200.私ってそんなに信頼ないのかしら?
先入観って大事だよね
「まったく、ここはドンパチ禁止。戦うつもりなら相応しい場を用意してからやりなさい……といっても、チャカボちゃんは最初から戦う気ないのでしょうけど」
「えぇ。ボスの言葉通り、これからの私が王国に関わるのは主にクズ関連だけのつもりです。この先どうなるかまではわかりませんが、少なくともクズの件が片付いた後は10年程静観するのでご安心ください」
「それは安心していいのかしら?」
「おやおや?ぺんぺん草一本も生えないぐらい、徹底的に容赦なく潰すっと宣言したのはアーデルさん。ほかならぬ貴女自身でしょうに、今さら発言を覆す気ですか?」
「確かに言ったわ。でもね……ぺんぺん草どころか地面そのものが叩き潰されるなんて想定外過ぎって話なのよ」
「あのクズはどうせ地の底にある地獄へと堕ちる身。地面を潰しても何ら問題ないでしょう。もっとも、私の場合は地面潰す前にじわじわとなぶり尽くす予定ですけど」
「ははは!!慈愛の女神様の格言に『死は慈悲である』なんてあるが、クズの運命がまさにそれだよな!!
さすがの俺もクズに同情するぜ。同情するだけで慈悲を与える気はさらさらない。大体そういうのは天使さんの役目だもんな」
「オニオンの言う通りだ!!慈悲を与える事こそ私達慈愛の女神に仕える天使の宿願……っと言いたいとこだが、本心ではお前ら悪魔達同様に我ら天使達もクズに慈愛を与えたくないと思っている」
「あはは~だったらお仕事ばっくれちゃえばいいんじゃないの~~?」
「ビーナス様、私は慈愛の女神カプリス様の直属なのです。例え救いようのないクズであっても、立場上は最低限の慈悲を与えなければならないのです……」
「は~~ばにっちも相変わらず真面目だね~~後、今のあたしはビ~ス~ナ~!!ビーナスじゃないと何度言ったらわかるわけ~~?」
「そんな事言わずにビーナス様も天界に」
「あ~ばにっちうざい!!デールマン、すりすり攻撃!!」
「はい、わかりました~~バニラさまもまずは落ち着きましょう~」
「ぐっはぁ!!?や、やめろ……そこをすりすりされると理性が……理性がぁぁぁぁ!!」
「……と、とりあえず、クズの処遇に関してはもうクレア様に一任します。ですが、私との対戦の件に関してはお任せにできません。人々に多大な迷惑かけるような騒動を起こす輩は見せしめとして徹底的に叩き潰す方向でいいですよね?」
「いいわよ。むしろ、その方がアーデルちゃんらしいものだし、皆もそれでいいわね」
「「「「もちろん、いいですとも!!」」」」
「はっはっはっは!!よくわからんが、対戦するなら俺も混ぜてくれ!!共に戦おうではないか!!!」
「私の聖女活動にハイドは関係ないでしょう!!むしろ、邪魔になるからでしゃばるな!!」
「つれないな。俺も手助けぐらいはさせてくれよ」
「はいはい、わかったわかった。聖女活動以外なら頼りにする。それでいい?」
「もちろんだとも!!だが、いつの日か俺も……」
「……期待せずに待ってるわ」
「ふふふ……二人とも本当に仲いいわね。アーデルちゃんもこの先無数の困難があっても愛の力で乗り越えられると信じてるわ」
「その困難の元凶がここに集約されてる気はしますが……今はまずクズの排除と国の立て直しに尽力します」
話を一段落付けたアーデルは改めてクラーラへと目を向ける。
クラーラもアーデルの視線に気付いたのか、ぐっと親指を立てる。
「お義姉ちゃんの方も話終わった?私達の方はもう終わってるからすぐに出発できるよ」
そう返事するクラーラは収穫物となった初めて訪れた際にご馳走してくれたタルトのレシピを筆頭とした多数のレシピと契約書をみせる。
ここを出れば記憶こそ無くしてしまっても、現物となるレシピの存在と契約書にサインした事実は無くならない。
クラーラは帰還後に見覚えないレシピや契約者の存在を不思議に思うかもしれないが、商人は信用第一なのだから契約書通りに動くだろうと予想していた。
もちろんそれはロンジュも同様だ。
ただ彼の場合、サクラ商会では度々こういった当事者の記憶が曖昧な契約書の存在が何度も確認される事例がある。その疑問が今回解けた事で逆にスッキリしてた。
「では俺はフランクフルト王国へと転移するハイド様と違って元の場所に戻ります。それで待機してもらってる俺の傭兵仲間やハイド様の側近や侍従、教会や商会にもアーデル義姉さんやクラーラの無事を知らせます。それら連絡事項を記したメモは持ち出しても大丈夫なんですよね?」
「その程度なら許容範囲よ。それと、私個人のお願いとしてリリーナとカスミ宛てに托した手紙の件もよろしくね」
「わかりました。内容は少々気になりますが、商人は信用第一。預かった手紙は責任持って叔母とおふくろにしっかり届けさせてもらいます。
そういう事なのでアーデル義姉さん、クラーラ。俺はクズの処刑には立ち会えないけど大丈夫だよな?」
「クズの処刑に関しては何も問題ない……のですよね?」
ロンジュの視線を受けたアーデルはさらにクレアへと受け流す。
二人分……いや、何らかの予感がするのか皆からの注目を浴びる中、当人から発した言葉はというと……
「パパを通して諸々のサポートや後始末の手配はもう済ませてるから余程のイレギュラーがなければ問題ないわ」
「……わかりました。問題起きると言う事を忘れないよう心に深く刻んでおきます。それでは、改めて……さようなら。いつかまた会いましょう」
最後の最後に不吉な予言を残してしまったクレアや悪魔達に見送られながら、デールマンに案内される形で聖域の外へと抜ける森道を歩くアーデル達。
そんな後ろ姿を見送りながら、クレアはぼそりと一言。
「ふぅ……私ってそんなに信頼ないのかしら?」
“今までの行いからみたら当然だと思うんだけど?もう一人の私”
「こらこら。覗き見ぐらいなら許すけど、その前世を思い出しかねない呼び方は辞めなさいって言ってるでしょう、サクヤ」
“大丈夫よお母さん。私が前世のエクレアだった頃の記憶なんてほとんど思い出せないもの。その証拠に今までの行いなんてただそれっぽい事を言っただけ。詳細を問い詰められても精々歴史書で語られてる内容をなぞる程度よ”
「それならいいけど……全く、昔は冗談の一つも言えない子だったのに、いつからそんな悪い子になったの?」
“ふふ。人間って年を取れば自然と老獪になるものよ。ソースは今年で70になる私だけど、それより王国の一件で……”
「心配ないわ。さすがにこれ以上王国をひっかきまわすとブラッドパパが血を吐いて倒れかねないし、もう大人しくしとくわ……あくまで“私は”ね」
“………………一応聞いておくけど、おじい様に安息が得られる日っていつになると思う?”
「断言するわ。私が私で居る限りはそんな日なんて絶対来ないっとね」
そんなわけで、クズ処刑時のトラブル発生率は⑨⑨%と予測しておこうと思う。
確立なんてのは単なる目安だ!!
その証拠に超ロボットの対戦では⑨⑨%や1%の命中率ほどアテにならないという格言がある!!!




