1⑨8.上に立つ者は少なからずこうした茶番を演じるものよ
体裁って大事だよねw
クレアが『雷切』と称した、ロンジュが愛用している刀。
ロンジュがこの刀を見つけたのはサクラ商会の武器保管庫の中であった。
本来刀は遠い異国の島国、倭国の武器であるために合衆国や王国のあるフーズ大陸の西側ではマイナーな武器とされていた。
だが、サクラ商会の長であり、ロンジュの母であるカスミは生粋の武器コレクター。
マイナーな武器を積極的に集める傾向もあって、刀はそれなりの数を揃えていたのだ。
ロンジュも一通りの武器を扱った結果、刀が一番しっくり来たのでそのまま刀を愛用武器にしていた。
だが、昔から愛用していた刀は3年前の国境付近で暴れていたドラゴン討伐の際に折れてしまい、武器庫の中で代用品を探してる最中に見つけたのがこの刀だった
当初は母カスミがわざわざ倭国に足を運んでまでスカウトしてきた専属の鍛冶師に修復してもらうまでの繋ぎ程度と思ってたが、使ってみれば驚くほどに手になじんだ。
それどころか、武器コレクターらしく一流の鑑定眼を持つ母に見てもらったら勇者の剣に並ぶほどの一級品と判明。
なぜそんな代物が母の目に止まる事なく武器庫の中で埃被って放置されてたのか、不思議だったが経緯を聞けば納得した。
「一応伝えておくけど、『雷切』の真価を発揮できてもそれで強くなれるかは別問題。
この刀で魔王と化したクズの右腕を……通常の武器なら傷一つ付かない魔王を傷つける事は出来ても、再生までは止められなかったでしょ。
それに魔法の矢を迎撃できても余波までは防げず吹っ飛ばされたりっと、決して万能武器じゃない。実際、悪魔からの精神攻撃は刀でも防げなかったでしょう?」
「あっ、えっと……その……」
「はっはっは。あれで動揺するとはまだまだ修行が足らんぞ、ロンジュ」
「いや、あれは動揺して当然っていうか、なんであれ受けて平然としてるんすか!?ハイド様」
「そりゃぁ当然、男として挑戦状叩きつけられたら全力で応えるのが義務ではないか。なぁ、アーデル」
「詳細知らない私に振られても困るし、そもそも今はそんな事どうでもいいでしょうに」
「あ~~~私も今はどうでもいいかな~~………ロンジュの名誉のためにもね~~~だから話を元に戻してくださ~~い……ヒック」
「いいわよ」
こうしてロンジュの精神に再度大ダメージを負わせかねない話題を回避させた義姉妹はそのまま王国帰還後についての動きを確認していく。
その内容は簡潔に言えば……
『聖女と目覚めた聖女王アーデルは皆と力を併せて魔王と化したクズを撃退するも、トドメには至らなかったどころか黒幕たる悪魔“オニオン”が現われて聖女王は義妹諸共に拉致されてしまう。
拉致された二人はそのまま邪神への生贄にされかけるも、その前に慈愛の女神カプリスが遣わした天使に救出され、そこで改めてクズの危険性を……一か月後にクズが真の魔王として覚醒して王国のみならず世界を滅ぼしてしまう事実を知らされる。
聖女王は世界を救うため、真の意味で覚醒するためにもウェディングドレスの製作者(実際は製作者ではない)である聖樹の聖女の元を訪れる。
聖女の元で修行した事で聖女の力を真に覚醒させた聖女王は、クズにトドメを刺せる聖剣作りの秘術を教わったのちに帰還。秘術を使用して新たな聖剣を生み出し、その聖剣で持って真の魔王へと覚醒し始めていたクズへトドメを刺して封印。
全てを終わらせたフランクフルト王国の女王として即位したアーデルは以後、聖剣を王国の守護の象徴として王国に繁栄をもたらしていく……』
そんな筋書で王国を治めろっという事であった。
当然、それを聞いたアーデルはマッチポンプと断言してしまうのは無理もないであろう。
だが、クレアは『おやおやっ』とばかりに笑う。
「何か問題あるかしら?アーデルちゃん達もクズや害虫貴族相手に似たようなことやったように、上に立つ者は少なからずこうした茶番を演じるものよ。
それに、断ったらどうなるかわかるわよね?私は必要と感じたらなんの躊躇なく王国を滅ぼしちゃうわよ。誰がなんと言おうとね」
「わかりました。王国の安寧っというか……これ断ったら後で審判の神様がキリキリと痛む胃を抑えながら胃薬を飲む事態となるまでがワンセットなのですよね。審判の神様の気苦労を考えると筋書通りに動かせてもらいます」
「そうしてもらうと助かるわ~私も一応義理の娘としてぱぱかっこかりの健康の気遣いぐらいはしたいもの」
「そう思うなら、少しは自重してあげてください」
「気が向いたらね~」
「…………(駄目だこの人。早くなんとかしないと……)」
だが、威圧一つでアーデルより上の強さを持つバニラをあっさり轟沈させてしまう程の格違いな魔女をどうなんとかするのか……
そもそも、この人をなんとか出来る存在なんているのか……
ちらりっとオニオンに目を向けると、彼は目線で『俺の知る限りじゃ、ボスの親父さんである審判の神様ぐらいしかいないぞ』っと応えるのみ。
「………(あーやっぱりそうなるのか……審判の神様には身体を労わってくださいって伝えてくれないかな)」
「………(それぐらいなら別にいいぜ。伝達は主にデールマンの役目になるが構わんよな?)」
「………(おっけーです。今度秘書さんに会った時、伝言しておきます)」
こうしてアーデル達が王国へ帰還後の流れ……
完全マッチポンプな茶番劇の筋書の詳細を詰めていくうちに別れの時間が来たのであった。
歴史というものは、大体は勝者が好き勝手に捏造されるものである。
古事記がまさにそれである。




