1⑨1.最近ちょぉぉぉぉぉぉぉっと調子乗ってるようだから、すこーーっしOHANASHIをし・よ・う・か・し・ら
お前調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?
修行開始から一週間目にクラーラは“ナニカ”を感じ取った。
同時にアーデルもその日にクラーラとは別の視点で“ナニカ”を感じ取っていた。
でも、二人ともそれが何を意味するかまではわからなかった。
わからないまま修行の日々が過ぎていく。
「れっぷーけーん!!」
ぱこーん!!
「しょーりゅーけーん!!」
てぃうんてぃうんてぃうん!!
「あまのたぢからおなげー!!」
ぴちゅーん!!
修行開始から幾数日、何度挑んでもあっさり返り討ちにされるアーデル達。
魔女の力を使わない、純粋な知識と技のみで戦ってるにも関わらずアーデル達を歯牙にもかけないほどの強さを発揮する魔女クレア。
その根源は本人曰く
「私はこれでも138歳なの。たかが20年も生きてない若造とは比べ物にならない程の技と知識を積み重ねてるのだから、勝てなくて当然でしょう」
っと、通常なら忌避するであろう自身の年齢をばらす事で示していた。
なお、年齢からいえばおばさんを通り越したおばあさんではっとアーデルはクラーラと共に同じ想いを抱くも当人は至って涼しい顔。
まぁオニオンが言うには、ボスは外見年齢を自由に変化できるのに態々30歳前後というおばさん呼ばわりもやむなしといえる外見に固定させてるぐらいだから年齢に関してはそこまで気にしてないらしい。
ただし……
「ボスが気にしてるのは年じゃないぜ。本当に気にしてるのは……」
ガシッ
「おーにーおーんーちゃーん。最近ちょぉぉぉぉぉぉぉっと調子乗ってるようだから、すこーーっしOHANASHIをし・よ・う・か・し・ら」
台詞途中でオニオンの頭を掴んだのは、ごごごごごごごっと背後から効果音が聞こえるほどというか、周囲に大小さまざまな亀裂を走らせるほどの現象を起こしてしまうほどの威圧を放つクレアお姉さんだった。
その佇まいは例え直接向けられなくても卒倒してしまう程であり、実際クラーラは気絶した。
本来ならこの時点でアーデルは元凶に向かって怒り狂ってもおかしくないわけだが、アーデルは動かない……否、動けない。
圧倒的な力の差を前にして動けなかったのだ。
だから、その威圧を直接受けたオニオンは滝のような汗が流れていた。
「い、いや……ボス。俺は別に悪気があってじゃなく、よりボスの事を知ってもらおうと」
「丁度いいわ。先日にサツマちゃんが例の薬のモルモットの補充要請してたからオニオンちゃん、ちょっとモルモットになってきなさい」
「ちょちょちょちょちょちょ!!!モルモットなら王国で害虫貴族と呼ばれてた奴らを大量に確保してたんだろ!!そいつらどうなったんだ!!!?」
「クズを生き地獄へと堕とす例の薬の効力が想定以上にきつすぎるせいで全員が使い物にならなくなったそうよ。このままだと未成年だからあえて軽い罰に済ませていた子達をモルモットにしないといけないそうだから……改めて言うわよ。実年齢50歳越えのオニオンさんがモルモットになってきなさい。パチン」
クレアお姉さんが指パッチンすると同時に、オニオンの影から伸びる無数の闇の手。
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉお!!!博士のモルモットにされるなんていやだアーーーーッ!!!!」
泣き叫びながら闇の手から逃れようとするオニオンだが、抵抗むなしく闇の手に掴まれてそのまま影へと引きずりこまれた。
ちなみにオニオンが引きずり込まれた影の先だが、デールマン曰く……
「影の先はサツマ博士の地下研究所だと思うけど、あそこって怪しげな人体実験を繰り返してる事ぐらいしかわかんないかな」
「そ、そう……」
一体どんな人体実験を行ってるかは結局わからなかったが、数日後に乾燥玉ねぎみたいな干からびた状態で温泉に放り込まれたオニオンの有様からして、大体何があったかを察した。
正確にいえば何があったかは不明だが、とにかく……
クレアお姉さんには年齢とは別の禁句が存在する。
この事実だけが察せられただけで十分であろう。
そんな一幕がありながらも修行は続いていく。
当初は100歳を超える魔女クレアの技と知識を盗むことを第一の目標として来たアーデル達も残り一週間になると聖女の力を解禁。
得た知識と技に聖女の力をプラスさせ、がむしゃらに挑んだ。
ありとあらゆる手段を試し、時にはデータを採取するためにあえて負け戦にも望んだ。
そうして幾度も勝負を挑み続け……
期限となる最終日……
「「「オニギリィィィィィ!!」」」
「とらがりー!!」
ドン!!
「「「グワーッ!」」」
相変わらず一撃でまとめて宙を舞う3人。
折り重なる形で地面に激突までワンセットながらも……今回は違った。
がくり……
膝をついた。
いつもだと余裕綽々に仁王立ちしてたクレアお姉さんが、今回ばかりは膝をついたのだ。
それすなわち……
アーデルはクレアお姉さんに勝てたということだ。
ピザを食ってやり過ごす以外になかろう……
ん……間違ったかな?




