1⑨7.聖剣を作りなさい
エクスカリ“パ”ーを作ればいいのですね、わかります(゜∀゜)
「さてっと、脱線話はここら辺で切り上げて王国帰還後について建設的なお話しましょうか」
その脱線の元凶であるクレアが改めて場を仕切りはじめた。
なお、テーブル上では空になった酒瓶が多数転がっており、クラーラとロンジュは酒が回って顔を真っ赤にしてるも……
「わかりました」
アーデルは控え目にしていた事もあって素面だった。
「アーデル。難しい話は俺だとわからんから任せた」
ハイドも素面だが、アーデルに全て押し付けてクラーラとロンジュと共に酒盛り継続中だ。
その態度にアーデルは思うところがあるも、クレアは気にしてないどころかアーデルにもっと呑め呑めと進めてくる始末。
だが、酔っぱらった状態で重要な話を聞くのは失礼になりそうだからと断る。
その様はやはりマイヤーとの密会を筋トレしながら聞いてた奴とは同一人物とは思えない姿であるも、あれは気心知れた身内相手だからこそ出来る芸当。
自分より遥か格上の相手に同じ振る舞いが出来るほど、アーデルは無作法でなかった。
なので素面を保ったまま話に備えるも、クレアは至って軽い調子のまま話し始める。
「なんだかすごい真面目に構えてるけど、重要性はあまり高くないわよ。なにせクズを生き地獄へと落とす準備はもう⑨割終わってるもの。後は聖女修行を終えたアーデルちゃんが最後の一押しをするだけでアレは生き地獄へ真っ逆さま」
「そうですか……では、その最後の一押しは何をすればいいのでしょうか?」
「まずはね……聖剣を作りなさい」
……
…………
………………
「はぁ!?」
クレアの突拍子のない発言に釣られ、アーデルもつい突拍子のない返事をしてしまった。
「いやいや、なんでそこで聖剣が」
「聖剣が気に入らないなら槍でも斧でもいいわよ。でも、魔王となりかけているクズにトドメを刺す武器だからある程度の見栄えは必要。だから、こん棒みたいな粗末な武器は無し。却下よ」
「そうじゃなくって」
「材料に関してなら心配無用。ハイド君達にはその材料を集めさせてたからすでに用意できてるわ。作り方に関しても問題なし。こちらはアーデルちゃんのお兄さん達にもハイド君達とはまた別の課題を渡しててね。無事にクリアーしてその成果を預かってきたわ。
ちなみにお兄さん達もここに招待しようと思って入口を開けてあげたのだけど、脱衣所での騒ぎをみてすぐに引き返したわ。妹達が元気してるのがわかっただけでもう十分。後は任せるってさ」
「なんていうか、兄さん達らしい放任っぷりだわ……じゃない!!だからなんで聖剣なんて」
「魔王退治に聖剣が欠かせないからよ」
この流れはさすがのアーデルも意義があるため、何度も突っ込みいれるもクレアは完全スルーするかのごとく話を勝手に進める。
だが、唐突にことりっとテーブルの上に置かれたブツ。あの北斗4兄弟に課された課題の成果を見た瞬間にアーデルは突っ込みを忘れて見入った。
「こ、これは……」
「ふふ。これを一目見て価値がわかるなんて、修行の成果が出たようね」
なんだか誤魔化さられてるような気がするも、アーデルはそれでもなおテーブルの上に置かれたブツ。古ぼけた槌をみる。
一見すればなんてことはない槌。しかし、槌には精霊……付喪神が宿っていた。
その格は軽く見積もってもあのウェディングドレスとほぼ同等。
手に取るすらも恐れ多いほどの品だ。
「眺めてるだけじゃなく、手に取ってみなさい」
「は、はい」
アーデルは促されるままに手にする。
古ぼけてはいても、余程使い込まれたのか手にはよくなじむ。
それどころか、頭に聖剣作りのための行程が浮かび上がる。
ただそれは……
「みえたようね。ならその通りに作りなさい。そうすれば聖剣が出来るわよ」
「あの……この槌は一体」
「その槌の持ち主はね。私がまだ人間として生きていた頃の、魔王討伐のために選定された勇者とその仲間達が愛用する武器を手掛けた事もある名工なのよ。彼の作品には聖剣だけでなく様々な武器があってね。その中にはロンジュ君、貴方が腰に刺してる刀も含まれてるわ」
「はへ~っ!?俺の刀がどうしたのでしょうか~?」
酒盛りのせいで全く話を聞いてなかったロンジュであるも、唐突に話を振られた事でつい間の抜けた声をあげる。
それでも自分が愛用してる刀が話題になった事は理解したのか、テーブル脇に置いていた刀を鞘ごとテーブルの上に置いた。
刀はかつて自分を打った槌と再開したのがうれしいのか、常人では聞こえない声で会話を始める。
その声はそうした才覚がないアーデルでは拾えずとも、死神とも“交信”できる力を持つクラーラと刀の持ち主であるロンジュには拾えた。
まぁ拾えたといっても、「元気してたか?」とか「新しい主人はどうだ?」程度のたわいのない挨拶だ。
別段重要なものでない。
「あ、あの~~聖女様。この刀の事、知ってるのでしょうか~?」
「えぇ、知ってるわ。だってその刀は元々私が管理してたものだもの。それは『雷切』と名づけられた形のない現象を斬る事に特化させた刀なの。でも、使い手の多くはその真価を発揮できずにただの刀として振るわれてきたわ。そのせいで『雷切』がすねちゃって、80年ぐらい前に私の元に返ってきて以降はふてくされるようにして引きこもってたの。
私も何人かの良さげな使い手候補を紹介してはみたけどあの子は気に入らず突っぱねるばかり。これはもう駄目ねっと思って放置させてたら、3年ぐらい前かしら。唐突に訴えてきたの、自分にふさわしい使い手が現われたってね」
「そう……だったのか……?」
思わぬ話で急激に酔いが覚めてきたロンジュは改めて刀を手にして、鞘から抜いた。
ちなみに、『雷切』は実在する刀で別名『千鳥』とも呼ぶらしい。
なお、『雷切』の由来は雷属性の妖怪を退治した事かららしいが、同じ雷属性の妖怪ぬえの退治に使われたのは弓の『雷上動』であり、『雷切』ではない。




