1⑨5.本当に殺さないといけなくなっちゃうじゃない
殺して口封じするのですね、わかります((;゜Д゜)ガクガクブルブル
こうして、双方の近況報告を一通り聞き終えたバニラははぁっと大げさに溜息を着いた。
「なるほど……この騒動は蓋を開ければクレア様のせいだったのか。全く、相変わらずというかなんというか……」
「相変わらずというと、こういう事は以前も?」
「あぁ、クレア様はこういった騒動……『らっきーすけべ』とか呼ばれるものを起こすのが大好きでな。この温泉も表向きは療養のためとされてるが裏ではその『らっきーすけべ』を引き起こすためじゃないかっと言われてる。
他にも下界で引き起こされる大小様々な事件の大半はクレア様が裏で引いてるとも言われる、いわば全ての元凶。そのため退治すれば下界が平和に……」
拳を握りしめながら力説するバニラは気付かなかった。
アーデル達は「あっ……」っとお約束と言わんばかりな表情をするも、話に夢中なバニラはその変化に気付かない。
「いや、120年前の悲劇を繰り返さないためにも魔女クレア……いや、悪女エクレアは退治すべきだ!!」
場に微妙な空気が流れても、バニラは全く気付かず力説を続ける。
だが、それはバニラの背後に立つ人物が会話に加わった事で唐突に終わりを告げた。
「はいはい。血気盛んな事なのはいいけど、命が惜しいならそこまでにしなさい」
「何を言う!!私は正義のためならこの命を捧げる覚悟などとっくにできて……」
「もう一度言うわよ。命が惜しいならそこまでにしなさい。でないと…………」
“本当に殺さないといけなくなっちゃうじゃない”
ビリビリビリ……
その発言だけで場は恐怖と言う名前の重圧に襲われた。
傍観者であるアーデル達は直接重圧を受けているわけでないにも関わらず、息をするのもやっとだ。そんな重圧を直接受けているバニラは息すら出来ず真っ青になっていた。
「あっ……が……た、たすけ……」
それでも助けを求めるかのように手を伸ばすも、その手を掴む者はいない。
手をつかめば巻き添えで殺される。
いや、ただ殺されるだけで済めばいい。
下手すれば死後も安らぎのない地獄へと落とされる
それほどまでの恐怖がこの場を支配していた。
そんな空間を生み出したクレア本人はにこやかな顔をしながら……
「な~んてね。嘘よ嘘。今の私は悪女エクレアなんかじゃないし、何よりバニラちゃんはお客様なのだからそんな厳しい処罰なんてしないわよ」
あっさりと重圧を解除した。
その際の笑顔はいつも通りであり、そこに恐怖はない。
だが……
「ただ~し、私の部下だと話は別。ね、オニオンちゃん……前回はあの程度の戯れで済ませたけど……」
“次に同じことやったら戯れ程度じゃ済まさないわよ”
ビリビリビリ……
再度場を支配する恐怖の重圧。
それをまともに受けたオニオンは即座に土下座する。
「わかっております!!あの時は俺……いや、私が浅はかでした!!もう二度とあの話題には触れません!!!」
「わかればよろしい。でも、話題にするなっとは言わないわ。私も昔と違ってすでに曾孫まで出来たお姉さんなのだし、心の中で思ったり私の居ない所で話す程度なら許すわよ。まぁそれでも鬼の首を取って来たかのごとく言いふらしまくったら躊躇なく殺しにかかるけど」
「やりませんやりません!!俺も命は惜しいんで、そんな命知らずな事絶対やりません!!!!」
「わかればよろしい……って、話を中断させてごめんなさいね」
「い、いえ……お構いなく」
アーデルはそう答えるだけで精一杯だった。なにせ言葉一つで天使を……直接手合わせこそせずとも、確実にアーデルよりも上の力を持つ上位天使のバニラを威圧だけで完全に戦意喪失させて気絶まで追い込んだのだ。
まさに格違い。
修行での実戦ではどれだけ手を抜いて戦ってたのかがわかるほどの隔絶した異次元の強さ。
人類最強の代名詞といえる勇者ですら決して届くことのない高み。
それすなわち……
「私は別に神様じゃないわよ」
相変わらず、疑問を口へと出す前に答えてくれるクレア。だが、それをすんなり信じられるかと言われたら……否である。
「その顔、どうやら全く信じてないようね」
「えぇ、クレア様はどうみても神様とかそういった類の人種です。本当に正体はなんなのでしょうか?」
「乙女の秘密……じゃ駄目かしら?」
「…………(いや、お前乙女って年じゃないだろ!!)」
アーデルは衝動的に突っ込みかけるも、すぐ思いとどまる。
ここで突っ込めばそこからペースを握られて最後には見当違いな話題に持ってかれて最初の質問内容を曖昧にさせられてしまう。
だから、ここは突っ込まないのが正解っと言わんばかりに口を閉ざす。
その結果、しばらく二人は無言で睨み合う事になるも、そこをクラーラが横から割り込んだ。
「あの、クレア様……先ほどバニラさんが『悪女エクレア』と呼びましたけど……もしかして貴女はストロガノフ合衆国の前身となるストロガノフ王国を滅ぼした……」
「おっと、その先は口に出したらだめよ」
「…………それはつまり、肯定とみていいのでしょうか?」
クラーラは自身の言葉をさえぎられた反応に対し、確信ともいうべき想いを抱く。
対してクレアはいつもの調子で適当にはぐらかしにかかると思いきや……
「えぇ、少なくとも私がストロガノフ王国を滅ぼした元凶って事は認めるわ」
クラーラの言葉を事実とあっさり認めた。
最近は年のせいか、こってりラーメンがきつくなってきた今日この頃……
っということはさておいて、この魔女様の正体は果たして……?




