1⑨3.いともたやすく行われるえげつない行為を平然とこなす辺りはさすが俺達のボスだぜ
だが、人によってはよくやったといわんばかりに絶賛されるのである?
魔女クレアが普段暮らしてる小屋から少し離れた所に建設された温泉宿の脱衣所へと連れ込まれたデールマン。
デールマンもここまで来たら覚悟は決めるも、せめてもの抵抗として服を脱ぎ始めるアーデル達を直視しないよう顔を精一杯背ける。
「ん?」
丁度顔を横に向けた際、空間の歪みに気付いた。
「元ご主人さま、ママ。気を付けて」
「ねぇ……気を付けるのはいいけど、ママって呼び方どうにかならない?」
「でもママはボクを作った人。だったらママはママ。駄目?」
「駄目ってわけじゃないけど、変な誤解されるから外ではクラーラお姉ちゃんって呼んでほしいかな」
「ママが言うならそれでいいよ」
クラーラからの懇願を了承してくれるデールマンだが、これをしっかり守ってくれるのか……
どことなく不安があるものの、クラーラ自身は公の場でアーデルをたまにわざとお義姉ちゃんと呼んでるのだ。
あまり強く注意するとアーデルからそのことを追及されかねないので、クラーラもこれ以上何も言う事はなく……
クラーラは気を引き締めた。
アーデルも魔法的な才覚が皆無なために当初は気付かなくても、さすがに物理現象まで起き始めたら異変に気付く。
そうこうしてる内に壁の一部が空間ごと裂けた。
裂けた先は波打つ水面のごとく揺れているだけであり、それが危害を与えるようなものでないのは3人とも直感でわかった。
だが、危険がないからといって放置するのも間違ってるような気がする。
だからどうしようかっと困惑顔で眺めてると……
不意に水面が盛り上がった。
それは水面から何者かが浮上する現象そのものであり、3人は即座に身構える。
ここが脱衣所で温泉に入る直前だったから3人とも素っ裸であっても、緊急事態だから関係ないっとばかりに大事なところを隠す事なく普段通り身構える。
そうして亀裂の中から現われたのは……
「おーーアーデルーー!!無事かぁぁぁぁぁ!!無事のようだなぁぁぁぁ!!会いたかったぞぉぉぉぉっぉお!!!?」
「ハ、ハイ……どぉぉぉぉぉぉ!!!?」
ハイドだった。
なぜ亀裂からハイドが現われたのか、アーデルは困惑するもハイドは困惑するどころか躊躇なく裸のアーデルに抱き着いた。
呆気にとられる中、さらにもう一人現れる。
「ちょ、ハイド様そんないきなりとびこ…………ク、クラーラ!!!?なななななななななななんでははははだっだだだだかかかかかかなんんんんんだだだだだだだだ?」
「ロ、ロンジュって……あっ……そういえば今私裸だったっけ……でも別に減るものじゃないし、問題ないでしょ」
次に現れたロンジュはハイドと違って困惑……というより、動揺した。
ある意味ではこれこそが正しい反応であるも、それで正しい行動を起こせるかはまた別問題。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや問題大ありっていや、そもそもなんで二人とも裸なの!!!?
ま、まさかあのビスナとか名乗った悪魔が言った通りエロ同人みたいに……エロ同人みたいに乱暴………乱暴……ああーそんな……クラーラの純潔があぁぁぁぁぁ!!」
「エロ同人って何!?っというより、なんで私の純潔散らされた事になっちゃってるの!!?」
「でも大丈夫!!俺が嫌な記憶を上書きしてやる!!だからクラーラ、安心して俺に全てをゆだ」
「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!私のクラーラに何欲情して襲おうとしとるんじゃごるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!?アーデル義姉さん違うんです!!こ、これには深い訳がぁぁぁ!!!」
「どやかましいぃぃぃぃぃぃ!!いますぐその股間の粗末なキノコ引きちぎってやるからハイドも抱きつくのをやめて離れろぉぉぉぉぉ!!!!!」
「だが断る!!ここで離れたらアーデルがどっかに行ってしまうだろ!!なんなら一生離さん!!!」
「えぇぇぇい!!なら先に貴様の首を引きちぎってやるわぁぁぁぁぁ!!!!」
カオスである。
正常な判断が下せずに暴走する3人のせいでこの場は完全なカオス空間となり果ててしまうも、クラーラではそれを元に戻せない。
ついでにいえば温泉を管理してくれている従業員達でも無理だ。彼等は悪魔なので戦闘力はそれなりにあるが、人類最高峰とされる3人には全く届いてない。
止めようとすれば鎧袖一触に吹っ飛ばされるのがオチだろう。
皆それがわかってるから、騒ぎに気付いて駆けつけて来るけど何もしない。
っというか、駆けつけたのは事態収拾ではない。ただただ面白い見世物を見学するためという可能性すらある。
そんな状況だ。クラーラが出来る事といえば、ただ一つ……
「あーもう、この状況誰かなんとかしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇ!!!!」
誰かに助けを求める事ぐらいだった。
「と、とりあえずご主人呼んできます。ご主人ならきっとなんとかしてくれるはず」
クラーラの懇願に応えるかの如く、裸で外へ飛び出すデールマン。
普段なら裸で外に出てもそれほど問題にならないが、今回はタイミングが悪かった。
「むっ、そこの少年!!何裸で走り回っている!!」
途中でバニラと遭遇。
彼女は慈愛の女神に仕えてる天使の中でも直属とされる上位天使であり、それ相応の実力がある。
具体的に言うとアーデル達よりも強い。
つまり、彼女ならのカオスな現場でも対応可能なのだが……
上にも書いてる通り、タイミングが悪かった。
「あっ、バニラさん。実は……」
「言い訳は後だ。君は付喪神で人間とは違うが、見た目はか弱いショタっ子。裸で外を走るのは危険だ。よってお姉さんが保護してやろう……ハァハァ……ハァハァ……」
「えっ、えっ、えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?!」
鼻息荒くにじり寄ってくるバニラ。
どうやら彼女はショタコンの毛があるらしく、そこへ肉体年齢8歳の男の子が裸で走ってるのを見かければ……
結論。
「アーーーーーッ!!!!」
デールマンはなすすべもなく茂みに連れていかれてしまうのであった。
さらに、極めつけとして……
「ボス。なんか脱衣所で騒ぎ起きてるが、あれはやっぱりわざとか?」
「もちろん、わざとに決まってるじゃない。大体、温泉があるならラッキースケベの一つや二つは起きてしかるべき。しばらくは若い子同士でイベントを堪能してもらいましょう」
「いともたやすく行われるえげつない行為を平然とこなす辺りはさすが俺達のボスだぜ。このオニオン、改めてボスに忠誠を誓うぜ」
騒ぎの元凶である悪い魔女は元から騒ぎを鎮圧させる気などなかったのである。
よって、デールマンが無事に小屋へたどり着いてもアーデル達の騒動の結末に大差なかったであろう……
こうして脱衣所で発生したカオス空間はしばらく放置されるのであった………
温泉といえば、定番のイベントなんだけど……
なんか思ったのと違うのは、たぶん気のせいではないはず?




