1⑨4.落ち着いたならまず平和的に話し合おうではないか
そう言って平和に話し合いが行われるパターンは一体どれほどあるのだろうか……?
脱衣所で突如発生したカオス空間だが、収拾方法は当事者を温泉に放り込むだけでよかった。
あの温泉には疲労や怪我の回復促進の他、鎮静の効用がある。
どんなにハイテンションで感情むき出しになろうとも、ひとたび温泉に入ればたちまち無気力化だ。
その力は血の気の多い連中が激しく争っていても、湯舟に入ればあっさり戦意を失って休戦するほど。
それほどまでに強力な効用があるからこそ、天使と悪魔という不倶戴天の敵同士が共に滞在できる中立環境となってるのだが……
バニラはその温泉の効用を利用者としてよく知っていた事もあって、茂みに連れ去ったデールマンから必死の訴えを聞いた後は任せろっとばかりに行動を起こす。
デールマンを脇に抱えたまま脱衣所に飛び込み、アーデル達を即座に温泉の湯舟へと蹴り飛ばした。
その手慣れた様にデールマンは呆気に取られるも、従業員達にとっては見慣れた光景。
戯れは終わったとばかりに解散し、各々の仕事へと戻っていった。
「さて、3人とも落ち着いたか?落ち着いたならまず平和的に話し合おうではないか」
バニラはアーデル達が落ち着いたのを見計らってから、手慣れた様子で場の仲裁に入る。
そんな姿を茂みで連れ込まれて「アーッ!」な目に合わされたデールマンは……
(さすがバニラさん。場をあっという間に収めちゃった)
デールマンの元は愛玩人形。アーデルの手元にいた頃はアーデルからしょっちゅう「アーッ!」な事されてた事もあって、バニラからの「アーッ!」も愛情表現の範疇に入れられる程度に慣れていたのである。
そんなわけでバニラ主導の元、湯舟……はリラックスし過ぎて話にならないから休憩室に備え付けられていたテーブルにて、まず手始めとばかりにお互いのこの一か月の報告を行った。
アーデルとクラーラは主に修行の話……
ゴッドライフ領国に伝わる聖樹の聖女が魔女であり、オニオンをはじめとする悪魔達のボスでもある事はさすがに話せないのでそこには触れず、気が付けばこの聖域に来ておりそのまま聖女様から悪魔達の再戦に備えて聖女修行を行ってきたとごまかした。
その後はハイドとロンジュからの話……
悪魔王オニオンに連れ去られたアーデルとクラーラを救う手がかりを求めて、ウェディングドレスの製作者である聖域の聖女を頼った事を語った。
二人にとっては聖女が解決の糸口となりうるのか、ある種の賭けを行う面持ちで聖女と面識があるという、アーデルやロンジュの祖母でもあるサクヤの元へと訪れたら都合よく二人宛てへの『神託』ともいえる伝言が届いてたそうだ。
曰く、ある品物を手に入れて納品すれば対話する機会を与えてあげるっと……
アーデル達はその聖女こそが全ての黒幕なのだと知ってるのだが、その事実を知らない二人は提示された品物を手に入れるために邁進。
途中ビスナとか呼ばれる堕天使の妨害を受けつつも、なんとか品物を手に入れて今日納品できたようだ。
ちなみにビスナはオニオンやチャカボと同様に魔女クレアの配下な事もあってか、アーデルやクラーラも面識があって何度か話もしている。
その際の印象として、ビスナは状況をひっかきまわすのが大好きなオニオンや残虐非道で弱い物虐めが大好きなチャカボとはまた違う趣向。言動こそ軽いけど慈愛の女神カプリスの妹……実際は腹違いの妹だが、とにかく慈愛の女神である姉の影響があるのか、慈善活動という堕天使らしくない趣味を持ってるそうだ。
ただ、さすがに堕天使の姿で人前には出れないので普段は人間の身体。ゴッドライフ領国内で孤児院やら商館やら娼館を経営する裕福な資産家アキナとして活動してるそうだ。
行き場がなく困窮してる貧民を従業員として積極的に雇い、孤児も多数引き取っては読み書き計算といった基本教育から手に職をつける専門教育を行うなど、表向きは如何にも慈善活動家であっても……裏では『エンコー』とか呼ばれる奉仕活動の振りした娼婦の真似事をしている。
一応『エンコー』は何かと物入りになりやすい慈善活動費を稼ぐためっと称してるも、やってる事は悪魔としての本性丸出しでの誘惑だ。
そのテクニックはオニオン曰く、どんな堅物だろうと一晩で骨抜きにされて様々なモノを徹底的に搾り取られる程に凶悪だとか。
ちなみにその凶悪なテクニックは配下である温泉宿の従業員達にも伝授しており、アーデル達も修行後のマッサージをはじめとしたお持て成しという形でお世話になってたりする。
配下の者でさえもあまりの気持ちよさについつい堕落してしまう程なので、本家本元のテクニックはどれほどなのか……
っというか、娼婦の真似事と言ってるぐらいだから男相手だと……
閑話休題
とにかく、ハイドとロンジュはビスナからの妨害……どんな妨害を受けたかをハイドが包み欠かさず話そうとした所をロンジュが慌てて止めさせるも、ビスナとその配下達の仕事とテクニックを知るアーデル達からみれば筒抜けだった。
だが、男の名誉のためにアーデルとクラーラはあえて知らないふりを続けた。
その後は品物を指定場所まで運び入れ、そこで聖女……この場合クレアとの対話の機会を与えてくれたそうだ。
早速アーデルとクラーラの行方を質問すれば、唐突に亀裂が現われて『二人に会いたいなら、この亀裂に飛び込みなさい。ただし、この先は相応の危険があるから覚悟をすることね』と忠告され……
ハイドは亀裂に躊躇なく飛び込み、慌ててロンジュも飛び込んだら……
そこが脱衣所であり、今まさに温泉へと入ろうとしていたアーデル達と鉢合わせであった。
相応の危険の言葉に嘘偽りなしであるwwww




