き分けに持ち込ませといてよく言うぜ。特に今回は俺の乱打戦にとことんまで付き合っていた理由はなんだ?」
「これはただの遊びだからです。遊びは楽しんだ者こそが勝利、そういう意味で誰よりも楽しんだオニオンさんこそが真の勝利者と思います」
「はっはっはっは。悪魔相手に否定せず開き直るとは相変わらずいい根性してるな。だが、俺はそんなマイヤーさんを気に入っている。よって、俺の配下の一部を体よくこき使ってようとも俺からは何も言わないぜ。あいつらもお前さんを気に入ってるようだしな」
「ありがとうございます。彼等はオニオンさんの教育が行きとどいてるおかげで非常に有能ですからね。引き続いて大事に使わせてもらいます。それでは厨房に向かい、歴史的瞬間を見届けましょうか」
オニオンは煽てに弱いお調子者だった。
その性質を見抜いたマイヤーは定期的にオニオンをヨイショしたことで彼から信頼を得ており、今は配下の一部の私的利用を認めてもらうほどであった。
その様にマイヤーはにやりっと内心笑うも、この行為は教会側にとって看過できないものなので後でこってり絞られたのは言うまでもない……
もちろん、こってり絞られてる最中のマイヤーは至福顔だったのも言うまでもない。
一流の策士は一つの策で複数の利益を得られるよう仕向けるものなのである。
人それを才能の無駄遣いともいう
だが、天才という人種は常識人に理解できないのもまた事実であるw




