201.目覚めたら目覚めたで別の問題が出てくるなんて(SIDE:ロッテン)
裏事情を知らなければ、そりゃぁ問題だらけだよねぇww
でも……
調停式の騒ぎから丁度一か月。
フランクフルト王国では暫定女王であるアーデルが昏睡状態であっても、国政そのものは暫定女王代理のロッテンと宰相代理のマイヤーが中心となって上手く回していた。
だが、二人は代理という立場な事もあって時間経過と共に各所で問題が出てくる。
その中でもロッテンが一番頭抱えたくなる問題は、いつ目覚めるかわからないアーデルではなくロッテンが女王に就任してしまえという声であった。
クズのような無能な馬鹿が血筋だけで王に据えるのではなく、有能な者を王に推薦する。
これは隣国のストロガノフ合衆国でも取り入れられている『選挙システム』なので発想そのものに問題はない。
あるとすれば、ロッテンが王になってしまうと、元々一強と言わんばかりな権力を持つゼーゼマン公爵家がさらなる権力を得てしまう点だろう。
ゼーゼマン公爵家はクールーラオロウ帝国と親密な関係を持っており、帝国と合衆国は双方ともに仮想敵国とされている。
つまり、王国をゼーゼマン公爵家一色に染め上げてしまうと、合衆国から帝国の属国を通り越した前線基地としてみられてしまうのだ。
それで敵視されるぐらいなら良いが、最悪の場合は戦争にまで発展してしまう恐れがある。
いくら王国には世界最強集団ともとれるアムル辺境領の私兵軍を抱えてようとも、彼等に人間同士の戦争経験がない。これでは常日ごろから人間同士で小競り合いを繰り返してる事で戦争経験が豊富でかつ、国力として30倍近い差がある合衆国に戦術的勝利はできても、戦略的勝利はまず無理だろう。
帝国への救援も海を隔てた遠方な事もあってあまり期待できない。
だから当初の計画では、王座には帝国寄りの公爵家ではなく合衆国と親密な関係を築いてるアムル辺境伯家の末娘のアーデルに就任してもらう。
さらに帝国の第4皇子であるハイドを王伴とし、非公式ながらも王家直属の血縁者となるクラーラを合衆国の公爵家クラスの家へと嫁がせる事で、王国は帝国と合衆国のどちらとも仲良くしたい中立ですっとアピールする腹積もりだった。
だが、調停式では予想外な事態が頻発してしまったせいで当初の計画は大幅修正する羽目となってしまった。
その中でもロッテンが代理ではなく正式に女王へと就任する代替案は、客観的にみて正論なだけあって無下に出来ず頭を悩ます事態になってるのである。
「まぁそれもアーデルが目覚めれば解決と思われていたけど……目覚めたら目覚めたで別の問題が出てくるなんて」
執務室にて、アーデルとクラーラの寝室で起きた出来事の報告を聞いたロッテンは盛大に溜息をついた。
報告によればアーデルとクラーラはつい先ほど目覚めた。
この報告事態は喜ばしいものだ。
なにせアーデルとクラーラは悪魔王オニオンに魂を連れ去られているため、無事に目覚めるかすら怪しい状態だったのだ。
一部からはこのまま死ぬのではっという声さえあった中での目覚め。
この事実だけをみれば手放しで喜べるものだった。
“皆よく聞いて……明日にはクズが真の魔王へと覚醒するわ”
目覚めた直後のアーデルが口にした言葉を聞くまでは……
「これ自体は裏の事情を知る私達にとって別に驚くものでないけど……聖剣作りってのはどういうことなのかしら?」
「そりゃぁ決まってるだろ。魔王にトドメを刺すのは聖剣が相場って奴だ。6Aにポーンをことり」
ロッテンの質問に答えたのは執務室に備え付けられている来客用のテーブルでマイヤーとチェスを打っている悪魔王のオニオンであった。
彼は調停式での騒ぎから8日後、ドム爺に連れられて執務室に現れたのだ。
ドム爺も『懇意にしてる悪魔達に渡りを付けてもらうよう頼んではいたが、まさか当人が直接来るとは思わんかった』と驚いてたが、オニオンはロッテン達にある取引を持ちかけるために代理ではなくわざわざ本人が足を運んできたのだ。。
その取引は端的にいえば『処刑後のクズの身柄引き渡し』であり、対価として提示されたのは情報だった。
そう、ロッテン達がもっとも欲しているアーデルとクラーラの安否という情報をオニオンが提示してくれたのだ。
最初こそ何か裏がないかと疑ってマイヤーは教会トップであるヨーゼフと協力して尋問するも、二人は特に問題なしと判断されている。
まぁその根拠が向こうの立場……
オニオン達のボスが神々からの表ざたに出来ないような裏仕事を請け負う組織。人間社会での闇組織の長であり、オニオン達のような悪魔が実動員という立場として考えればありえるとの事だ。
“これはあくまで私の予想ですけど、悪魔王オニオンの行動基準は依頼者。この場合は神々の意向やちょっとした意趣返しによるものとすれば過去の矛盾するかのような突拍子のない言動や行動も一貫性ある事になります。
それにドム爺と懇意にしてる悪魔達の長。格としてはオニオンと同等とされてる堕天使様曰く、『オニっちは帝国の皇帝直々からもらった“悪魔王”の称号を誇ってるし~誇り高い王が騙し討ちなんて姑息な真似なんかアリエナーイってかんじー?』だそうなので、取引はアリかと思います。”
“僕も取引は受けていいと思う。教会のトップに立つ者が悪魔との取引を認めるなんてとんでもないと思われそうだけど、組織のトップに立つ者として考えると清濁併せ呑む覚悟は必要だからね。裏でこっそりと依存しない程度の距離感で付き合いぐらいなら僕等教会も見て見ぬふりはしておくよ”
マイヤーはともかくとして、立場上反対しそうなヨーゼフからすらも後押しを受けた事で始まった不定期なオニオンとの密会。
結論からいえば、ロッテン達は悪魔と取引して正解だった。
暫定トップの陣営も、なんだかんだいって裏事情知ってたというオチでした。
ただまぁ~だからといって納得できるわけないよねぇ……
お義姉ちゃん達も半ば選択肢がない状況下だったわけだし(笑)




