1⑨6.命惜しさについ自重してしまう俺には出来ない事を平然とやってのける、そこに痺れる憧れるぜ!!
もっとほめたたえなさい(*´ω`*)ドヤァ
「タルトの件といい、ずいぶんとまぁあっさり認めるんですね」
「あっさりといっても、ヒントはたくさんあったわけだし、本気で隠し通す気はなかったもの。
でも、これだけは伝えておくわ。私の本名はクレアよ。生きていた頃はエクレアと名乗っていたけど、あれはエクレア本人が表舞台に出てこれない状況下だったから私が代役を担ってただけ。
バニラちゃんみたく当時を知らない子からはよく私とエクレアを同一視されるのだけど、私とエクレアは便宜上だと別人扱いだし、危険度もエクレアの方が数段上よ。なにせあの子が表舞台に出ていたら王国だけにとどまらず世界そのものまで滅んでたはずだし」
「…………」
クレアからの言葉にクラーラは黙り込む。
さらにいえばアーデルやロンジュは黙り込むだけでなく、緊張感を高めた。
なにせ、悪女エクレアといえばストロガノフ合衆国の前身となるストロガノフ王国の王太子を誑し込んで王国そのものを破滅へと導いた人物なのだ。
当時の話は二度と悪女エクレアのような者が現れないように戒めとして、広く伝えられている。
そんな悪女エクレアの最期は処刑されたとも、魔王として勇者に倒されたとされてるも、その本人が今目の前に居るとすれば……
さらにいえば、王国を滅ぼした偽物よりも物騒と称されている本物のエクレアが別に居るだなんて聞かされたら……
誰もが言葉を失う中、何か考え込んでいたハイドが唐突っと言わんばかりに発現した。
「すまん。俺は帝国の人間なんでストロガノフ合衆国の事はよくわかってないんだが、聖女様は前身となる王国を滅ぼしたっと考えていいんだよな?
だったらフランクフルト王国も同じように滅ぼすのか?」
「ハイド君。その質問はね………イエスって言いたいとこだけど、実際はノーよ。
私は愚かエクレアも最初は別に王国を滅ぼすつもりなかったわ。でも、当時の王国の内情はいつ滅んでもおかしくない程にガタガタだった上に複数の神々が様々な目的のために暗躍してた事もあって、王国がほぼ自滅するような形で倒れると同時に内乱勃発。戦乱がもう地上のみならず天界にまで及んで大混乱。このままだと世界そのものが滅びかねないような状況下だったから元凶となった神達を……」
「っとまぁ、こうしてやる事で無理やり収拾つかせてやったのよ」
テーブル上の籠に積まれていた林檎を握りつぶしたクレアだったが、アーデル達はどう反応すれば……であった。
確かにクレアは悪い魔女と自称はしてても、クズ魔王化騒ぎの被害はなんだかんだいって最小限に留めてくれていたのだ。
修行でも厳しさの中に優しいもあったのだから、アーデル達は魔女クレアの本質は優しいのだと判断していた。
本質が優しいからこそ当時の悪行も不本意だったのだと予測はできる。だが、それでも神を……王すらもしのぐほどの権力というか、これ以上の権力者なんて思いつかない文字通りの雲の上の存在とされる神を虫けらのごとくグシャーだなんてあまりにもスケールが違い過ぎた。
誰もが言葉を失って呆然としてる中、ハイドが平時と変わらない調子で問いかけた。
「つまり、今の所はフランクフルト王国を滅ぼす気がないっとみてよろしいのかな?聖女クレア様」
相変わらずの空気の読まなさっぷりだが、ここまで来たら尊敬のレベルに達するといえるだろう。
クレアもハイドの豪胆っぷりに気を良くしたのか、改めてイエスと肯定どころか特別サービスだっと言わんばかりにここだけの話を語ってくれた。
「実はね、私が悪女エクレアとして悪事を働く際は義理のパパ。後に審判の神となるブラッドパパに監視されてたの。だから想定以上の被害を出す度に怒られて、その時は反省するけどいざ悪女を演じてるとついつい調子乗って……
そういう事を繰り返してたから、諸々の事後処理を終えて悪い魔女として活動しようと思い立った際には『お前はもう信用できん!!』っと、独断専行出来ないよう従属契約で縛られる羽目になったの。
おかげで大きなお仕事を請け負う際にはまずパパに申請書を出して許可を得てからじゃないと請け負えないし、120年前のような大暴れなんてまず許可が下りないからやりたくともできないわ。
もっとも……私はできなくとも配下は別なのよね、オニオンちゃん」
「はっはっは。一か月のアレはボスの言葉。アーデルとクラーラを連れてこいという命令に従っただけだぜ。その結果として大騒ぎになったのもボスのせいで俺のせいでないだろ」
「ふふふ……そうね。オニオンちゃんのせいで私はアーデルちゃん達が来たその夜にパパから呼び出されて、監督不届きという名目で特大の大目玉食らっちゃったわ。具体的に言うと心臓に竜騎士の剣をぶっ刺されてから雷どっかーん。あれにはさすがの私も死がみえたわ」
「死ぬも何も、ボスは今あそこの桜と一体化して精霊となってるんだろ。精霊は本体が無事なら何度でも蘇れるから死んでも問題なさそうなんだがな」
「何度でも蘇れるといっても、復活時には一部の記憶を失ったり力が低下したりっとそれなりにペナルティーはあるわよ。それに、人格にも寿命があるわけだし、いつか私という人格がなくなってしまったら、それは死と同義じゃないかしら?」
「ボスの場合はなんだかんだいって後300年ぐらいはボスのままで居られそうなんだが、なにはともあれあの時はすごかったよな。
なんせボスの親父さんである審判の神様がボスに向けて放った裁きの雷。王国の教会の礼拝堂と悪党連中の何人かにまで余波が及んだせいで、現地では大騒ぎになったんだっけな?デールマン」
「騒ぎの後始末させられる人たちの身にもなってあげてください。っというより、なんでご主人怒らないの?
いくら連れてこいっという命令でも今すぐではなかったから、夜中にこっそりという穏便な手段でもよかったのに、あんな大勢の前で堂々だなんて大騒ぎ起きて当然。神様の何人かが抗議してるけどどうするの?」
「それはもちろん、無視するだけよ。だって悪魔にとって騒ぎ起こす事は別段悪い事じゃないもの。オニオンちゃんがやった事は王国にとっては一大事でも私にとっては十分許容範囲。むしろ、あの日から神に祈りを捧げる民衆が大勢増えたから大多数の神様達にとってウハウハ。特大の恩が売れたのだから、糞真面目な少数派の神様達の抗議なんて黙殺しちゃっていいのよ」
「さすがボス!!命惜しさについ自重してしまう俺には出来ない事を平然とやってのける、そこに痺れる憧れるぜ!!」
「やめてください。その黙殺された少数派の神様の抗議がご主人のパパさんに向かうし、パパさんはご主人と少数派の神様の板挟みにされてまた胃痛に悩まされてるって神様の秘書天使さん言ってた。
そろそろ胃に穴が空きそうだから自重してくださいっと秘書天使さんが土下座する勢いでお願いしてきたし、仮にもパパさんなんだから……」
「ふふふ……デールマンちゃん、知ってる?私はね、昔パパのどてっぱらに拳ぶっこんで風穴開けてやった事あるのよ。それに比べたら胃に穴が開く程度、大した事じゃないでしょ」
「そういう問題じゃないと思います」
「そういう問題なのよ」
「……ねぁ、お義姉ちゃん。私達さっきから一体何聞かされてるの?」
「クラーラ、私に聞かれても困るわ。でも……これだけは言えるわ。これ絶対知ったらいけないやつだって」
「ははは。何も難しく考えることはない。幸いここには酒がある。酒を飲んで忘れようではないか。ぐびぐび……ぷはーうまい!!」
そう言いながら、従業員が次々と運んでくる料理。修行終了記念とお別れ会を兼ねたパーティーのために用意してくれた料理を肴にして酒を呑むハイド。
相変わらずな単純明快な発想ながらも、酒の力に頼るのは正解だろう。
ロンジュも聖域の聖女の正体というか自分の曾祖母の秘密を……絶対外に漏らしてはいけない秘密を忘れるべく酒をがぶがぶと呑んでいた。
よってクラーラもロンジュに続くべく、先ほどまで聞いていた話を忘却すべく酒をがぶがぶと呑み始めた
もっとも、そんな努力は無用だった事を後ほど知らされたのは余談である。
魔女様の正体は、まぁ予想通りあのお方でしたw
ちなみに本物のエクレアの行方に関しては……
こちらもヒントはちりばめられてるし、わりと予想しやすいかもねぇ_(:3 」∠)_




